26話 全ては夢だった……
翌朝智羽の様子を見たら、少しふらついているけれどちゃんと歩けていた。
よかった、回復しつつあるようだ。
「おはよう」
「おはようお兄ちゃん」
いつも通りの挨拶。
「今日学校はどうするんだ?」
「んー、大事を取って休もうと思ってるよ」
「休みすぎじゃないのか?」
「私がふらっと車道に出て轢かれてもいいっていうなら行くよ」
それは駄目だ。真っ直ぐは歩けていないから、確かにその可能性がないとは言えない。まだまだ安静にさせないとだめだ。
「片足で10分立っていられるようになるまで家から出さないからな」
「普通に無理だよ。私を監禁してどうするつもり?」
……なんか普通の会話だな。まるで昨日までの出来ごとがなかったみたいだ。
全て夢だった……なんてことはないよな、多分。現に智羽はフラフラしてるし。
「じゃあ僕は学校行ってくるから智羽は家の中をフラフラしてなさい」
「なんかそれって……まあいいや。いってらっしゃい」
色々不安だ。だけど一応ゼリーもあるし、食材も冷蔵庫に入っている。外出する必要がないからひとりにしても大丈夫だろう。
「よお、光輝」
「よお」
教室に入るなり志郎が話しかけてきた。戸渡さんの話ではもう治まっているらしいし、電話でも普通だったからもう変なことはやらされないだろう。
「あの、な。ほんとごめんな」
すまなさそうな表情で僕の顔を窺ってくる。
「こないだ電話で謝ってもらっただろ」
「いや、こういうのはちゃんと相手を見て言わないと」
ほんと律儀だよな。普段はこれだから志郎と友達なんだ。
ずっとあの調子じゃただの嫌な変態だもんな。
「でよ、智羽ちゃんの様子はどうだよ」
「ようやくひとりで歩けるようになったところかな。学校にはまだ行かせられないけど、留守番くらいはできると思う」
「そかー。よくはなってるならよかったよ」
「大磯君っ」
志郎とそんな話をしていたら、声をかけられた。
戸渡さんだろうと思い振り返ると、予想通りだった。
「おはよう戸渡さん」
「あ、うん。おはよう。もういいの?」
心配そうな顔で僕を見る。僕は大丈夫なんだけどね。
「少しふらついてるけど、ひとりで家の中を歩き回れるようにはなってたよ」
「そっかぁ。よかったぁ」
安心した笑顔を戸渡さんが見せた。
「だけど来てくれて本当に助かった。ありがとう」
「い、いいのいいの! こちらこそお役に立ててなによりだよ」
戸渡さんはいい子だな。
……智羽の話だと、僕に気があるとかなんとか。
まさか本当にそんなことが……あるのかな。
だけど調べる術がない。
本人に確認を取るとして、もし間違いだったらどうする。ただの自惚れ屋みたいじゃないか。それはちょっと恥ずかしい。
「おー、そうだそうだ。こいつん家に行ったんだって?」
「な、なによ! 行っちゃいけないの!?」
「別にそういうわけじゃねえけどよ……今までそんなことしてなかったからよぉ」
「私がいつ誰と結婚しても音形に関係ないでしょ!」
「結婚?」
「……ぴっ」
「ぴ?」
「ぴゃあああああぁぁっ!!」
戸渡さんは叫んでどこかへ行ってしまった。
というかなんだよ結婚って。
そういえば智羽が言ってたな。頭の中では結婚してるとかなんとか。
戸渡さんって妄想癖の強い危ない子だったんだな。少し気をつけよう。
そのあとは竜一や他のクラスメイトからも色々聞かれ、担任からも心配された。僕がかかったわけじゃないことは志郎たちから聞いているからわかっているだろうけど、あまり聞かない病気だから興味があるといった感じだろう。
いつもなら志郎や竜一たちとどこかで遊ぶ帰り道も、みんな気を遣ってくれて誘わずにいてくれる。早く帰って智羽が大丈夫か確認したいのと、夕食の買い物があるからな。
すき焼きも食べれたんだから普通の食事で大丈夫かな。一旦帰って智羽に聞いてから買い物に行ったほうがいいかもしれない。
玄関を開けると、靴が複数あった。
……誰?
なんてことを思ったのは一瞬だけで、リビングから笑い声が聞こえたからわかった。智羽のクラスメイトたちだ。学校帰りに見舞ってくれたのだろう。
「ただいま」
「おかえり」
若干淡白な返事。友達の前だとこんなものだろう。
「お邪魔してまーす」
3人の少女が僕に頭を下げる。
よく遊びに来る子たちだ。背の低いボブヘアの子が柄印さん。髪の長い眼鏡の子は入泉さん。あとツインテールで元気のよさそうな子が窪見さんだっけな。
「そいえばさ、お兄ちゃん、学校になんて言ったの?」
「学校に? 智羽の?」
「うん」
えーっと、確か智羽が倒れて動けなくなったから、暫く休むことになるかもしれないといった内容だったと思う。
「なんで?」
「なんか私が重篤な病気にかかったみたいな噂が流れて、お見舞いとかしたら感染しちゃうかもしれないとか言われてたらしいんだよ」
……しまった。とりあえず連絡しておけばいいと思っていただけで、後から詳しい病名とか伝えてなかった。
そっか、だからみんな来なかったのか。
「そうだよ、智羽に連絡しても返してくれないしさぁ」
「だからそれは気持ち悪くてスマホの画面も見れなかったんだってば」
そしてそのままスマホは放置され、バッテリーが上がってしまったわけか。
今朝それを思い出して充電したらログがいっぱい流れて来たんだろう。僕と同じことになったわけだ。
「とりあえずご飯の買い物してくるよ。なにがいい?」
「あっ、お兄さん。それは大丈夫。あたしらが用意するから。ほら」
そう言って窪見さんが食材の入った袋を出した。
病み上がりでも食べられるものを出してくれるだろうか。
「あと今日みんな泊ってくらしいから、お布団出しといて」
えー……。
先日の第2ラウンドにならなければいいけど……。
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