21話 妹に兄の突起物が無理やりねじ込まれる話
「ごちそうさまっ」
いやあ食った食った。肉食いまくり。やっぱすき焼きは最高だ。
途中で智羽を置き、卵も3つ目に突入。なかなか熱い昼だった。
もちろん野菜も食った。戸渡さんから教わった春菊を肉と一緒に食べるというのはなかなか斬新な味でよかった。春菊の苦味が肉の甘味といい具合に混ざる。
「お兄ちゃんに捨てられたよ」
僕の横で転がっている智羽がうらめしそうな目で僕を見ている。
「人聞きの悪いことを言うなよ。横に寝かせただけだろ」
「それを世間では捨てたって言うんだよ」
言わないよ。ただ食べづらかったからどかしただけだ。
智羽がもういいと言ったんだから、僕に寄りかかっている必要はないはずだし。
「戸渡さんはどうだった?」
「えっ? うん、とても有意義だったよ」
ニコニコしている。有意義っていうのがいまいち伝わらないけど、きっとおいしかったとかって意味だろう。結構肉を食べてたし。
肉を投入するのは僕の作業になっていて、すると必然的に僕のほうにばかり肉が寄っていた。戸渡さんは最初遠慮がちに肉を取ってと言っていたが、最終的には肉以外も僕が器に入れてあげてたような……。
まあいいか。今日の昼はとても満足できたから、細かいことにこだわる気はない。
「それじゃ智羽を部屋に戻すか」
「だったらその間、私が洗いものするねっ」
戸渡さんはお客さんだから洗いものとかあまりやって欲しくないが、智羽を部屋に連れて行くのは無理だから仕方ない。
「うん、頼むよ」
「お兄ちゃんは戸渡さんをひいきしてると思うよ」
部屋に入り寝かせた途端、智羽は異議を唱えてきた。
「仕方ないだろ。戸渡さんはお客さんなんだから」
「私は病人だよ」
おうぅ。この場合、どっちが優先されるべきなのか。
客とはいえ、戸渡さんは智羽が病なのを知っている。むしろ知っているからこそ看病してくれているんだ。
ならば遠慮せず、病に苦しんでいる智羽を優先したほうがいいのだろうか。
「大体お兄ちゃんは戸渡さんが好きなの?」
「そういうわけじゃないけど」
とてもいい子だとは思うけど、恋愛感情とはまた別だ。これから芽生える可能性はあっても、現時点で好きと呼べるほどのものじゃない。
「でも私のことは好きだよね?」
「当たり前だろ」
よほど不仲でない限り、家族が嫌いなんて言うことはないと思う。反抗期ならよくあるだろうけど、生憎僕は反抗期じゃない。
「つまりお兄ちゃんは戸渡さんより私のことが好きなんだから、私を優先してもいいと思うんだ」
「それはなにか間違っている気がする」
より好きなほうを優先するというのはおかしい。それが個人的なことならいいんだけど、他人が関与しているんだから公平な判断をするべきだ。
「智羽はどうなんだよ。僕のこと好きなのか?」
「当然だよ」
「じゃあ戸渡さんのことは?」
「あまり好きくないよ」
「何故?」
昨日今日とずっと面倒見てくれたんだぞ。嫌な顔ひとつ見せず、結構献身的に。
「だって私から貴重な時間を奪ってるんだよ」
「なんだよそれ」
「お兄ちゃんが私に対して召使いのように働く時間だよ」
「お前、そんな風に思ってたのかよ」
なんてことだ。智羽のためと思って頑張っていたのに智羽は僕をいいように使っていただけだったなんて。
だが、だからといってここで智羽を見捨てるわけにはいかない。今のこいつは僕がいないと駄目なんだから。
「もちろん嘘だけど」
「だよね」
智羽はそんな悪い子なわけがない。他人に対してきちんと気配りのできるように育っている。
「ただちょっとお姫様気分を味わっていただけだよ」
「そっか」
それくらいなら問題ない。というか女の子らしくてかわいいじゃないか。
「じゃあひょっとして僕が王子?」
「そんなわけないよ。お兄ちゃんは平民の分際で姫に気に入られたという理由だけで召使いにさせてもらっていて周りから疎ましく思われている存在だよ」
「辛辣すぎないか……。じゃあ戸渡さんは?」
「そんな平民を自分も気に入っているけど姫の手前言い出せないでいて、ことあるごとに姫との間に立とうとするばあや」
ばあやは酷いだろ、いくらなんでも。全然かわいらしくなかった。というか僕は結局さっきと一緒じゃないか。
「そういう妄想はよくないよ」
「だって目が回ってるからテレビや本も見れないし、ゲームもできないから暇なんだよ」
それは辛い。ひょっとして病気よりもきついかもしれない。だったらそんな妄想くらいしょうがないだろう。
「……わかった。今回だけだぞ」
「うむ、くるしゅうまい」
なんかおかしな言葉を使い始めたぞ。まあ付き合ってやるか。
「それでお姫様。なにかご用は?」
「お薬飲み忘れた」
しまった、すき焼きに夢中で忘れていた。飲ませないと智羽はせっかくのすき焼きを出してしまう。
「じゃあ早速飲もうか」
「うん。抱かれ起こして」
不思議なワードが飛び出した。抱き起こすじゃないのか。
「どうすればいいんだ?」
「ちょっと顔を近付けてよ」
よくわからないが、智羽に顔を近付けてみた。
「もっとだよ、もっと」
もっと? もうかなり近いんだけど。
智羽の鼻と僕の鼻が接触しそうな距離だ。すると智羽は両腕を僕の首の後ろへ回し抱きついてきた。
「はい持ち上げて」
「なるほどね。よっと」
これが抱かれ起こすか。確かにそんな感じだな。
「ほら起こしたぞ。手を放して」
「このままでいいよ」
よくないよ。どうやって飲ませればいいんだ。
「とにかく離れなさい」
「離したらまた倒れちゃうよ」
そういえばそうだった。
だからといって僕が支えるわけにもいかない。薬を取らないといけないんだから手はフリーにしておきたい。仕方ない、このまま取ろう。
……くっ、見えない。えっとどこらへんだっけか……痛い!
突然智羽に鼻先を噛まれた。
「ちょ、智羽! 鼻を噛まないでよ!」
「だってさっきからお兄ちゃんの鼻が私の口をぐりぐりしてるんだよ」
手に集中していたせいで気付かなかった。そういえば鼻先にプニプニした感触があったような気がする。
「この悪い鼻が私の口を無理やりこじ開けてさあ」
「鼻に罪はないだろ」
鼻は自発的に動けるわけじゃないんだから鼻に罪を着せるのは無理だ。もちろん象を除く。
「……てかさ、一度智羽を寝かせてから取ればいいんじゃない?」
「お兄ちゃん、また私を捨てるんだ」
だから捨ててないって。……くっ、智羽の腕がガッシリとホールドしていて外せない。
「洗いもの終わ……た……なにしてるの!?」
ガチャリという音がしたからまさかと思ったが、戸渡さんが食器を洗い終えて戻って来たようだ。変なところを見られてしまった。
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