つまりそういう事らしい。

「はーい、取り敢えず中間テストお疲れ様ー。この中間の成績から各々感じる事はあると思うけど期末のテストも頑張るように!」


 GWが明けると直ぐに中間テスト、そこからテスト返しと五月病になる暇もなく怒濤の勢いで時間が流れていった。気になる俺の成績はというと、大概は平均点。

 数学は先日水城が見てくれたのもあってかいつもより出来がよかった。テストが返ってきた時は無性にテンションが上がって誰かに自慢してやりたくなったものだ。

 だけど悲しいかな、友達がいないからこの喜びを誰にも共感してもらえない。

 友達って大切だよね。久しぶりにその事が身に染みた。

 けれども興奮は収まらなくて。

 だからなのか、家路に着くと俺は何を血迷ったのかドヤ顔のウキウキ、ワクワクで麗に報告して「は? 中間でその点数? あにぃちゃんと勉強したの?」と嘲笑されて血反吐を吐いた。

 そういえば麗のやつ性格は悪いが頭よかったらしい。完全に報告する相手を間違った。今年のクリスマスはサンタさんにお兄ちゃんに激甘の寛容妹がほしいとでもお願いしてみようかな。誰か妹が急に優しくしてくれる方法を教えてほしい。玄関先に落ちてたエロゲを拾って届ければいいのだろうか? 駄目だ、ポケモンじゃないんだからエロゲがそう簡単に玄関先に落ちてるわけがない。よくてわざマシンかキズグスリといったところか(何言ってるの俺?)。

 そんな感じで辛辣な妹様に褒めて貰う事は諦めて、学校で唯一話をする妹よりかは優しい彼女に俺の数学の頑張りを自慢してやろうと今日は久しぶりに昼休みに図書室を訪れていた。

 いや、別に待ってなんかないんだからっ! 只の習慣なんだからっ! 図書室にしか居場所がないだけなんだからっ!

 暇を持て余した俺のツンデレ三コンボを披露して待ってはみたものの、結局昼休み中に彼女は図書室に表れなかった。何か用事でもあったのだろうかと特に気にも止めなかったがそれから一週間経っても水城が図書室に訪れる事はなかった。

 あれれ~おかしいなぁ~?

 おかしい。ほんとにおかしい。俺の中からコナン君が出て来てしまう程におかしい。もしかして俺ってば水城に何かしちゃったっけ? 胸に手を当てて思い返してみるものの、特に思い当たる節はない。まぁ、いつも何かと言い争っていた気もするがそれは毎回の事であったし理由とは考えにくい。ならば他に理由が? と、考えてみるも答えは出なかった。

 それからも一向に水城が図書室を訪れる事は無く、今日で五月も終わりだというのに相変わらず水城は図書室に顔を出してこない。これは本格的に何かをやらかしてしまったなと考えながら図書室を後にし教室へ戻る最中、見覚えのある褐色に染まったセミロングの女の子が視界に入った。


「水城~」

「ふぇ⁉」


 背後から声を掛けると突発的にでたのか可愛い声音に身体をビクつかせて恐る恐る俺の方を顧みてきた。水城のやつ俺の顔を見るや否や断末魔みたいな顔をしやがって。一体俺のことをなんだと思っているのだろうか? 鬼か何かとでも思っているのだろうか? オニちゃんと間違えたのなら許すよ。おいっスー!


「久しぶりだな、最近は忙しかったのか?」

「え、えーと……その、まぁ……」


 ばつが悪いのか歯切れ悪く話す水城は俺と目を合わせることなく瞳を端に寄せて額には脂汗を浮かべていた。どしたのこの子。何かヤバイ薬でもやっているのだろうか?


