第1話
照人の殺害場所である畝傍山東北陵資料館は、初代天皇である神武天皇陵に併設された資料館である。照人は夜中に殺害されたとみられているが、照人のポケットから鍵が見つかったこと、入口ドアのガラスが破壊されていることから、照人がこの資料館に鍵を使って入った後、犯人は施錠されたドアを強引に壊して照人を追い詰めたのだろうと思われる。
八日、午後二時。私こと今泉真優と瀬田先輩は刑事であるという特権を利用して照人の殺害現場へとやって来ていた。
犯人に鉄槌を下すと勢い込んではみたもののやっぱり冷静に考えてみるとどうして良いか分からずに、私はこうして先輩刑事である瀬田先輩に頼ってしまった。
「……ホントに良いんですか? 私刑事が殺人事件の現場に入るなんてドラマの中だけの世界だって、確か配属初日に言われた記憶があるんですけど、瀬田先輩」
「まあまあ。お父さんを殺した犯人捕まえたいんでしょ? こうでもしないと手に入れたい情報だって掴めないって」
「はあ……」
瀬田先輩はこういった時に躊躇いなく行動のできる頼れる刑事だった。たまにはその無鉄砲な危うさで周りの人間にまで迷惑をかけてしまうことがあるけれど、それも含めてやっぱり瀬田先輩はどこかカワイイ……愛嬌のある……人間味に溢れる、人だった。
大きな部屋に出る。おそらくここがメインの展示室なのだろう。そしてその部屋の中央近くには……お父さんのだと思われる、血の痕があった。血痕は、今私たちが入ってきたのとは別の入口から線のように延びてきていて、部屋を壁伝いに回った後に中央へと向かって、そこで途切れていた。
瀬田先輩が現場状況の保持を気にしながらその中央へと近づいていく。私も遅れまいと急いで彼女を追った。
そして、
「……ダイイングメッセージ?」
血液で遺された、あまりにもミステリーなものを見つけてしまった。
しきをつれかふのさもたのしね
「四季を連れかふのさも楽しね? 死期を連れかふのさもたの死ね?」
「『かふ』を現代仮名遣いで『こう』と読むとして……四季を連れこうのさも楽しねって感じですかね? ううん、お父さんのことだし、多分そのまま読むんじゃないと思います。文字を並べ替えたりすると案外イケるかも……」
小さい頃によく色々なパズルを与えられて遊んでいた経験が役に立つ時がきた。まあ暗号班みたいなものに回せば良いんだけど。
血のメッセージをメモ帳の中でこねくり回して作ったそれらしき文章を瀬田先輩に見せてみる。
「……こんな感じですかね?」
ふたつのれきしをかさねしもの
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