第2話 三田会飲み会


「わああ!本物のドラゴンスレーヤーさんだぁ!」

 部屋に居た女の子たちがジョンを見るなりそう黄色い声を上げた。

 ジョンの一等席よりも広いその部屋は、豪華な赤いじゅうたんが引き詰められ、椎木で出来た大きなベットの上に女の子たちが……1、2、3人座っている。

「ちょっと多すぎね?」

 ジョンは部屋にいる人数を数えた。少なくとも男女合わせて7人はいる。

「いやー。俺たち初めて隣の大陸に行くんで、やっぱせっかくのメモリアルなんで、いい部屋泊まりたいなってことで、みんなでシェアすることにしたんっすよ」

「7人もどこで寝るんだ?」

「え?雑魚寝っすね。まあベットは女の子たちが使って、野郎は床っすね」

「だ、男女混ざって雑魚寝だと……?」

 ジョンはおののいた。

 世界が違う。いや世界線が違うのだ。きっとこいつらはどこか違う宇宙からやってきて、男女雑魚寝しないと死ぬような法律が課された過酷な国からやってきたのだ。

 ジョンはそんなところで自分は寝るのは無理だなと思った。同時になぜか、故郷のホビット庄にいた初恋のビッチの女の子のことを思い出したが、これについて語るのはまた後にすることにしよう。

「まあ、とりま飲んでくださいよ」

「あっ。ああ」

 動揺を隠せないままジョンは渡されたエールを飲んだ。

 女の子たちの視線が集まる。ごくりとエールを飲み干す。なぜかまたキャーっと声が上がった。

「すごいですねぇ。ドラゴンスレーヤーさん。どうやって、ドラゴンスレーヤーになったんですか?」

 パーティーの女の子の一人がそう声をかけてきた。

「ど、どうって……」

 人間の女の子と話すのは数カ月ぶりなのでジョンは異常に緊張した。彼女の香水の匂いがきついような気がしたが、それが気にならなくなるぐらい、ジョンは緊張した。

「なにかコネがあったんですか?」

 その魔法使いの女の子は純真そうな笑顔を浮かべてそう続けた。

「コネ?」

 ジョンはぶったまげた。何を言ってるのだこいつは。

「コネなんてないよ」

「えっ。じゃあどうやって?」

「普通に、酒場でドラゴン退治のパーティーを募集してるからそこに応募したんだよ」

「それで、ドラゴンスレーヤーになれちゃうんですか?」

「そのパーティーに結構強い奴がいて、それで何とか乗り切れたっていうか」

「へー。よくそんなパーティーに入れましたね?」

 女の子はこれまた無垢な顔で首をかしげた。

 この、クソ女……?

 ジョンはイラッとした。いやここはクールにならねばならぬ。大人の余裕だ。ジョンはのどもとにえぐい物を感じながら続けた。

「ま、まあ運が良かっただけだよね」

「あー。運も実力っていいますよね」

「ははは……。まあ…俺も頑張ったんだよ」

「でもコネもなくて、ドラゴンスレーヤーになれるなんて知りませんでした」

「そ、そう……」

 ガンっとジョンはエール瓶をテーブルの上に置いた。

 なんなん?!この子なんなん!?

 ジョンはざっと部屋の中を見回した。

 エールを飲み干す男たち、しどけなくベットに横たわる女たち。この情景を一言で表すなら「ウェイウェイ!」である。こんなパリピの中にジョンが混じれるわけはなかったのである。

 ふうっとジョンはため息をついた。

 しかし、こんな胸糞の悪い女であってもこの乱れた場ならば「今夜ワンチャンいけるんじゃ?」と思ってしまう自分がなさけない。男のあわよくば、女のもしかしてである。死のうと決めたのに煩悩というものはなくならないものである。

「大丈夫だよ。お前、相手にされてないから」

 ニクキュウはジョンの足元でにゃあと鳴いた。

「お前、人の心を読むのはやめろよ!」

「読んでなんかいないさ。お前の場合はダダ漏れなんだよ。見てみろ。あの子はもうあのダイスケの方に行ってるぞ」

 確かにさっきの香水臭い魔法使いの女はダイスケの方に寄り添っている。ダイスケはダイスケの方で、ペタリと女の太ももに触れていた。

「あいつらデキてるのか。つーか、やってるのか。やってるのか」

「どっちでもいいだろうが。お前のそういうところ本当に童貞くさいよ」

「童貞ちゃうわ!!」

「どっちでもいいけど。こんな集団の中で一人きりになれるなんてお前の才能だよな」

 ニクキュウに言われてジョンは顔をしかめた。

 部屋でのバカ騒ぎの中に居てもジョンは、一人きりに感じる。

 そうだどこに居ても、俺はこんなんなんだ。

 とジョンは思った。これからどこにいってもこんな感じで、きっとさっきみたいに若い女に馬鹿にされて、見下されて、そして年を取って死ぬんだ。これがずっと続くんだ。

「死にたみ……」

 ふううううとジョンは細く長いため息をついた。

 せめて、家が裕福ならば、冒険者アカデミーにいけてたなら人生は変わっていたのだろうか?あの輪に入って、楽しくバカ騒ぎできてる自分になれてたんだろうか。

 そんなことは分からないし、人生に「もしも」はないのだ。

 何度も繰り返したこの問答にジョンは白けた気分になった。

「部屋に帰るぞ」

 ジョンはそう言って立ち上がった。

「え、もう?」

 ソーセージをかじっていたニクキュウは驚いた声を上げた。

「こんなバカ騒ぎ、俺には性にあわん。お前もそんな塩分高めの肉を食ってたら高血圧で死ぬぞ」

「……ちぇっ」

 ぺっとニクキュウはソーセージを吐き出して。

「ダイスケに挨拶しなくていいのか?」

「別にいいだろ。あんな馬鹿ルーキー。これからの乱交のことで頭いっぱいだろ。ああいう奴はな、調子のって中レベルのダンジョンに入ってな、あっさりと死ぬんだ。死ね!死んでしまえ!」

「やだ……こういうふうに街中で叫んでる人、見たことある」

 プルっとニクキュウが震えたその時である。

 ドンッ

 と鈍い音がして、船体が大きく揺れた。

「何だ?!」

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