第15話

 今泉晟は、私が二歳だった頃に、飛行機事故で亡くなったお母さんと入れ替わるようにして家にやって来た。実は彼が養子で、私たちと血は繋がっていないと聞かされるまでは本当の姉弟のようにずっと一緒にいたと思う。

 でも、前々から不思議というほどではないにせよ、ちょっとした違和感はあった。今泉家はお母さんがいなくなったことで父子家庭になり、経済状況はもちろん以前よりも悪化するはずなのだ。そんな時に、何故お父さんは晟を養子にしたのか。

「実は、古事記でもはっきりされていないんだよね、神武天皇が雲隠れした場所。でもまあ、一般的には高天原で崩御してそのまま遺体も高天原で眠っているって認識が主流かな」

 九州のテロで勾玉が使われた時点で、私は既に犯人が晟であることを確信していた。そして、晟は高天原を標的としてテロを行っている。

 そして、私の頭に浮かんできたものは、今日の午前に瀬田先輩と調査したお父さんの書斎、その奥の奥にしまってあった変な本と書類だった。

 曰く、細胞やらDNAやらクローンやらと、劣化の激しい骨の写真と医療用語だらけのクローン作成書。

 もしかしたら晟は高天原を襲っているんじゃなく、この骨が発見された遺跡を探していたんじゃないのかと、私は考えた。

じゃあその遺跡は誰の遺跡だ?

私はそれに葛城王朝説を重ね合わせた。その中で最も高天原と縁のある人物は、神武天皇だった。

…………。

 ……。

 二〇数年前、とある飛行機事故で私のお母さんが亡くなった。そしてお父さんは、その何年後かにお母さんを見舞いに、この通称御巣鷹、正式名称高天原山へと足を運んだ。それで話が終われば良かったものを、何の偶然か、お父さんはそこで神武天皇と呼ばれる男の遺体を発見してしまった。その時のお父さんが一体どんな心境だったのかなんて分からない。ただ唯一言えることは、お父さんはそこで、決定的に人として道を違えてしまったということ。

 そうして、私の家に晟がやって来た。

「真優は昨日言ったよね、『相変わらず、自分がないね、晟は』って。ねえ、教えてよ。僕は誰?」

 何故あの時あんなに晟が悲しそうな顔をしたのかが、今になって分かる。晟にとって自分とは、私たち以上に大きな意味を持つものだったのだ。

「ずっと悩んでた。僕は一体誰で、どうしていたら良かったの? いちいち起こす行動その全ての影に、二〇〇〇年前の僕が顔を出して付きまとうんだ」

 私は黙って聞いていた。晟の、今初めて打ち明けた、心の奥にある本音というものを受け止める。

「僕は、誰だ?」

 私には晟の気持ちなんて分からない。

「だから考えたんだ。僕はどうするべきなのか。どうしたら僕は僕になれるのか。そして、ある答えに辿り着いた」

 晟の気持ちなんて、分かりたくもない。

 だって、それは晟個人の、固有の人間性を否定するものだから。

 私は晟をありのままに受け止める。


「――僕は、もう一度この国を統治する」

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