儲かってるな、俺も宗教を作って稼ごうか
◇
酒場を出た真一達は、通行人に道を尋ねながら、街の中心近くに来ていた。
王城の傍に建てられた、豪華な装飾の施された石造りの大きな建築物。
店主の話にも上がっていた、魔王を脅かす最大の敵であろうモノを祭る場所。
「ようこそ旅のお方、女神エレゾニア様のボア王国神殿に何のご用でしょうか」
真っ白なローブに金色のシンボルという、いかにも聖職者といった衣装に身を包んだ中年女性が、柔和ながらも疲れの見える笑顔で真一達を出迎えた。
(勇者を生み出した女神を祭る神殿か。さて、何が出るかな?)
敵の本拠地ともいえる場所に乗り込みながら、真一はとても自然な笑顔で話しかける。
「私は南のセンベエ村という田舎から出てきたのですが、せっかくですから王国の立派な神殿で、女神様にお祈りを捧げたいと思いまして」
「まあ、それは立派なお心掛けです。今は少し慌ただしいのですが、どうぞお入り下さい」
女性に促されるまま、真一達は大きな扉を潜り、女神の神殿に足を踏み入れた。
中はアーチを多用した複雑な構造で見るからに美しく、床や柱にはよく磨かれた大理石が使われており、重く荘厳な空気を醸し出している。
(儲かってるな、俺も宗教を作って稼ごうか)
(他に感想はないのですか?)
前を歩く女性に聞こえないよう、小声でセレスと話していると、ふと気になる物が目に入ってきた。
「これは……」
壁に掛けられた一枚の巨大な絵画。
そこに描かれたのは、黒く禍々しい竜と、それにまたがった角の生えた悪魔が、底の見えぬ奈落へと落ちていく、見るも恐ろしい地獄の光景。
「遥か昔、女神様を筆頭とした善神達に敗れ、地の底に封じられた邪神と悪竜の姿を描いた物ですね」
女性は親切にそう説明しつつも、顔には嫌悪と恐怖の色が浮かぶ。
「私達の立つ大地の底に、このように邪悪な者達が封じられているなんて、時々思い出しては怖くなってしまいます」
「そうですね」
真一は適当に相槌を打ちつつ、少し疑問を抱く。
「しかし、邪神は分かりますが、竜もそんなに悪い存在なのですか?」
魔法が実在するファンタジックな世界だから、竜が存在した事には今更驚かない。
ただ、地球でも竜と言えば悪役のイメージが強かったとはいえ、四神の青竜を筆頭に、東洋や中東には善い竜王の伝承も多い。
また「レッドドラゴン」といった色の名を持つのは悪竜だが、「ゴールドドラゴン」といった金属の名を冠するのは善竜、という話を聞いた覚えもあった。
そんな思いから発せられた、何気ない質問だったのだが、神官の女性はこちらが驚くほど目を見開き、異質な者を見る表情を浮かべた。
「竜は遥か昔、女神エレゾニア様以外の神々を、尽く喰い殺したと言われる、本当に邪悪で恐ろしい存在なのです。善い竜が居るかもなんて迂闊な事を考えては、女神様の罰が当たりますよ」
「はい、すみません……」
悪戯した子供を叱るように強く注意されて、真一はしおらしく反省したフリをしつ
つ、隣のセレスに視線を送る。
(今の話、本当なのか?)
(さあ? 魔界に竜が居るのは事実ですが、私は会った事がございませんので)
しかも何千年、何万年も前の話とあって、魔界には伝承すら残っていない。
真実を知る者が居るとしたら、それは当の竜本人くらいであろう。
(不評被害かどうが、会って聞いてみたいものだな)
(食われて糞になっても蘇生が効くか、試したいでしたらどうぞ)
軽口を叩きつつ絵画の前から離れると、また気になる光景が目に入ってきた。
広い通路の端に、ズラリと横たえられた鎧姿の人影。
数百を超えるその全てが、胸に綺麗な穴の開いた兵士の死体であった。
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