「まぁ元気ならよかったんだけどさ。それよりこないださぁ――」


 数学の点数がいつもよりよかったと伝えるためにそう話を切り出すと、水城は急に顔をを赤くして狼狽しだす。どうしたんだろ水城の奴。


「す、すみません! し、失礼します!」

「えっ、ちょっ」


 そう言って話の腰を折ると直ぐ様踵を返して廊下を掛けていった。

 ぬぅ。

 これは完璧に俺は何かをやらかしてしまっているようだ。完璧に避けられた。理由はまだ分からない(吾輩は猫である風)。

 それからというもの、偶に廊下で出会すと声をかける前に逃げられるようになった。

 相変わらず水城は図書室には顔を見せない。

 そんな日々が続き気付けば六月も半ば。

 相変わらず水城が俺のことを避ける理由は分からない。

 俺の中のコナンくんも別の意味であれれ~? と、悩乱していた。俺の中のコナンくんは名探偵ではなく迷探偵だったらしい。


「はぁ、ほんとにどうしたものかね」


 そう呟いて俺は自室のベッドにダイブする。最近はため息をついてばかりだ。心なしか体も重い気がする。これ以上、俺一人で考えてもどうにもなりそうにない。


「仕方ない」


 あいつにだけは頼りたくなかったんだけどな。

 覚悟を決めた俺は自室を出て正面の扉の前に立ち、コンコンと手の甲でドアを二回叩く。


「麗、ちょっといいか?」

「……何?」


 ドアの透き間から片目だけを覗かせて俺の事を垣間見てくる麗。目が怖い。


「立ち話もなんだし入ってもいいか?」

「は? なんで?」


 何故お前を部屋に入れなければならないのだとあからさまに不快な表情を浮かべる麗。

 普段俺の部屋にはノックも許可も取らないで勝手に入ってくるくせに自室に他人を入れるのは嫌らしい。いや、もしかして俺だから嫌なのだろうか? え、何それまじでショックで死にたくなるんですけど? てか、目がマジで怖い。


「す、少し相談があってだな」


 だからと言ってここで気後れして引き返すわけにもいかないので狼狽しながらも食い下がる。

 そんな俺の意気込みを察してか麗の表情に真剣さが増してくる。


「ふーん。ここでじゃ駄目なわけ?」

「あぁ」


 如何にも大事な相談事をするかのように真剣な面持ちで二つ返事をする俺だが、立ったまま話すのが面倒だからとかそういうわけでは決してない。


「……っそ。終ったら直ぐに出ていってよね」


 相変わらず怪訝な表情と言葉はいつも通り辛辣なものに変わりないが、俺のマジな声のトーンと表情から真面目な相談だという事を感じでくれたらしく、麗は意外にも簡単に部屋へと招いてくれた。


「ありがとうな!」

「……別に」


 そんな優しい妹ちゃんに目尻を下げてお礼を述べると、素っ気ない返事が返ってきた。

 はたから見ると可愛いげのない、けれども兄だから分かる照れ隠しのその言葉に思わずほっこりとしてしまう。


「で、話ってのは何?」


 早く終わらせたいのか部屋に入って麗のベッドに腰かけると、勉強机の椅子に座った麗が前置きや建前をすっ飛ばして単刀直入に訊ねてきた。

 まぁ、俺にとってもそっちの方が都合がいい。


「まぁ例えばの話なんだけどさ。普段麗が仲良くしてる奴を避けようと思うときってどんな時?」


 だから俺も俺の抱える疑念をそのままぶつけてみた。


「……何? あにぃ誰かと喧嘩したわけ?」

「いや、喧嘩とかじゃないとは思うんだけどな……まぁよくわからねぇ」


 まぁ、だからこうやって相談してるわけなんだけれどもさ。

 てか、何で俺自信の事を相談してるってバレちゃってるの? 一応例えばってつけておいたのに。まさかこの子エスパー?


