第4話 就職できないかも? ギルドでも?

「お待たせしました」


その言葉をゆうにかけたのは、

視線を、

目線を、

意識をも硬直こうちょくさせるくらい美しい少女だった。


少女は、短めの黒髪で、深海を連想させるようなひとみを持っており、

そのかわいらしい瞳でこちらを「?」と首を傾げながら見てくる。



「あの・・大丈夫ですか?」


誰がどう見ても彼女は美人だろう。

裕は緊張したせいかかなり声高な声を発した。

それも早口で。


「ひゃぁ、えっと、だいじょうぶです」


少女はなにがうれしかったんだか、裕に微笑みかける。

裕は恥ずかしさのあまり下を向いてしまう。


「あ、記入の方法ですね?」


そう、裕は異世界の履歴書を書くことができず、だから彼女がここに来たことを思い出す。


「そうです・・」


「簡単な質問をしますのでそれに答えてくださいね」


「はい・・」


明るいトーンの彼女とは対照的に裕は暗い声で返した。


「お名前は?」


綾小路あやのこうじゆうです」


彼女はなぜか不思議そうな視線を送ってくる。

それに耐えられず裕が目線をそらす。


「出身国はどこですか?」


「分かりません」


この場合は、”無い”と答えるべきだったのだが、”異世界から来たのでないです”

なんて言っても理解してくれるわけがないので”わからない”と答えた。

彼女は、また不思議そうな目線を送っている。

まあ、出身国がわからないなんて言ったのだ、無理はないだろう。

彼女は一瞬、間が開いたもののすぐに次の質問に移る。


「戦闘経験は?」


「ないです」


・・・




なんとか質問は終わったものの、ほとんどの回答が”わからない”だった。

「この街の名前は?」などの質問も”わからない”で返答していたためか、

彼女の不思議そうな視線は長く続いていた。

数分かたった頃に彼女が手をパンッと鳴らし、裕に言葉をかけた。


「分からないことが多いみたいだねー」


「すいません・・」


「最低でも自分の出身国がわからないと・・戸籍こせきがないとプロフィールカード渡せないからどんな職にも就けないよ・・」


「そんな!・・」


どうやら職に就くために必要なカードを発行するには戸籍が必要らしい。

もちろん、この世界で生まれていない裕は持っていなかった。

裕は苦虫をすりつぶしたかのような表情になり、下を向く。

そこで、明るい声が裕にかけられる。


「よければ、街、案内いたしましょうか?」


なんで案内なんか?無意味ではとは思ったもの、

街の、いや、この世界の仕組み、常識を説明してもらえるいい機会だろうと思い。


裕は無言でうなづいた。


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