瓦礫の塚
カラン、カン、カラン、と転がり落ちていく音がした。
大小さまざまな岩塊やその破片。それらの大部分は一か所にうず高く積み重なり、ちょっとした山、あるいは大きな塚となっていた。そのどこかから崩れ落ちた小さな欠片が音を立てて落ちてきたのだろう。
「……カジナ様?」
「ああ、いや、なんでもないです。行きましょう」
気遣わしげなイェーナの声に答えながら、俺は振り返って歩き出す。
今ここにいるのは俺とイェーナと、イェーナが抱き抱える少女ベアトリス。あと、灰色目玉ことカジン・ケラトス様だ。
トビアスとラウレンスの二人はというと、負傷を回復してから向かうとのことで今は治療に専念している。何でも、この世界では縁の深い神に祈りを捧げればちょっとした怪我程度ならすぐに治ってしまうらしい。
この祈りによって回復するという現象、便利といえば便利なのだが、本人に意識がない場合にはどうしようもないという欠点がある。そうした時に本人に代わって祈りを捧げることができる高位の神官――代理祈祷師という者もいて、それがこれから向かう西の砦にもいるという。
まずはそこまでベアトリスを届けて傷を治してもらうというのが直近の目標だ。
まあそれはいいとして、
「やっぱり俺が背負った方がいいんじゃ……」
俺が話しかけるのはベアトリスを一人で背負っているイェーナに対してだ。
一応恩人という立場とはいえ、俺がまだ会って一日もない他人だというのは分かってはいるし、そうおいそれと仲間を預けられないという気持ちも分からなくはない。
だが、流石に人一人を背負っていくのは大変だろうと声をかけたのだが……。
「いえ、ご心配には及びません。これでも多少は鍛えてますので、このくらい軽いものですよ。それに……」
「それに?」
「……カジナ様のことを悪く言うつもりではないのですが、その、ベアトリスも女の子なので、気を失っている間に見知らぬ男性に体を触られるのは、その……」
言われて初めて、俺はその点に思い至った。これは完全に俺の配慮が足りなかった。
「あっ、そうですよね。えと、じゃあ任せます……」
「はい、お任せを!」
そして俺たちは歩き出した。
ふと、俺は隣に浮かぶ灰色目玉を見上げた。これまでなら俺たちの会話に割り込んできたような気もするのだが、今は何故か静かだった。
「あのー、カジン・ケラトス様?」
「……やれやれだな」
はて?
「えっと、何がですか?」
「おめーにゃ関係ねえ話だ。さて、西の砦とやらに向かうんだったな」
いやまあそうなんだけどさあ。やっぱりこの
なんてことを考えながら、俺は一人と一柱と共にすっかり静かになった荒野を歩いていった。
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