23話 妹の舐め方 初級

「本当にそんなのでいいのか?」

「だって舐めたいんでしょ?」


 舐めたくないよ! なにが悲しくて妹を舐めないといけないんだ!

 いやまあ確かに舐めたことはあるけどさ、あれは不本意だ。


「大体、全身舐められるのって嫌じゃないか?」

「大丈夫だよ。後でちゃんとお風呂入るから」


 だったら最初からやらせないでくれよ! これなんて罰ゲームだよ!

 ……そうだった、罰みたいなものだった。


 元々志郎の奴に言われてやるつもりだったことだ。今更四の五の言っても仕方ない。覚悟を決めよう。こうなったらヤケだ。智羽が嫌だと言うまで舐め尽くしてやる。

 じゃあまずは……足からかな。一番嫌なことを先に終わらせておこう。


「え……あ、足からなの?」


 足を持ち上げたところ、智羽が驚いたような声をあげた。


「そうだよ」

「足は最後にしてよ」

「なんでだよ」

「だって足舐めた舌で顔舐められたくないし」


 足舐めさせられる僕の身にもなってよ! ……だけどこれをチャンスと見よう。


「それはふたつ目のお願いってことだよね?」

「違うよ私が舐めてって言ったら上から順にって意味を含んでるから」

「それ後付け設定じゃないか」

「じゃあお兄ちゃんはアイス舐めてって言われたら下のコーンから舐めるの?」

「お前はアイスかっ」

「愛すべき妹だよ」


 智羽ってこんな口が上手い子だったっけ? 今まで手を抜いていたってことなのだろうか。


「わかったわかった。だけど頭は勘弁して欲しい。髪舐めたくないし」

「しょうがないなぁ。私も髪べたべたにされたくないからいいよ」


 なんで恩着せがましいんだ。


 さてどうしよう。なるべく事務的に行ったほうが心へのダメージが少なくて済みそうだから、淡々と舐める作業にしよう。


 僕が床であぐらをかいて考えていると、智羽はベッドから這い出てきて僕を掴むように体を支え、僕に背を向ける感じで足の上に座って来た。


「なにしてんだよ」

「ほらほら、ちゃんと掴んでないと私くらくらしちゃうじゃない」


 よくわからないけどとりあえず両腕を抱えるように抱きしめておいた。手を自由にしたらなにされるかわからないし。


「さあ」

「さあじゃないよ」


 この体勢でやれって? どうしろというんだ。首筋とかしか舐められないぞ。吸血鬼みたいに噛んでやろうか。


 だけどまあ、始めよう。こういうのは伸ばすほどやりづらくなる。まずはじゃあ……耳からにしよう。

 僕は智羽の耳の後ろ辺りを乱暴に舐めた。


「うひゃあああぁぁっ」


 突然智羽が大声と共にビクンと大きく跳ねた。


「ど、どうしたんだよ」

「わかんない! わかんないけどわかんない!」


 そりゃわかんないよ。

 しかし凄い反応だった。一体……ああ、これが耳が弱いってやつなのか! きっと本人も知らなかったことなんだろう。

 よし、智羽の弱点がわかったぞ。こんなことをやらせた報いを受けるがいい。

 先ほどと同じように耳の後ろをなぞるようにべろりと舐めるとビクビクっと痙攣した。


「や、やあ! そこもういいから! やめてよ!」

「アイスだったら同じとこ何度も舐めるだろ」


 これが僕に対しての罰だとしたら、それと同時に智羽のおしおきにしてやればいい。それならイーブンだ。

 次は攻め方を変えて、舌先で首筋から耳の後ろまでそっと滑らせる。


「お、お願……や、やめて! ごめんなさい!」

「まだまだっ」


 智羽は激しく抵抗をするが、僕がしっかりとしがみついているから離れることができない。よし今度は耳の前側を……。


「あぅっ! も、もういやあ! や、やだああああぁっ」

「智羽が望んだことだぞ。責任持てよ」


 頭を思い切り振ってきたからそれをかわし、逆側の耳を。


「はううぅ……もう……やだ……」


 ……あっ。




「ほんっとごめん! 調子に乗りすぎた!」

「お兄ちゃんのバカ! さいってー!」


 泣き顔の智羽に、僕は平謝りをした。途中完全に悪ふざけだった。

 やばいと思って止めたのは完全に手遅れのときだ。智羽が乗っていた足にはまだ湿り気が残っている。


 だけど漏らしたわけじゃない? 床には付いてないみたいだし、触った感じは水というよりもぬるりとした……。

 いや、いや、なんでもない! 僕はなにも触らなかったし見なかった。


 僕個人としても、妹をそんな目に合わせたなんてことが世間に知られたら外を歩けなくなってしまう。お互いのためにこのことは封印しておこう。


「智羽、このことは永遠の秘密だ」

「お母さんに言いつけてやるぅ……」


 マジ勘弁! そんなことされたら家にすら居場所がなくなってしまう。外にも内にもいられなくなったら僕はどこに行けばいいんだ。


 ……あの世とか? 絶対に嫌だ。


 じゃあ逆に智羽を亡きものにするとか……駄目だ。絶対に僕が犯人だとバレて刑務所に送られ、しかも出所しても帰る場所がなく地元にも帰れずどこかの公園か川の橋の下でひとり寂しく死んでいくんだ。


「わかったよ! 智羽の言うことなんでも聞くから! それで許して欲しい!」

「なんでも?」

「う、うん」

「ほんとに?」

「お、おう」


 一体なにをやらせようというのかわからないが、きっと酷いことをやらせようなんて思っていないわけないかぁ……舐めろとか言うもんなぁ。


「じゃあこのこと世間にバラされて惨めな余生を送って」

「だから言わない代わりにって話だよ!」


 代わってないじゃないか! そのままモロだよ!


「大体ねお兄ちゃん」

「な、なんだよ」

「妹にこんなことをしておいて許されようっていう魂胆が間違ってると思うんだよ」


 そんなこと言われたってこんなことになるなんて思わなかったんだよ!


「自分でやらせたって自覚あって言ってる?」

「やだって言ったのにやめなかったじゃん」


 ……うん。僕が完全に悪い。智羽はちゃんと嫌がっていたんだ。


「私に辱めを受けさせた分はお兄ちゃんも受けるべきだと思うんだ」


 言い返す言葉もなかった。

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