やはり妹は分からない
「ただいまー」
「ちょっとあにぃ! 今の今まで誰と何処に行ってたのさ!」
水城と駅で別れ、灼熱地獄を歩くこと数十分。やっとの思いで、帰路に着や否や待ち構えて居たのか、諸手を腰に当てた麗が玄関先で突っかかって来た。
「別に誰とでもいいだろう。知り合いだよ、知り合い」
後輩の女の子と小説の為とは言え、デートして来たなんて言ってしまった即下には夕食のつまみにされかねないので死んでもそんな事は言えない。というかあれを先ずデートと言えるのだろうか? ファミレスにしか行ってねーぞ今日。
そんな今日一日を思い返していると、目の前に立つ、妹からの視線が気になる。見ると、ジト目で俺の事を睨んでいた。
「ふーん。知り合いねぇ……」
「何だよ?」
「ふん、別に……」
素っ気なく麗はそれだけを告げると、ぷいっとそっぽを向いてしまった。その所作はいじけているようにしか見えなかった。何故に? そんな麗の今の感情が全く理解出来なかった。まぁいいか。そのまま靴を脱いで階段へと一直線へ続く廊下へ上がる。
「それより麗、お前暑くないのか? こんな暑苦しい廊下に居て。早くクーラーの効いた部屋に行こうぜ」
今日の天気の所為か廊下の空気までジメジメトとして、体に纏わり付いてくる嫌悪感さえあった。
「はぁー、あつっー。それにしても今日は暑すぎたわ。よかったな麗。お前、今日特に予定とかなかったんだろ?」
「……まぁ、予定は無かったけどさ」
数歩、進んだ先の右手側の取っ手を押してドアを開く。このドア開けた先にはきっと天国が。あぁ、やっとこのジメジメとした体に纏わり付く嫌悪感から解放される。
そんな解放感にも似た安心感を体感できると期待してドアを開けると――
「…………ありゃ?」
体に纏わり付く嫌悪感は消えてくれなかった。
「麗、お前こんなに暑かったのにクーラー点けてなかったの?」
「い、いやーそ、そのー。……あれだよ! 麗、ずっと部屋にいたからさぁアハハ」
何故か麗は俺と目線を合わせる事なく時折言葉を詰まらせながらそう答えた。
「あー、そうなの? なら仕方ねーな」
「アハハ、ごめんね、あにぃ。ふぅ」
何故か胸を撫で下ろす麗を俺は理解出来なかった。
「あーそれならリビングが涼しくなるまでお前の部屋で涼ませてくれよ」
「あー、麗の部屋でね。別にいいけど――って、は⁉」
「おー、まじか、サンキュー」
麗の承諾を得るとリビングを出て階段を上り麗の部屋へと向かう。
「ちょっ、ちょっと待ってってあにぃ!」
階段の下から麗の声が聞こえたがこの暑さだ、そうも待ってられない。ドタバタと麗が階段を駆け上がって来る音が聞こえる。そんな事など気にすることも無く、無造作に麗の部屋のドアを開け放つ。
開け放たれた部屋からは深緑の森林の中、小川のせせらぎが聴こえて来るような、そんな如何にも涼しい光景が目の前に――現れ無かった。
あ、暑い。室温は廊下と全く同じだった。
「えっ、クーラーは?」
そんな訳の分からない状況に困惑していると、麗が階段を上りきっていた。
「おい、麗ぁー、全然涼しくないんだけどぉ!」
文句の一つや二つ垂れてやろうと後ろを一顧すると……。
「あにぃ……何、勝手に人の部屋開けてんのよーーーーーー!」
鬼が背後に居た。
「何でって、お前がいいって言ったじゃねーか――って、ドファーーーーーーーーーー」
階段を駆け上がって来た勢いそのままに、麗は背後から飛び蹴りをかましてきた。
小川の代わりに三途の川が見えそうだった。
「麗ちゃん何しちゃってくれてんの⁉ 俺ってば今、どこか別世界に旅立っちゃうのかと思ったよ⁉ えっ、何? 異世界転生ってこうやってするものだったの⁉」
「異世界転生? 何言ってんのあにぃ。それより麗は部屋に入っていいなんて承諾してないし。ちゃんと待ってって言ったし」
「いや、俺も部屋には入っては無かったよ! 寧ろ、麗に飛び蹴りされた所為で入ちゃっただけだからね⁉」
「むっ、今はそんな事どうでもいいの! それより早く出て行って!」
「わ、分かったって」
わざわざ蹴り倒してソリー並に滑らせて入れてくれたのに、麗は俺の手をとり起き上がらせ、背中を押して部屋から出て行かせようとしてくる。
そんな訳の分からない行為をしてくる麗を一顧すると、視界にベッドの上に無造作に脱がれた部屋着が見えた。
「ん?」
その服は俺が昼時、出掛ける時に見たその服に間違いなかった。
「麗、お前今日どこか出かけたのか?」
「うえっ⁉ ななな何で?」
あからさまに動揺する麗。よく見れば麗の奴汗ばんでるし。何か俺に隠してるな。直感的にそう感じた。
麗を見ると、黒のショートパンツに白のTシャツ姿だった。
「俺が出掛ける前と服装違うし」
「そ、それは……えと、その……あ、暑かったからで」
「それならなんでクーラー点けてないの?」
「え、ええとそれは……その……」
段々と麗の歯切れが悪くなり、首を曲げて俯いてしまう。
「だって……あにぃが…………だから……」
「俺が?」
所々声が小さくて何を言っているのかよく聞き取れなかった。
「……だから…………あにぃには関係ないからさっさと出て行って!」
「え、うわっ!」
背中をドンと押され、無理やり部屋から出されると勢いよくドアを閉められる。
「麗の奴、何を怒ってんだ?」
やはり妹というのは分からないものである。
「にしても暑いなぁ」
仕方なく俺は暑さを和らげるため、冷水のシャワーを浴びる事にした。
「冷たっ!」
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