24話 不平等な兄妹

「じゃあどうすればいいんだ?」


 質問はこれに尽きる。なるべく被害を最小限に抑えた方法を模索しないといけないし、こちらから提案したものが過剰だとダメージがでかい。


「だからお兄ちゃんが社会的に抹殺されるくらいの生き恥を──」

「それはフェアじゃないだろ。だって智羽は社会的に無事なんだし」


 さっき思ったんだが、智羽が社会的に抹殺されるようなことをされたのならば僕も同じ刑を受けていいと思うが、このことを知っているのは僕と智羽だけじゃないか。つまり僕が口を閉ざせば何ごともないわけだ。


「私は実の兄にあんなことをされたことで社会的に抹殺された気分になったんだよ」

「僕だって実の妹にあんなことをしてしまったことで社会的に抹殺された気分だよ」


 そうだ、僕と智羽は同じなんだ。だから互いに黙っていれば丸く収まる。


「お兄ちゃんはさ、さっきから私と自分を同列にしようとしてるけど、根本的なこと忘れてない?」

「な、なんだよ」

「私は被害者でお兄ちゃん被疑者はなんだよ」

「ほんっとごめん!」


 妹に土下座をするのも社会的にどうかと思う行為だ。これでなんとか勘弁してもらえないだろうか。


「本当に申し訳ないと思ってるの?」

「思ってるよ」

「じゃあ隷属して」

「じゃあですることじゃないだろ。そもそもここ数日僕は智羽のために尽くしてたのに……」

「わかってるよ。それはとっても感謝してるし、だから」

「だから?」


「お兄ちゃんが持ってるポルノ小説みたいな奴隷にしてあげるよ」

「ラノベはポルノ小説じゃないよ!」


 お色気シーンがあって、ここぞとばかりに挿絵があるだけだ。決してそれがメインなわけじゃない。

 というかなんで智羽がそんなことを知っているんだ。


「智羽はラノベ読んだことある?」

「お兄ちゃんの部屋にあったものを本屋でペラペラとめくった程度だよ」


 ……それはラノベで一番やっちゃいけない行為だ。お色気挿絵にしか目が行かない。

 それ目的の青少年であればいいだろうけど、そうでなければ確かに不健全なものに映るだろう。


「ラノベは文字通りもっとライトな感じのものなんだよ」

「でもお兄ちゃんの持ってるのってライトと言うより隷奴って感じだよね」


 くっ、僕のものを勝手に見たわけじゃないから文句を言えない。やはり電子書籍版最強か。


「それで智羽は、僕を奴隷にしてなにをさせたいんだ?」

「目には目を歯には歯をだよ」


 つまり同じ目に合わせてやろうというのか。

 僕がやったことといえば、舐めることで智羽が昇りつめさせてしまったわけなのだが、逆ということは智羽が僕を舐めて……


「いや、いや! それだけは駄目だ!」

「そうやって自分だけ助かるの?」

「違う! これは智羽のためなんだ! そういうのは好きなひとに対してじゃないと!」


 同じ目に合わせたいからといって兄の……達するように舐めるなんてやったらダメだ。


「私、お兄ちゃんのこと好きだけど」

「そういう好きじゃない!」

「……でもさっき、本当だったらお兄ちゃんの言う『好きなひと』にしか見せちゃいけないもの見られたよ」


 ああああああもう! 全て僕のせいじゃないか!

 こうなったら、あれもこれも全て丸く収まる禁断の────本当の意味でも禁断の技を使うしかない。


「つまり僕が智羽の彼氏になれば全て解決するわけじゃないか?」

「えっ、いいの?」


 いいのってまるで望んでいるかのようじゃないか。


「そうせざるを得ないならそうするしかないでしょ」

「よかった。そうせざるを得ない状況まで追い詰めた甲斐があったよ」


 ……はめられた!?


「大体さ、智羽は僕でいいと思ってるの?」

「そうじゃないよ。お兄ちゃんは私じゃないと駄目なんだよ」


 どうしてそんな認識になったんだ。


「なんでそう思うの?」

「だってお兄ちゃんってあまり女の人に興味ないでしょ」

「そんなことないよ。僕は彼女だって欲しいし──」

「でもその割には作ろうと思ってなさそうだよね」


 竜一と同じようなことを言われてしまった。僕ってそんな女子を寄せ付けないような感じなのだろうか。


「ちゃんと思ってるよ。これでも身だしなみは気を付けてるし」

「お兄ちゃんの身だしなみってさ、みっともなくない最低限のところでしか気を使ってないんだよ。女の子を意識したところまでは入ってない感じ」


 そうなの!?


「だったら智羽はどうなんだよ」

「私は別に彼氏欲しいと思わない……んだけど」

「だけど?」

「私への告白をチケット制にして稼いでた友達が脱税で捕まったよ」


 どんだけ儲けてるの!?

 いや、1枚が高額という考えもある。だけど相手は子供なんだから、買うのはせいぜい高校生くらいまでだろう。そうすると高くても4桁が限度か。

 そもそも高額だったとして、それだけの金額を払うひとがいるかどうかだ。付き合えるならまだしも、たかが告白のために。

 ……どれだけおモテになられているんだ。


「智羽は普段どうしてるんだ?」

「お兄ちゃん。世の中には大体4通りの人がいてね、努力しなくてもモテる人と、努力しないとモテない人。そして努力してもモテない人がいるんだよ」

「世知辛いな……」


 智羽は間違いなく努力しなくてもモテる人だ。すると僕は……


「僕は努力しないとモテないのか」

「そうだよ」


 病にかかってから妹がきつい。

 そうじゃない。病にかかってからじゃなくて戸渡さんと会ってからだ。まさかこんなことになるとは思わなかった。


「ちなみに4番目は?」

「スペックだけならなにもしなくてもモテるはずなんだけど、余計なことをしているせいでモテないひとだよ」


 ああたまにいる。勿体ないとか残念だと思うこともあるが、本人がそれでいいとしているのだろうから特に触れるつもりはないけど。


「そんなわけで、お兄ちゃんは言わなきゃ気付かないだろうから彼女なんてできないって思ってたんだよ」


 もし智羽が本当に僕と付き合うつもりがあったのなら、僕はほっとけばモテないだろうと油断していて、今のままの関係を続けていようと思っていたのだろう。

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