お金があれば何でも出来る、資本主義万歳っ!

「それで、次はどうするのですか?」


「うん、そうだな」


 セレスの声でネガティブ思考から脱し、真一は前向きで現実的な話に戻る。


「俺の故郷には『パソコンも、OS壊せば、ただの箱』という諺があってな」


「はぁ……」


「簡単に言うと、命令を下す頭を潰せばそれで終わりって事さ」


 適当な諺をでっちあげ、真一は神殿の横に立つ大きな城を見上げた。


「つまり、この国の王を倒す」


 魔王討伐の命令を出しているのだろう、ボア王国の主を倒してしまえば、勇者とは戦う必要すらない。


「戦わずして勝つ、これぞ兵法の奥義さ」


「あれこれ勇者の事を調べておいて、結論がそれですか」


「調べたからだよ。不死身のカラクリが解けない以上、勇者の相手をするのは非効率的だ」


 それに、国王という頭さえ抑えてしまえば、さらに勇者が増えようと関係なく、魔王城の平和は保たれる。


「しかし、勝てるのですか?」


 国王=最強の存在と、魔族的な基準で考え心配するセレスに、真一は心配ないと頷いてみせる。


「大丈夫だろ、別に殴り合うわけじゃないし」


「はぁ?」


「政治家との戦いを決めるのは、口と、そしてこいつだからな」

 そう言って、腰に下げたズシリと重い袋の中から、一枚の銀貨を取り出す。


「お金があれば何でも出来る、資本主義万歳っ!」


「ゲスですね」


 人間社会の仕組みは分からずとも、それだけは間違いないと、セレスは冷たい声で断言するのだった。


                   ◇


 国王トルトス四世の仕事は、朝の謁見から始まる。


 臣下の貴族、街の商業を支えるギルドの長、他国からの使者。

 彼らの進言や要望を謁見の間で聞き、宰相達とも相談の上で回答する。


 わざわざこんな仰々しい真似をせずとも、書面でやり取りすれば早かろうとは思うが、臣下や使者に威厳を見せつけるのも、国王の仕事であるから仕方がない。


(司教の傀儡となっている男に、威厳も何も無かろうに)


 トルトス四世は心の中で溜息を吐きつつも、最後の矜持として表には出さず、国王らしい堂々とした態度で王座に着いた。


「今日は誰からか?」


「はい、それなのですが……」


 呼びかけられた宰相は、手元の羊皮紙を見ながら、困惑の表情を浮かべる。


「ダイフク村のマンジュと名乗っている商人です」


「村の商人? 商売の話ならばギルドを通すべきであろう」


 一介の商人と一々面会しているほど、国王も暇ではない。

 そんな事は当然、宰相とて分かっている。


「ですが、どうしても陛下に直接お会いして話をしたいと、このような物を……」


 宰相の目くばせに応じて、兵士が二人がかりで大きな箱を運んできた。

 ズシッと重い音を立てて置かれ、国王の前でゆっくりと蓋が開けられる。


 途端、目も眩むような黄金の輝きが、謁見の間を包み込んだ。


「何と、金の延べ棒が箱一杯にっ!?」


「調べさせましたところ、全て混ぜ物無しの純金でございました」


 金貨にすると十万枚は超えるだろうか。

 兵士の給金が年に金貨十五枚程度と考えると、どれだけ莫大な金額か分かるであろう。


「返事の如何に関わらず、謁見をお許し願えれば、これを差し上げるとの事でして」


「馬鹿な、いったい何者なのだっ!?」


 トルトス四世が驚愕したのも無理はない。

 ギルドの長や他国の使者が、機嫌取りに差し出す宝など、この箱の百分の一にも満たない物ばかりだ。


 無論、その代償に相応しい要求をした上でである。


 なのに、マンジュと名乗る商人は、会うためだけに黄金の山を差し出した。


「村の商人などではあるまい、いったいどこの何者なのだ?」


「それが、商人ギルドの誰も知らぬと……」


 貴族や騎士より何倍も耳の早い商人が知らぬなら、このボア王国に知っている者は一人も居ないだろう。


「陛下、どうなさいますか?」


「うむむ……」


 トルトス四世は唸って考え込む。

 その商人は明らかに怪しい。十中八九、ボア王国を狙う他国の回し者であろう。


 しかし、毒と分かっていても、飲み干したくなるほどの美酒であった。


 目の前で輝く黄金は手付金、「自分の話を聞いてくれれば、これ以上の儲けを与えてみせる」という自信の表れ。


 それを迷わず拒めるほど、ボア王国の懐は温かくなかった。


(兵の蘇生費用で、国庫の半分も取られていなければ……)


 ドーグ渓谷に現れた魔族の討伐、そこで魔王に殲滅された三千の兵。

 その蘇生に掛かる諸々の手間賃として、王国は神殿に多額の寄付金を支払わされていた。


 半数は他国の神殿に運ぶと言われ、何十台もの馬車を用意させられた上でだ。

 魔族の殲滅を強固に主張し、強引に出兵させたのは、神殿側のヒューブ司教だというのに。


 むしろ、こうして寄付金を奪い、神殿を肥えさせ、ボア王国を弱らせるために、魔族に戦争を仕掛けたのかと、勘繰りたくなるほどであった。


(まさか、司教の手先ではなかろうな?)


 トルトス四世は横に立つヒューブを窺うが、黄金を見ても表情を崩さず、普段の柔和な笑みを浮かべているだけであった。


「よい、連れてまいれ」


 誰のどんな罠であろうと、まずは会ってみなければ分からない。


 覚悟を決めた国王に応じ、宰相はその商人を王座の前に連れてきた。


 現れたのは、中肉中背で取り立てて特徴もない、質素な服を来た中年の男。

 ただ、彼の後ろに控えた青髪のメイドは、目も覚めるような美女であった。


「国王トルトス四世陛下、お会い出来て誠に光栄に存じます」


「苦しゅうない、表を上げよ」


 恭しく膝をついて頭を垂れた商人に、国王は定型通りの言葉をかける。


「して、余に話したい事とは何か」


「はい、陛下にある商売のお許しを頂きたく存じます」


「商売? ならばギルドに話を持っていくのが早かろう?」

 

 あれだけの金を積めば、商人ギルドとて大喜びで仲間に迎え入れてくれるだろう。

 しかし、マンジュという名の中年商人は、ゆっくりと首を横に振った。


「いいえ、私の望む商売は、陛下でなければ許可を出せませぬ」

「分からん、汝は何がしたいのだ?」


 国王の興味をしっかりと掴んだのを確信し、商人はニヤリと悪い笑みを浮かべて答えた。


「ドーグ渓谷の魔族との、貿易許可でございます」


「な、何だとっ!?」


 その言葉に、国王も宰相も大臣も、警護の兵士達さえ、全員が驚愕のあまり絶句した。

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