第49話 勝手に決めるなっ!
愛らしい笑顔を浮かべる少女たちと向き合いながら、俺はごくりと喉を鳴らした。
やべぇ。
やっぱ俺の本能は間違って無かったみたいですよ。
幼い少女の外見に惑わされちゃダメだね。
コイツら、中身がぶっ飛んでる。
ヒトの姿をしていても、思考は神サマのそれだ。
あー……そーいえば、前世の世界の神話に出てくる神サマも、みんな無茶苦茶してましたね。
「あのですね。炎王が叫んでるのは」
「「今は暴れてるね」」
「……暴れてる、のは、俺が急に居なくなったせいですよね?じゃあ俺を炎王の所に戻して下さい」
パニックを起こしてるって事だろ、よーするに。
じゃあ、俺が戻れば問題ないじゃん。つーか、なんで俺を此処に連れてきたんだよ。
双子の神サマはお互いに顔を見合わせて、それからクスクスと笑った。
「それはオススメ出来ないよ。炎王はまだまだ幼子だから、精神と力のコントロールが不安定なんだ」
「あの子の世界は燃えない石で出来ているけれど、今の炎王はとっても混乱してて怒っているから、力が暴走して燃えない石が溶けるほどのエネルギーを発しているみたいなの」
「異世界人の記憶を持つ君に分かりやすく説明すると、罪人が落ちる焦熱地獄のようになっているよ」
「あら、クロハナちゃん。マグマと言った方がきっと想像しやすいわ」
「ああ、流石だね。シロハナ」
「「だからね愛しい子。今炎王の元へ君が行けば、君は跡形もなく燃え尽きてしまうかもしれないよ?」」
………。
……………。
いや、それどんな状況だよ。
つーか、いままでも側を離れた事はあっただろう。
なんで今回に限ってそんな面倒な事態になってんだよ。
「ああ。
「君との繋がりを介して、こちらの小精霊に影響を与えられたら困るから、繋がりは切るしか無かったのよ?世界の壁を、声だけとはいえ越える力を持つ精霊ですもの。か弱い小精霊は力の余波だけで消失する危険性があるもの」
「シロハナが先に炎王に伝えておけば、此処まで怒らなかっただろうね」
「あら、でもきっと愛し子をこちらに連れてくるのは拒否されたわ」
「ああ、それは有り得るね」
「……神サマってお喋りなんですねー。どーでも良いけど、炎王を止めて下さい!」
「「では炎王を消そうか」」
「なんでそーなる!!つーか、簡単に消すとか言わない!」
なんつーかなんつーか!炎王の上位版!!炎王はヒトの命なんてどうでもいいと思っているけど、この神サマはたちはもっと酷い!『面倒だから世界ごと消しちゃえ』って、思考が野蛮過ぎるんだよ!
世界まるごとひとつですよ?
炎王は勿論、あの世界に生きる全ての存在が消えてしまうんですよ?
ダメだろ。大量殺戮じゃねぇーか。なに考えているんだよ。
「「優しい愛し子。憂える必要は無いよ。あの世界に存在する魂は炎の王だけだから」」
は?
えっ、ちょっとまって、どーゆーこと?
双子の少女は笑って、俺は間抜けにも口を半開きにする。
双子の言葉の意味が理解できなくて、何度も頭の中で反芻した。
あの世界に、存在する魂は、炎王だけ。
炎王だけしかいない。
あの青石の世界で泣いているのは、ひとりぼっちにされた精霊だ。
りーん、と風が鳴る音が聞こえた気がした。
何処までいっても、何処まで走っても、世界は青い石で出来ていた。
草木の一本も生えていなければ、空を飛ぶ鳥の姿も、地上を駆ける獣の姿も見えなかった。
虫の鳴き声ひとつしない、綺麗で寂しい青石の世界。
水晶のような、花が揺れると、リーンと音が鳴った。それしか、聞こえなかった。それしか、感じなかった。
光と色に溢れる神サマの国にいると余計に実感する。思い出す青石の世界には、なんにも無かったことを、痛いくらい実感する。
静かな、自分の存在しか感じられないあの世界で、お前は何して、何を思って生きて来たんだ?
「あんな寂しい場所に、炎王をたったひとりで閉じ込めてんのかよ?ここに生きる精霊たちみたいに、ここで暮らしたら良かったじゃないか!!」
ああ、まるで……まるで塔の上の牢獄だ。
誰も居ない、誰も訪れない切り離された世界で、ひとりで生きていた俺みたいじゃないか。
「「あの子は炎の王だ。まだ生まれて僅かな年月しか知らないあの子がこの場所に足を踏み入れれば、
「だからひとりぼっちにしたのか!抱き締めてやることも、頭を撫でてやることも、一度もしなかったのかよ!」
「「王の側に
「そんなの、あんた達が決めるな!炎王の心なんて見る気も無いくせに!アイツの痛みを知りもしないで勝手に決めるなー!!」
「「ならば君は知っているのかい、我らの愛しい子よ。炎の王の『心』とやらに君は触れることが出来るのかい?君の中の半分が拒絶して憎み続ける炎の王を、受け入れる覚悟があるのかい」」
白と黒の神サマが俺を見下ろした。
笑っているけど、宝石を嵌め込んだような熱のない目で俺を見下ろして、そう言った。
炎王の心が理解できるのか、と。
覚悟があるのか、と、俺に問いかけた。
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