「あにぃの事避けてる人ってこの前あにぃが家に連れ込んで如何わしい行為を無理矢理強要したあの女の人の事?」

「そんなこと俺してないんだけど⁉ 勉強会してただけなんだけど⁉ 何回も言ってるよね? いつになったら信じてくれるの? 避けられてるのは本当だけど!」


 水城の変から一ヶ月近く経とうというのに、未だに麗は勘違いをしたいるようで毎回過度な言及をしてくる。


「じゃあ二人っきりで何してたわけ?」


 何故かあからさまに機嫌が悪くなる麗。


「勉強っつてんだろ。何回目だよこの質問」


 ほんと麗の奴しつこいんだから。

 もう勉強じゃなくても勉強でいいじゃん。

 いや、ほんとに勉強しかしなかったけどさ。


「何、それは保健体育の実技の勉強か何かだったわけ?」

「麗ちゃん何言っちゃってんの⁉」


 まさか妹から下ネタを言われる日がくるとは思ってもみなかった。


「ま、あにぃの事だしどうせそんなことできないんだろうけど」


 よく俺の事を分かってるじゃないか我が妹よ。そんなにも俺のことを理解しているのならば何故そんなことを口にしたのだろうかこの子。ほんと、意味わかんない。


「で、なんだったけ? その人から避けられてる理由だったっけ? 普通にあにぃが卑猥なことしたからじゃないの?」

「だからしてねぇって! お前どんだけそっち方面に話を持っていきたいんだよ!」


 この子もしかして変態なのだろうか? 隠れ変態なのだろうか? ムッツリなのだろうか? まさかこいつ学校とかでも下ネタ連発させてないよね? 下ネタ嬢王とか言われてないよね? どうしよう、お兄ちゃんとしてここはどうすればいいのだろうか? ここはお兄ちゃんとしてちゃんと注意した方がいいよね? そうだよね?

 よし。


「麗」

「……何?」


 覚悟を決めた俺は1つ大きな吐息をついて、真っ直ぐ麗を見据える。

 そんな俺の真剣な顔に何かを感じ取ったてくれたようだ。相変わらず目が怖い。

 でもここで狼狽えるわけにはいかない。横道にそれた妹を真面な道に戻すのも兄の仕事だ。ここは一肌脱ごうではないか。


「麗、女の子が率先して下ネタを使うってのはどうかと思うぞ。女の子の品ってものが問われるからな」

「別にあたしが何言おうとあにぃには関係ないじゃん」

「関係あるさ。俺は麗にそういう界隈の言葉を使ってほしくないからだ」

「……何で?」

「何でってそりゃあお前――」


 女の子がそんな言葉を使ってるのをみた男が裏でどんな事を言ってるのか麗は知らないのだろうか? ビッチと罵られ、変態だとかあいつだったらヤレるんじゃね? みたくな事を陰で言われる。他人なら特にに気にも留めないのだが、これを妹が言われていると考えると強ちどうでもいいとは言えない。というかそんな奴がいたらぶん殴ってやるレベル。


「そんなのお前が大事だからに決まってるだろ」


 妹が悲しむ顔をなんて見たい兄貴なんて居ないだろうからな。少なくとも俺はそうだ。だから癖になる前にやめさせておかねば。下ネタ連発してる奴が癖で言ってるかどうかは知らないが。


「……馬鹿じゃないの」


 一瞬目を見開いて驚いたような表情を見せた麗だが直ぐに元の顔つきに戻り、消え去る様な小さな声でぼそりと呟いた。


「バカっておまえ大事なことなんだぞ?」

「何かあにぃ勘違いしてるみたいだけど普段下ネタとか使わないし。ムカつく色ボケクソ兄貴にしか言わないし」

「ムカつく色ボケクソ兄貴⁉」


 俺は麗からそんな風に見られていたとは。まさかの妹を好きなのは俺だけかよ。

 好意の一方通行。

 ふぇーん、お兄ちゃん悲しいよぉ。


「でも……ありがと」

「ん?」


 目線を明後日の方向に向けて、右手で左腕を抱くように握り、独り言の様に小さく呟く。心なしか麗の頬が赤い気がする。

 これには驚いた。


「な、何?」

「いや、麗が俺にありがとうなんて珍しいなと思って」

「麗だってお礼の一つくらい言えるし」

「そ、そうか」


 分かったからその人を殺すような目は止めて頂きたい。マジで怖いから。ちびっちゃうから。


「だからお礼にちゃんと聞いたあげる。あにぃの悩み」


 含み笑いと共に穏やかな声音でそう答える麗だが、今おかしなことを聞いた気がした。


「あれ、麗ちゃん。最初から聞いてくれるはずじゃなかったの?」

「ん、適当に流そうと思ってたけど」

「なんですと⁉」


 すごいですねこの子。建前とか知らないのかな? 嘘でもいいからそこはバリバリあったよとか答えとくべきでしょそこは。もう麗ちゃんの常識の無さに恭介びっくり!


