22話 やっと妹を舐めてくる
「ふ、ふたりとも……なにしてるの?」
変なところを見られてしまった。なにと言われても……。
「えっとこれは抱かれおこ──」
「んちゅんちゅ」
「変な声出すのやめなさい」
まるでキスしてるみたいじゃないか。というかドアの位置から察するに、恐らく戸渡さんからはしているように見えるような気がする。
「えっと、誤解だからね」
「えっ!? う、うんそうだよね」
やっぱりキスしているように見えていたようだ。僕は妹とキスするような趣味はないぞ。
……いや、趣味うんぬんはおいといてやってしまっていたな。でも志郎に言わせれば兄妹ならノーカンなはずだ。じゃあしていない。
「それより戸渡さん、智羽の薬と水取ってくれないかな」
「あっうん。はい」
戸渡さんが伸ばした僕の手の上に薬を置いてくれた。じゃあ智羽にはこんなことをやっている罰として、水なし苦薬の刑だ。
「ほら智羽、薬だぞ」
「のまして」
「顔を離してよ」
「このままでも飲めるよ」
なめたことを言う智羽の口へ横から無理やり薬を入れる。
「お兄ちゃん苦い。お水、お水」
「この体勢じゃ飲めないだろ。飲みたかったら離しな」
「早く。
「そんな死に方ないから早く離しなさい」
智羽は不満そうな顔をしつつも離れていった。そしてペットボトルを両手で持ってゴクゴク飲む智羽の背中を支えてやる。
「やっぱ兄妹の仲いいよね」
そんな僕らの姿を眺めながら戸渡さんが呟く。
「よそと比較したことないからわからないけど、そうなの?」
戸渡さんが友達などと話して共通していることは、とにかく兄弟はうざいらしい。弟は暴れ回り兄は見下し、姉は偉そうで妹は自分の持ち物をなんでも欲しがるとのこと。
人類滅亡の危機の際はまず最初に殺す相手だそうだ。
まあそれは言っているだけだろうなとは思う。実際にそうなったら絶対に助け合うはずだ。なんだかんだで家族の絆は強いと僕は信じている。
「戸渡先輩」
「どうしたの?」
「戸渡先輩はお兄ちゃんのことを信用しすぎだと思います」
「そ、そうかな?」
当たり前だ。僕はふだんから学校で清く正しく生きている。だから当然信用に足るはずだ。
対して智羽は昨日今日会ったような間柄。それほどの信頼関係はない。ならばどちらを信用するかは明白である。
「いくらお兄ちゃんが相手でも事実から目を逸らすのはよくないと思います」
「事実なにもなかっただろ」
せいぜい僕が智羽を抱かれ起こした程度だ。その他に事実なんてない。
そしてなにか考えていたような戸渡さんが急に思いついたような顔をした。
「智羽ちゃん、ひょっとして試してるのかな」
「だって初めてお兄ちゃんが女の子を家に入れたんですよ。実験しないと」
「実験ってなんだよ」
かなり酷すぎないか。マッドなサイエンティストは実験のためなら他人の犠牲や迷惑なんて気にしないようなものだろうか。
これはやっちゃいけないことだ。悪いことをする智羽には正義の鉄槌をチョップに代えて食らわせねば。
「いたっ、いたっ! お兄ちゃ、やめ」
「この悪い子め、悪い米っ」
ぺしぺしと叩いていたら、戸渡さんが智羽を守るように間に入って来た。
「大磯君、きっと誤解だよ!」
「どういうこと?」
戸渡さんが言うには、正しくは実験ではなくテストしたかったのではという話だ。
「智羽ちゃんは大好きなお兄ちゃんに変な女の人がつかないようテストしたかったんじゃないかな」
「そうそれそれ」
本当かな。ただその方が聞こえがいいと思って乗って来ただけじゃないのか?
