第3話
清水寺で出会った後、俺は椎日と二度と会うことがないと思い込んでいたし、
俺がふと、そんな椎日を車輪に組み込んだのは本を読んだからであった。主人公は俺より少し年上の大学生の男で、死神に
俺の通う府立の高校から
その日、俺は下校途中の電車の中で、例の本を読んでいるうちに眠りこけていた。最寄り駅である円町駅に着いたときに目を覚ましたのだが間に合わなかった。結局俺は、一駅だけ寝すごす羽目になり次の二条駅で降りることにした。二条駅について自動ドアが開閉した処で、俺は降りようと席を立ちあがった。何の気なしに目線を向けたドアで俺の細胞は今まで何をしてたのか、と思うほどに自分たちを主張し始め一点に向かって開いて見せた。
そこに居たのは矢張り、椎日であった。
椎日は俺を覚えていた。いや実際には覚えておらず、あまりにも俺が椎日を見詰めるものだから不審に思ったのかもしれない。ただ椎日は俺を見て、ゆっくりと此方へ近づいてきた。俺と椎日は矢張り静かであった。小さな液晶から目を離さずに自分の世界を作り上げる車内で、ドアの付近だけが人の出入りによって騒がしかった。俺は勿論、既にその駅で降りることなど考えていなかった。ドアが閉まると二条駅から乗り込んだ女学生の集団がまるでこの車内には自分達以外いないかのように下世話な話を大きな口をあけてしはじめた。相反するように、俺と椎日は依然として静かであった。電車はゆっくりと二条駅を離れ、南へ南へと、京都駅へ向かって進み始めていた。俺は椎日に対して、以前と変わらずある種の恐れというものを抱いていたし、常以上に臆病であったことも自覚していたので椎日を前にして口を開くこともできなかった。椎日はというとこちらの様子を窺うように、それは少しの
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