短冊

 夏休みが空け、学校中を探し回ってみたけれど、やはり水城の姿は何処にもなかった。

 そんな学校生活は空虚で物寂しいものでしかなかった。


「ほんとにいなくなったんだな」


 夏休みは塾と家との往復で、あまり水城の事は考えなくてて済んだが、学校が始まり改めてそのことが実感してしまう。

 寂しいなら連絡とれよと思うかもしれないが、水城の連絡先はいつの間にかアカウントが変わっていてもう連絡をとる手段がない。


「せーんぱいっ!」


 そんな溌剌とした声音で俺の事を呼ぶ彼女が今となっては名残惜しい。

 新学期が始まって変わった事といえばあまり図書室に行かなくなったと言う事だろうか。

 あそこには思い出が多すぎてなんだか自然と足が遠ざかってしまっていた。

 だから昼休みになると教室でふて寝するか校長のように特に用があるわけでもないのに校内をぶらぶらとすることが多くなった。そして今日はその二択の選択肢のうち、校内ブラブラの旅を選択していた。

 別に何処にいこうという訳ではなかったが、今日はいつの間にか校舎を出て裏門の前に来ていた。


「……戻るか」


 特にこの場所に予定も無いので教室に戻ろうとしたその時、


「ん?」


 裏門の横に設置してあるゴミ置き場に山ほどの短冊を付けた笹竹が捨てられていた。


「そーいや俺も書いたんだったけ?」


 そんな懐かしい思い出に引き付けられ、俺は自分の書いた短冊を探す。


「皆好き勝手なこと書いてるな」


 ――彼氏が欲しい。

 ――彼女が欲しい。


 大概はそんなもので俺みたいに健康第一みたいなやつはいなかった。カレカノ作る前に健康の方が大事でしょ。もしかしてこの学校の奴らは馬鹿なのだろうか?

 そんな中、1つの短冊に引き付けられる。

 その短冊に書かれた願いは――


『先輩とまた出会えますように。水城美波』


「……どうしても叶えたい願いってこんなことかよ。ほんと……バカ……だな」


 最近涙腺が滅法弱くなった気がする。

 目頭が異常に熱い。


「……お前のいない毎日なんて退屈だよ……俺だって……会いたいよ」


 その声は曇一つない晴れ晴れとした青空に虚しく消える。



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