武装少女は魔法が使いたい

ぱりん

プロローグ 「出会い」 

これはどうしても魔法が使いたいだけの物語です。


-試験開始15分前-


わいわいと人で活気づくミラド城下町にて少女が2人。


「ねえねえ、シエルさん!シエド=ミラド魔法院試験受けるってまじですかー!?なんで急に!?なんで!?」


全身白いドレスで身を包んだ少女は尋問されるようにくどくどと彼女より明らかに背の低い少女に問いただされている。こちらは背の低い少女というよりは子供に近い感じである。


「まぁ...ね。なんとなくでてみようかなと実力試しよ」

「ほむほむ。ま、死なない程度に頑張って!毎年受験者の3分の1は廃人になるもしくは死に至るので!にしてもすげー人です!にひゃくまんにんらしいです!」


もう興味が無くなったのか、話題は人の多さに移る。ぞくぞくとこのミラド大陸には今朝から船が押し寄せてきては人の波をぶちまけてまたぶちまけといった具合で各大陸、各国の受験者達は次々と集結していた。

「んでさあんた受けないのにここに何しにきたの。もうすぐ出発だし。そもそも私、店長にしか受験のこと伝えてないんだ・け・ど」

シエルはわしわしと小さな少女の頭を強くなでる。はわわ~と小さな少女は唸って

「で、ですから店長からの命でわたくしミラリアはるばる1324kmを越えてやってまいりました!これを渡せと、ほっ」

ミラリアと呼ばれる少女はカバンからその大きさには明らかに見合わない分厚い大百科事典のような真っ黒い本を取り出すとシエルに渡した。

「お、重っ!な、なにこれ?」

「なんと店長からシエド=ミラド魔法院試験140年分の過去問と対策書みたいですよ」

「うわ。うん、対策してないからありがたいんだけどね。あの人人がいいんだか悪いんだか。たたでさえ荷物多いのにこんな重くてかさばる物はなぁ...」

「店長の言葉だと魔法が使えなくなった時は鈍器として役立つ。だそうですよ?あ、あと第2章の34ページから567ページはしっかり見ておく事!だそうです!」

「あんたのその記憶術式があればこんな物いらないんだけどね」

「ミラリアも好きで記憶してるわけじゃありますんっ!見たもの聞いたもの食べたもの触れたもの嗅いだもの、五感に刺激したものは忘れられないのもなかなかに辛いんですよ?まあ契約魔法ですから逃れようがないんですが」

そんなことはどうでもいいんです、とミラリアは叫ぶ。

「とにかく!シエルさんにはシエルさんの夢とか事情があってお店はそれを応援してますけど勝手に受けて勝手に死ぬのはミラリア許しませんよ?あと店長やお店のみんなも許しませんから!」

「わかった、わかった。試験終わったらすぐ戻るから!心配かけてごめんって」

シエルがミラリアと握手を交わすと受験者の集合時間を告げる鐘の音がどこからともなく城下町中に響き渡った。

シエルとミラリアは顔を見合わせる。

「いよいよみたいですね。では頑張って。シエルさん!ご武運を!」

ミラリアはくるりと後ろを向いて大量の人波をするりするりと駆け抜けていつの間にか見えなくなってしまった。

改めて周りを見渡すと受験者達は物凄い圧力でさすがは最難関魔法試験と言った感じだ。


いよいよ、始まる。


周りはほとんどが集団で何十人もいるグループばかりだ。それがこの試験受験のセオリーなのだからあたりまえだった。

なんでもあり、それがこの試験を端的に表す一番の言葉だ。

できれば試験中協力できる仲間が1人でもほしかったがないものを言っても仕方が無い。

シエルは広場片隅に人のいない噴水を見つけるやいなや重い荷物を下ろし腰掛けて龍の舞う青空を眺める。


いい天気だ、本当に。これから始まることがまるで気楽に思えるくらいに。

エミリアも言っていた通り、受かるとか受からない以前に無事に帰ってくることすら難しいのだ。それにも関わらずここまで人が集まるのはこの学院の特異とも絶無とも言える人々を魅了する魔法教育にあるのだろう。

私には関係のない話だが。

ドラゴン達はぱたぱたと羽を広げて気持ちよさそうに空をあおいでいる。

「...ん?」

シエルが小さな豆粒のような物体の接近に気がついたのはそれから数秒後だった。

明らかに空からこちらへ落下するのはしかも人?の形にもみえなくもない。


「うわわわわわわわわわわうわぁああぁあ」


突風が縦一直線に飛んできたかと思うと

次にシエルに届いたのは何かが噴水に突っ込む轟音と悲鳴だけだった。

噴水の周囲一体に水が溢れ出すと雨のように降り注ぐ。


どうやら状況からして目の前の噴水に何者かが上空から飛び込んできたらしい。

幸い?噴水の水深は深い作りなのでおそらくは無事だろう。

「おい、誰だか知らんがあんまり試験前から馬鹿な真似はやめとけよな」

ブクブクと水泡が上がり続けるばかりで聞こえてる様子もない。相当深くまで言ってしまったらしい。

「チッ...浮く者ルアーサ!」

シエルがそう呟くと落下してきた時と同じくらいの勢いで水中から飛び出して宙に浮かぶ1人の少女が姿を現した。

「ぶはっ...!」

見た目からして年は同じくらいだろうか。

宙に浮かび上がっているので身長まではよくわからない。

長い髪の毛で綺麗な子だが見慣れない異様な格好をしているせいで得体がしれなかった。

「おーい、生きてる?」

少女は目をくわっと見開いて

「た、助けて頂いてありがとうございます!すびまぜん!本当はドラゴンちゃんから飛び降りたら落下傘が開く予定だったんですが開かなくって...」

「...落下傘って?浮遊魔法使えば.. .」

「も、ももも、もしかして私が今浮かんでるのって魔法かなんかですかぁあ!?私魔法が使えないんですよ」

「は?もう1回言ってごらん。」

「もう1回ですか?コホン。

も、ももも、もしかして私が今浮かんでるのって魔法かなんかですかぁああ!?」

「いやそこじゃない。その後」

「私魔法使えないんですよ?これですか?」

シエルには言葉がでなかった。


シエルの中にはもうすでに予感があったのだ。この絶望的な少女が試験そのものを揺るがしてしまうようなそんな予感が。

そしてシエルが試験を受けた目的を果たす重要な鍵となる存在であることに。

魔法が使えないやつが魔法試験を受けに来るなんて尋常じゃない。一緒に行動すれば足枷にしかならないかもしれない。


だがそこがいい。

シエルは少女の手を取ってこう言った。

「あんた、本当におもしろいやつだな」



すべてはこの言葉から始まった。





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