「でも今度はちゃんと聞くから。真剣に。だから聞かせて? あにぃは何に悩んでるのか」


 俺の横に座り直して真っ直ぐ俺の事を見据える麗。

 その目に嘘はなさそうだ。

 だからおれも真剣に応えなければならない。

 ありのままに、真っ直ぐに。


「ありがとうな麗」

「……別に」


 そっぽを向いて平常な声で返す麗。

 それでも体は正直なようで頬が仄かに赤く染まっていた。

 相変わらず俺の妹は素直じゃないようだ。


 ☆ ☆ ☆


 それから俺はこれまでの経緯と今俺が直面している問題について麗に話した。

 ある日図書室で細々とスマホで執筆しているといつの間にか隣に水城が座っていてそこで彼女と出会ったこと。

 俺の書いた小説を読んでくれて感想をくれたこと。

 情景と心理描写が足りないからといって俺の技術向上の為に休日一緒に出掛けてくれたこと。

 パンケーキを食べに行ったこと。

 一緒に帰ったこと。

 一緒に勉強したこと。

 でも最近は何故か避けられていること。

 そしてその理由が分からずに一ヶ月以上彼女と疎遠になっていること。

 そんな状況に困惑している俺はどうしたらいいか分からないこと。

 全て話した。


「なるほどね。あにぃは自分がリア充であることを自慢したかったわけだ」

「なんでそーなった?」


 おかしい。

 俺の話し方が悪かったのだろうか? 結構まじな相談をしたつもりなのに。

 そんな冗談の返しとかお兄ちゃん期待してないのに。

 というか麗の表情が怪訝なものへと変ってる気がするんですけど。気のせいですかね?

 いや、気のせいじゃないなこれ。だって麗の目が死んじゃってるもん。虚ろだもん。

 おかしい。真実しか話していないのに何が悪かったのだろうか?


「で、話はそれだけ? おわったなら早く出て行ってほしいんだけど」


 あからさまに不機嫌な麗。一体何がそうさせたのだろうか。マジでわけわかんねぇ。


「ちょっと待てよ麗! さ、さっき俺の話を聞いてくれるって言っよな? あれは嘘だったのか?」


 先程の綺麗な透き通った目は一体何処に行ってしまったのだろうか?

 今の麗はどんよりと曇りきったへどろのような瞳をしているぞ。

 一体この短期間に何があったというのだろうか。

 もしかして俺の口臭がやばかったとか?

 でもそんなこと一度も誰にも指摘されたことないしなぁ……。

 あ、それって俺が普段誰とも喋らない悲しいぼっち野郎だからかぁ! アハハ! なんだそっかそっか~! 何それ超ウケないんですけどっ⁉


「何言ってんのあにぃ。だからちゃんと聞いたじゃん」

「ん? どういうこと?」


 麗が何を言っているのか俺には理解できなかった。


「だから麗は真剣話を聞くとしか言ってないし。誰もアドバイスするとか言ってないし。お分かり?」

「うん。お前の性格が大分捻くれている事が改めてわかったかな」


 全くいい性格をしているではないかこのクソ妹ちゃんめ。話を聞いてくれるだけでいいなら電化製品か家具か動物にでも話し掛けるっての。悪い意味で期待を裏切らない麗。流石と言えば流石か。

 てか、お兄ちゃんはアドバイスが欲しいからこんな小っ恥ずかしい事をわざわざ妹に話したというのに。酷い、酷すぎる! 初めてだったのに……穢されちゃった……。

 俺のピュアな乙女心をズタボロにするとは麗の奴、絶対に許さないんだから!

 もういい。俺は怒ったぜ。こうなったら無理やりにでもアドバイスを訊き出してみせる。


「で、麗ぁ。俺はどうすればいいと思う?」

「そうだね、先ずは麗の部屋から早く退散してくれると助かるかな。麗も色々とやることあるし」


 ほんとにこの子は話しか聞いてくれないのね。何なのそれ。そんな事あるものなの? 麗ちゃんに慈愛という感情は無いの? 厳しいよ。お兄ちゃんに対して厳しすぎるよ!

 もう誰でもいいから早く冗談だと言ってほしい。


「そんな事言わずにさぁ。頼むよ麗」


 もう一人では充分考えた。

 考えたはずだ。

 でも、考えても何も答えは出なかった。

 だからこうしてほんとは絶対に頼りたくない相手いもうとに頼っているというのに。

 なのにどうして麗は分かってくれないのだろうか。自然と拳が固くなる。


「はぁ、あにぃってばほんと何にも分かってないよね」

「どういう事だ?」

「仮に麗があにぃの相談に乗ってあげたとして麗には一体何のメリットがあるわけ?」

「それはその……」


 何も答える事ができなかった。


「あにぃはさ、お金を返してくれそうもない人にわざわざお金を貸すわけ? 麗は絶対無理」

「お、おう」


 流石は麗。見返りの無い投資はしないという事か。


「だからもし、あにぃが本気で相談に乗ってほしいんだったら、それ相応の対価を麗にも払わないといけないといけないって事。自分が自分がだけじゃ誰も動いてはくれないの。わかった?」

「ぬぅ」


 不覚にも納得させられてしまった。この妹ちゃんめ中々優秀ではないか。この子投資家とかに向いてるよきっと。銀行マンになれちゃうよ!

