第4話
俺は小さな声で、「どうも。」と
其れからも他愛もない、というよりも脈絡のない会話をしたのだが、一つ、椎日から問われたことがあった。
「君は、自分を心底嫌いになったことはあるか。」
椎日はそういって唇をきゅっと結んだ。あのころはこの問いの本当の意味も、椎日の考えていることもわからなかったが矢張り椎日は恐ろしいと、漠然とした不安だけを感じた。ただどう扱ったものか、と手をこまねいていた俺には椎日が少しだけ心を開いてくれたように感じて、それすらも恐ろしいの一部であったのかもしれないが、少しうれしく思った。それと同時に俺は初めて人の問いかけに対して中途半端な俺を差し出すということができなくなった。今思えば俺は椎日と
「それ程の勇気はない。」
「勇気か。」
「ああ。俺が自分の愛する人を幾ら傷付けようとも、救いようのない不良品だったとしても、俺は、自分を嫌いになれる程の勇気をそもそも持ち合わせていない。」
「その勇気があれば、どうする。」
「死ぬ。自分を嫌いになる勇気は、自分を殺す勇気にもなる。」
俺がそう言い切って椎日を見上げた時の椎日の顔はなんとも、なんとも形容しがたかった。俺の言葉に真剣でありながら俺に対しては不誠実に振る舞うようであった。
そしてなにより、自分を殺すのに
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