3.ついにそんなものまで


 私は小さいころから、マスクというものをあまりしたことがない。


 したことがない、というと少し語弊があるが、例えば昔懐かしの小学校の給食において、大好きなキャラクターの布地から母親が作ってくれた袋に詰められた給食着の真っ白のマスクなどはしたことがある。けれど風邪予防などと云う名目で市販で売っているようなマスクはあまりしたことがない。マスクの必要性は認めているのでマスク自身に文句つけようというわけではない。


 マスクは非常に優秀である。


 だから病院などに行くとき、マスクをつけていくという人や、受験前でマスクをつけている学生を見てもなんらおかしいとは思わないし、むしろ感心さえする。


 けれど最近、久しぶりに会った中学校以来の友人と電車で会ったときに可笑しなものをみた。電車内でみた友人は、マスクをしていたのだ。いや、していたという表現は可笑しい。確かにマスクをつけているのだが、彼は顎に引っ掛けるようにしてマスクをつけていて、それはなんだ、あれか、顎をウイルスから守っているのかと突っ込みそうになった。

 あやうく、本当に口から出そうになった手前で自制し、口から出ようとした言葉を「風邪でもひいてるのか」という言葉に入れ替えた。彼は「いや引いてないよ。」と、さも当たり前かのように答える。じゃあなんでだよ、と勢い余って言いそうになる。危ない。思い切り突っ込めるほどの仲ではない。


 では、とその友人にマスクについて問いかけると彼は「ああ、お洒落。」と平然と言ってのけた。お洒落!ほう!お洒落か!!ついにそんなものまでがfashionという横文字だらけの未知の世界に飛び込んでしまったのか!!


 けれどそれは友人だけではなかった。彼に詳しく聞いてみると「だて眼鏡」ならぬ「だてマスク」という言葉でお洒落マスクは浸透し始めているらしい。まったくその方面に詳しくない私は時代に取り残された気になるが、まあそんな波なら乗り遅れて結構という心持だ。


 聞いているうちに話は柄付きのマスクの話や、「芸能人がつけているよ。」という黒いマスクやら。まあ、その程度なら見たこともあるし、成程あれがお洒落マスクかと納得してしまう。けれどひとつ言いたい。じゃあ市販のマスクでお洒落することないんじゃないか。せめてその白いマスクだけは私のようなお洒落に疎いピーポーに残しておいてくれてもいいんじゃないか。いや、残してくれ。それまでお洒落と言われれば普通にマスクをつけているのが間違った使い方のような気がしてくる。


 授業でガウチョという単語が評論文に出てきたあたりから「おや?」と思っていたけれど周りを見れば今まで文庫本を持っていた友人たちの手にはファッション誌があるし、ついにマスクまでもがfashionの仲間入りをしてしまったようだ。


 せめて「fashion」じゃなくて「ふぁっしょん」にしてくれたらとっつきやすいのに。

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