5.魔女との約束
希望に縋るために見つけ出した卒業アルバムは、ページをめくるたびに、その希望を食い散らかしていった、
僕が、あまりにもポジティブに物事を考えていたのだ。小学生の頭の中は、いつも遊園地みたいなものだ。だから、ページをめくるたびに、わけのわからない言葉ばかりが飛び交っている。
残されたページは……あと一ページ。
これは、神様から与えられた最後のチャンスなんかではないのだ。
神様が僕に与えた罰なのだ。
いつも僕の後ろをトコトコとついてきた彼女に振り返ってあげなかった罰なのだ。
一度でも足を止めて振り返ってあげていれば……
ほら、最後のページを開いても何も書かれていない。
無残に食い散らかされた希望を拾い集める優しさなど持ち合わせていない僕は、足元に広がる希望を蹴飛ばした。
だけど、その残骸の中で、今にも消えてしまいそうなほど弱い光を放つ希望を見た。
僕は、そいつをそっと拾い上げる。
「なんだ、この手紙」
卒業アルバムをしまうケースの中に入っていたのは、ぐしゃぐしゃの白い封筒だった。
封筒の側面には、汚い文字で<未来のぼくへ>と書かれている。
弱い光を放っていた希望は、今は、もう、ぷつりと消えて沈黙している。だけど、力なく息絶えたわけではない。
きっと、僕に見つけてもらった安心感で消えたのだ。なんとなくだが、そう思う。
封筒の中には、ノートを破った一ページが入っていて、ミミズが張ったように汚い字――過去の僕の字で未来の僕に当てた内容が書かれていた。
ぼくへ
まじょさんは、きちんと約束を守ってくれましたか?
それとも、まじょさんの言っていた通り、気まぐれで記憶が消されてしまいましたか?
わかっています。あれは、約束ではないです。ぼくの自分勝手な押し付けです。
そうだとしても、約束にしなくちゃいけなかったんです。
もしも、記憶が消されてしまっているのなら、タイムカプセルを思い出してください。
まじょは、時の空間には関われないといっていました。
これは、イタズラじゃありません。
お願いです。何歳のぼくかわかりませんが、小学校の時に埋めたタイムカプセルを見つけてください。
今のぼくは、非力です。これを読んでいる未来のぼくも非力なら、次のぼくにもっと上手な文面で、また、卒業アルバムのケースの一番奥に手紙を入れてください。
これは、イタズラじゃないです。
「これは、イタズラじゃないです……か」
最後に書かれていた言葉を口に出して読み、一度、ため息をつく。
呆れたわけじゃない。やっと、噂のしっぽを掴めた達成感からのため息だ。
僕の顔は、満足気に笑みが零れている。
これで、噂について忘れていたという仮説は、反論する余地もなく否定することができた。だが、次は、新たな問題……というよりかは、目に見える形で敵が現れた。
噂についての記憶を消したとされる<魔女>――彼女の存在だ。
どうして、魔女は、噂に関する記憶を僕だけ消したのだろう。
海沿いの街に住んでいる人全員から消してしまわなければ、いずれは、僕が思い出してしまう。今の様に。
でも、魔女は、僕の記憶だけを消した。
どう考えても、その事実だけは疑いようのない真実だ。
もう一度、手紙を流して読み、考える。
「過去の僕は、魔女と約束をしていた……僕は、魔女と会ったことがある」
いくら過去を掘り返しても、魔女に会っていたように思える記憶は見つからない。
問題を一つ解決したかと思えば、次から次へと知識だけじゃどうしようもできない問題が積みあがっていく。
だが――
僕は、手紙を封筒の中に綺麗に入れ、床に散らばる本につまづきながらスマホである人物に電話をかける。
この噂のヒントを見つけたのだ。電話をかける相手なんて、一人しかいない。
二回のコール音の後、夏の課題なんて忘れさせてくれるような声が聞こえてくる。
「上崎、噂についての情報、手に入れたぞ!」
「マジで!」
さぁ、戦いだ。
武器なんて使わない。血なんて流れない。
非力な僕と魔女の戦いが始まる。
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