第48話 幽霊じゃなくて神さまでした
水の中に落ちたのに、気づけば空から地面に落下していた。
「死亡フラグが回避できねぇぇえええぇえええ!!!」
迫り来る地面に『あ、これまた死んだわ』と覚悟を決めて目を閉じた。
ぼふん、と間抜けな音をたてて、地面に激突する。いや、どー考えても地面に落ちた音じゃないよね?
もっと、こう、ドスン!とか、そんな擬音が正しいよね?
だがしかし、聞こえた音を文字であらわすと『ぼふん』なのだ。間の抜けた音だったのだ。なんだこれ。
痛みはさほど感じなかったので、助かりはしたんですけどね。
「なんか、今日はずっと落ちてる気がする……」
坂谷くんはホラーだけじゃなくて、高いところも苦手だっていいませんでした?
「ま……現実に戻れたのなら文句は言いませんよ」
戻れたのであれば。
ちらり、と顔をあげて周辺状況を確認し、草の地面に再び突っ伏した。
戻れてない。
なんなのここ。
なんでお空に羽のある馬が飛んでるの?
なんで、ティン○ーベルみたいな、ちっこい妖精がふわふわしてんの。
ああ、俺の目の前の地面から『こんにちわ』してんのは、土の精霊ですか?うわー、ワラワラしてる。
目に痛いキラキラ虹色尾羽の鳥とか、二足歩行の猫とか、陽気に歌う熊とか……アニメかよ!
「ふふふ。今回の王さまは、随分と愉快な子になったね」
「その通りね、クロハナちゃん。
「ああ。こちらには無い文化だからね」
頭上から聞こえてくる少女たちの話し声に、いやいや頭を上げた。
白と黒のコスプレ幼女……もとい少女がおりました。
ロリータとかゴスロリとか、そんな感じです。
白い方が、俺を川に引きずり込んだ少女ですね。
「「おかえりなさい」」
目が合うと少女たちは笑ってそう言った。
いや、なんで『おかえり』になるんだよ、おかしいだろ。『はじめまして』とか『こんにちわ』なら分かるよ?あと『いらっしゃい』とかさ。
「「いいや、君は確かにここから旅立った魂だよ?半分は幾度となく、もう半分は新たに」」
「は?」
「「だからね『おかえりなさい』であっているんだよ」」
撫で撫で、と幼い少女たちに頭をいい子いい子されました。
いや、これ、どーゆー状況だ?
ずざっと、音をたてて上半身を起こし、彼女たちから距離をとった。
いや、なんか、本能が、警告を発したんだよね。
起き上がって改めて周りを見渡せば、あらゆる色で溢れかえる不思議な光景が広がっていた。
空にかかる虹は、鳥の尾羽。
小川を流れる水は銀色で、跳び跳ねる魚は金色だ。
川辺にある木々に繁る葉は赤、青、黄、緑、ピンクにオレンジなど、見ているでけで目がチカチカする。散った葉は、川に落ちると金色の魚に変化した。
花弁の中には小さな妖精がいて、動物たちと楽しそうに歌っていた。
『おかえり』
近くにいた妖精がそう歌うと、辺りにその歌が広がっていく。
おかえり、おかえり、おかえり……。
「「おかえりなさい、私たちの愛しい魂の君」」
少女たちが腕を広げて笑う。
白と、黒の、同じ姿の少女。
同じ顔と同じ声で笑う、双子の、少女。
ああ、そうか、この双子が。
「この世界の、神サマってヤツですか」
おおぅ、異世界転生モノでお約束の神サマとの対面ってやつを、ここで果たしてしまうわけですねー。ははは、平凡な日々はどーやったら手に入るんでしょうか?
「えーと、神サマ、ですよね?」
「そうだね。私は君たちの世界を創造した存在の半身、クロハナと呼ばれているよ」
「私は君たちの世界を創造した存在の半身、シロハナよ」
「はぁ、神サマって名前があるんっすね」
「「そうだね。けれど君たち人間に比べると、私たちにとっての名はさほど重要なものではないよ」」
「あー……そーなんですか」
どーしよう。案外普通に会話できてることが、逆に不気味です。
じりっと後退りしながら、双子を交互に見つめ、こっそり息を吐き出した。
「あのですね……」
「「なぁに、愛しい子」」
うっわー……口調は可愛いのに、威圧感がパネェよぉ。坂谷くんここにいたくないっ!
「俺、家に帰りたいんですけど。あ、引っ越し中だから家がどこか知らないんだった……えっと、兎に角、俺の仲間のところに帰してく……」
GRォォオオオオオオオオオオオオ!!
突如、鼓膜を揺らした獣の鳴き声に、思わず跳び跳ねてしまった。
耳を塞いで、あたりに視線を巡らせる。
地面が振動している気がして、その場にしゃがみこんだ。
なになに何が起きたの!
これってあれか?また巨大なラスボスレベルの敵の来襲とかですかね!
よくよく見れば、ちいさな妖精たちは花や、木々や岩の裂け目などに隠れて、土の精霊は地面に潜るし、鳥や獣たちは残らず地に伏していた。
花の中で、花の名前を持つ白と黒の神サマがたっていた。
手を繋いで微笑んで、あたりに視線を巡らせると、双子は優しい声音で呟いた。
「「炎王が泣いてる」」
「は?!」
誰が泣いてるって?
炎王が?
いやいや、精霊は泣かないんだろ?
つーか、これって泣き声ってゆーか、鳴き声だけど、そっちの意味?
「シロハナ、炎王に何も伝えずに彼をここに連れてきたね?」
「あら。言われてみればそうね」
「ああ。可哀想な炎王。突然【主】の気配が消失したんだ。凄く混乱しているじゃないか」
「そうね。隣接するとはいえ別の世界である
「小精霊は怯えるし、呼び掛けても炎王は反応しないし、どーするの?」
「本当ね。流石は炎の王ね。このままだと小精霊が恐怖で消失しちゃうかしら?」
「困ったね」
「困ったわ」
呑気!
なんでそんなに呑気なの!
えーっと、つまりこの獣の様な鳴き声は、炎王が発してるってこと?
炎王にしてみると、誘拐事件が起こって、その被害者が俺……って感じですかね?
ちょっ、ちょっぱやで俺をあっちに戻して!
「神サマたち!俺を炎王のところへ……」
「「仕方がない、炎王にはあの世界ごと消えて貰おうかしら」」
は?
いや、何を言い出したコイツら?
世界ごと消えて貰うって、ちょっとなに言ってんの?
白と黒の双子が、くるりと振り返って俺を見た。
「「どうする愛しい子。君が望むなら此度の炎王は破棄して、別の精霊に君の守護を任せてもいいんだよ?」」
にっこりと、愛らしい声音を響かせて双子の神はそう言った。
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