でも……もし智羽が男の子を家に連れ込んだら、きっと僕はそいつを色々試すだろうな。妹に悪い虫をつけるわけにはいかない。
なるほど、智羽も同じような気持ちを持っていても不思議じゃない。
「許す」
「そこは謝るところだよ」
なんか謝ったらいけない気がしたんだ。
「──よっと」
智羽は突然尻を軸にくるりと90度回るとベッドから足を出し立ち上がると……よたよたと壁にもたれかかった。
「無理するなよ」
「だいぶクラクラしなくなったから大丈夫かなって。これならひとりでもトイレに行けそうだよ」
先日までは這ってでも無理だったし、壁に寄りかかっているとはいえ立てるのは進歩だ。
「戸渡先輩、お世話になりました」
「えっ? あ、うん」
智羽は頭を深々と下げお辞儀をした。このためだけにわざわざ立ち上がったのか。偉いぞ智羽。
「私はもう大丈夫なので、戸渡先輩は帰ってゆっくりと休んで下さい」
「えっ? あ、う、うん……」
僕としてもうちのことで貴重な休みを潰してもらいたくないから、帰ってゆっくり休んで欲しいけど、なんか態度がおかしいな。
だからといって引き留めるわけにもいかない。ううむ……。
「なんか……ごめんね」
「ううん。お役に立ててなによりだよ」
申し訳ないけど智羽が立てるのならば居てもらう理由がない。ゆっくりしていってもらいたいところだけど、戸渡さんの様子からしてくつろげていない気がする。だから家でしっかり休んで欲しい。
今日は軽い礼だけして、後日ちゃんとお礼をと考えとりあえず帰ってもらった。
さて、智羽を問い詰めないと。
「智羽、あれじゃあなんか追い出したみたいじゃないのか?」
「追い出したんだよ」
やっぱりそうだったのか! あれだけ面倒を見てもらっておいてなんてことだ。
「なんでそんなことするんだよ! 智羽はそんな子じゃなかっただろ!」
「それはお兄ちゃんが今まで女の人を連れてこなかったからだよ!」
僕のせい!? というか、女子を連れて来てたらどうだったというんだ。
「最初のうちはからかってみようと思ったけど、私の中の黒い私がさ、なんかぐつぐつ煮えるんだよ」
言ってる意味がわからない。黒くてぐつぐつしてるってコールタールみたいなものだろうか。
「私が甘かったんだ。お兄ちゃんが私以外の女の人と仲良くなることはないなんて高を括ってたから……」
「だからなんの話だよ!」
「責任取ってよ!」
…………え?
なにその……責任? なんの? 僕が? なんで?
「ちょっとよくわからないんだけど……」
「私にキスしたくせに! ペロペロしたくせに! 触っちゃいけないとこ触ったくせに!」
うわああぁぁっ! 思わず頭を抱えてしまった。
妹だから大丈夫とか考えていたが、結局僕は智羽の気持ちを考えていなかったんだ。いつもぽわぽわした感じだったから気付かなかっただけで、実際頭の中では色々悩んでいたのだろう。
「本当にごめん! 全て僕が悪かった! お詫びになんでもするから!」
「なん……でも?」
「う、うん」
智羽は僕が思っていた智羽と違うのはわかった。だけどそれでも無茶なことを要求してきたりはしないと信じている。
「なんかい?」
「えっ?」
「なんかいなんでもしてくれるの?」
そんないくつも頼むつもりなの!?
こういう場合は大抵3回って相場がある。アラビアンナイトや猿の手、日本でも3枚のおふだというのが古くからある。
つまり────
「2回だよ」
「微妙だね」
1回と3回はどこにでもある話だ。だったらあまり見かけない中途半端な2回としよう。
「でもなんでもしてくれるんだから2回でも凄いことだよね」
「そう思ってくれると助かるよ。それで?」
「じゃあ……お兄ちゃんは妹をペロペロするのが好きみたいなので──」
「好きじゃないよ!」
「……好きみたいなので、だったら全身余すところなくしてみればいいと思うよ」
「…………え?」
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