第58話 凌辱系ラノベに転生したつもりはない!
ドラゴンにべろりんと舐められて、もしやこれは味見的な何かですかね?と震え上がった俺ですが、どうやら違ったみたいです。
ぐるるると低い鳴き声を響かせながら、ベロンベロンとぐっちゃぐちゃに舐められた。
ビタン!ビタン!と尻尾が左右に揺れて地面を叩いているようです。
僅かな足場が砕けてるねー、ははは。
尻尾の破壊力やべぇ。
尻尾フリフリしながら顔面をペロペロするのは、まるでご主人様に会えて嬉しくて堪らないワンコの行動にそっくりだけれども、かわええ……などとは、一ミリも思えませんでした。
溺れるわ。
死ぬわ。
唾液で水死とかマジないわ。
「ちょっ……ま、て!ぶわっ!窒息するわ阿呆!」
バシッと竜の鼻先を掌で叩いて拒絶する。
全身、びっちゃびちゃですよ。
しかもですよ、なんかセーラー服の生地が濡れて肌に貼り付くわ、透けてエロイわで……どこの凌辱系ライトノベルだよ!とそろそろ突っ込むのも疲れてきた。
だけど、これだけは主張させてくれ。BL小説の世界に転生したけれど、坂谷くんはホモじゃないからね!
そもそも、炎王の本性は竜なわけで、このままだとホモつーか、
「待て待て待て!!洒落にならないくらい怖いからやめてぇー!ホモの方がマシホモの方がマシいやまてなに言ってんだ落ち着け俺……む……ぷふぅ……っから舐めるな!窒息する!やめろ!おすわり!伏せぇ!ぬぶわぁっ……!!本気で死ぬ!!」
いい加減にしろよこのバカ精霊!と鼻先を思いっきり蹴り上げた。
衝撃で唾液にまみれた掌が滑る。
つるり、と、竜の爪の間から、地面に向かって体が滑り落ちた。
地面ってゆーか、一面マグマなんですけど。
地面なんてとっくになくなっていますけど。
それにしても、俺ってさ……落下しすぎじゃないですかぃ?
「1日に何回落ちれば気がすむんだよぉおぉ!!!こんなに何回も同じ目にあったら流石にもう慣れたわ、高所恐怖症も克服できるわー!いややっぱ無理だー!!」
『……あ"る、じ!』
「っ!」
ヒトと獣の声が入り交じったような低い音が、俺に向けて発せられた。
がしり、と誰かに腕を捕まれた。
落下がとまり、安堵の息を吐く。
「いや……ホント、心臓に悪ぃよ」
『ある"じ』
人と獣の間のカタチをした、精霊がそこにいた。
俺の腕をつかむ手は人のそれだけど、皮膚は赤い鱗に覆われていた。
羽も皮膜も、尻尾も頭部に生えた角も、炎を閉じ込めた赤色だ。
全身赤色なのなーと思ったけれど、牙と爪は白いことに気がついて、理由も分からずに笑ってしまった。
「主」
ようやく、ハッキリと、聞き取れる音が、俺を呼んだ。
どこか、不安そうな気配を滲ませるそれに、ふぅっと息を吐き出した。
「帰るぞ、炎王」
炎王を見上げながら腹に力を込めてそう言った。
もう、里帰りは十分だろう。
つーか、故郷が青い石の世界から、赤のマグマもどき世界に変わっちゃったけど、環境破壊も甚だしいが、大丈夫なのかコレ。双子の神は直してくれるのかね、コレ。
炎王をひとりぼっちでここに閉じ込めるような、血も涙もねぇヤツらだしなぁ。『メンドーだから、この世界は破棄するねー』とか言いそうだよな。
「……良いのか?」
「はい?何が?」
「…………」
沈黙されるとわかんないんだけど。
抱きかかえられて、落下の恐怖から解放されて、ほっと息を吐き出す俺とは対照的に炎王の表情は硬い。
故郷がこんな惨状だもんな……。寂しい世界だったけど、生まれ故郷がなくなっちゃうのは、悲しいよなぁ。
なんとかならねぇかな。
そんなことを思っても、いい考えなんてちっとも浮かばない。
慰めの言葉も思い付かない。だって俺、死ぬような目にはあったけど、故郷がなくなった経験はないからね。なんて言えばいいのかわからないのです。
落ち込む相手の頭を撫でてやるくらいしか出来なかった。
よしよしと頭を撫でてやると、炎王は目を見開いて固まった。
瞳孔が猫か夜行性の蛇みたくなってますよー。竜ってやっぱ爬虫類なんですかね。
あー、頭から生えてる角にちょっと触ってみてもいーですかね?
「主……なにをしている」
「なにって、撫でてるんだけど」
「……俺は、人族の幼子ではないぞ」
「いや、わかってますけど」
お前が幼子とか育ちすぎ……ん?あれ、そーいえば、白黒ロリもどきの神が、なんか衝撃的な発言をしていなかったっけ?
炎王は、ナジィカより一年だけ早く生まれたとかなんとか。
そうだった。色々ありすぎて忘れてたけど、こいつ、まだ6歳だったわ。
クールキャラ設定がぶっ壊れてるなぁと思ったり、時々無性にかわえぇなどと思ったりしたけれど、そーかそーかこいつが子どもだったからか。
ミソラさんとか他の精霊相手につんけんしてるのも、#主__おや__#の関心を独り占めしたい子どものそれか。
そーか、なんか色々ふに落ちたー、と撫で撫でを続けると、固まっていた炎王の目がきょろきょろし始めた。
どうすればいいのか、わからないって感じですね。
「お前は双子の神に、撫でられたことないんだな」
「主、それは人の振る舞いだ」
「でも、あいつら、他の精霊相手には、結構色々してたぞ」
ティンカー○ルみたいなちんまぃ妖精みたいな女の子たちが、笑ったり歌ったりしながら双子神の頬とか髪にくっついて、ハグとかチューとかしてたけど、双子は別に嫌そうじゃなかったぞ。
それどころか指先で撫でたり、くすぐったりしてたぞ。
なんか、二足歩行の猫とか、ド派手な尾羽の鳥とかも、あいつらの足元にすりすりして甘えてたぞ。
撫でてるじゃん。抱き締めてるじゃん。チューしてるじゃん。歌って笑って、楽しそうにしてたじゃん。
精霊も一緒じゃないか。
それなのに、炎王だけ仲間外れってなんなのアイツら。
「俺は炎の王の地位を与えられたのだ。雑多の小精霊と、同じであっていいはずがない」
「はぁ?なにそれ」
王さまだからダメって、なにそれ。6歳のガキんちょ相手になに言ってんのさアイツら。
双子の神はこいつの親みたいな存在だよな?それなのに、邪魔になりそうだから#消滅__け__#そうだとか、簡単にいってくれやがって。
思い出したら、なんか、だんだん腹が立ってきたぞ。家の#炎王__せいれい__#を冷遇しやがって。
わしゃわしゃと両手でかき混ぜるように炎王の髪を撫でる。
「お前、俺にこうやって撫でられるの、不快か?」
「不快、では、ないが……俺は、幼子ではない」
ふぃっと炎王が視線をそらした。
皮膚の鱗が消えて見慣れた姿になる。
見た目は兎も角、中身が6歳なら俺の中では幼い子どもです。
BL小説の死にキャラに転生した件 あきる @Akiru-05
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