 だが分かったことがある。麗は対価を払えばちゃんと相談にのってくれると言う事だ。

 ここは形振り構っていられない。その対価というものを払ってやろうではないか。


「わかった。で、いくらだ」

「……馬鹿なの?」

「にゃ、にゃんですと⁉」


 何で俺は罵倒されちゃったわけ⁉ なんか変なこと言いましたっけ、俺?

 あ、もしかして麗ちゃんってばいくらってマスかサケの卵のことだと思っちゃったのかな? プププ、麗ちゃんってばかわいいなぁ~。でもでも大丈夫っ! ちゃんと諭吉は払うからっ!


「あにぃはなんか勘違いしてるみたいだけど誰もお金が欲しいとか言ってないから。てか悩み相談とお金じゃ割に合わないでしょ。ほんとあにぃってバカだよね」

「ぐ、ぬぅ」


 いや、貴方がさっきお金の話したからてっきりお金がほしいんだって思うじゃないですか。はっ、まさかこれが巷で噂の叙述トリックというやつなのだろうか?  柏木麗恐るべし。


「じゃ、じゃあ一体何をすればお前は俺の相談を聞いてくれるんだよ?」

「そりゃあにぃは麗の大事な時間を使おうってんだから麗にもあにぃの時間を使わせてくれなきゃ割に合わないでしょ?」

「……確かに」


 不覚にも納得してしまっている俺がいる。


「じゃあ麗は俺に何してほしいわけ?」

「へー、あにぃのくせに意外と飲み込み早いじゃん」

「当たり前だ。本気を出せば俺だってこれくらいはできる」

「……まぁ常人は本気を出さなくてもそれくらい理解してくれるんだけどね普通」


 相変わらずディスりっぷりに人をディスらせたらこの子の右に出る者はいないんじゃないかと思わせる程口を開けば俺をディスってくる麗。

 なんだ、お前の脳みそは俺をディスれと頻繁に電気信号流してんのか? どんだけ俺の事嫌いなんだよ。脳が嫌ってるじゃん。生理的に無理とか軽く超えてくるじゃん。一回病院に行こうか。いや、お願いだから精密検査を受けて下さい。ほんとに。お兄ちゃんもう辛い。グズン。


「アハハ、そうなのね。で、麗様は一体何をご所望で?」


 そう言いながら左頬が痙攣して何度も波打つ。自分でも顔が引き攣っていることが分かる。このまま痙攣が止まらなかったらどうしよう。マジで怖い。

 てか、麗は俺に何をして欲しいのだろうか。俺の相談と同等の事ではあると思うから大した事ではないと思うが。

 でも何だろう。物凄く嫌な予感しかしないのだが。だって麗だし。

 何を命令されるのか分かったものではない。

 三秒間だけ死んでっ☆ とか笑顔で言われたらほんとどうしよう。

 三秒間死ぬって一体どうしたらいいの? 息止めてればいいの? それとも心臓を三秒間止めろってこと? 何それ、四秒後にはちゃんと生き返れるの? 考えただけでも恐ろしい。

 いや、考えても無駄か。

 もう、何でもいいからドンと来い! ってやつだよ。やけくそだった。

 取り敢えず話だけは聞いておこう。


「そうだな。一つ……麗のお願いを聞いてくれたら、それで手を打ってあげる」

「おう」


 まぁ、そのお願いの内容によるけどな。


「あにぃは週末暇?」

「まぁ、家にはいるな」


 まぁ寝てるか、ラノベ読んでるかアニメを見るしかしないだろうしな。


「じゃあ、一日付き合ってくれない?」

「何かするのか?」

「うん、ちょっと出掛けたいところがあるの」

「……俺と、か?」

「……うん」


 恥ずかしそうに前髪を弄り、そっぽを向いて細々とした声で話す麗。

 つまりそれって……。


「あたしとデートしてほしいの」

「はえ?」


 つまりそういう事らしい。


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