14話 妹パート

「そんなことよりお兄ちゃん、少し休んだら? そのために戸渡先輩が来たんだし」

「そ、そうだね。じゃあ申し訳ないけど、お願いするよ」

「うん任せて!」


 お兄ちゃんは自分の部屋へ戻って行った。

 ……うん。私、今日は色々とおかしいな。

 ううん、おかしいのはここ数日から。音形さんの策略が始まってから。


 今まではお兄ちゃんどころか、他の男子とかも意識したことがなかった。

 だからこの感覚がとても新鮮。でもなんか嫌。

 ずっと気持ちがもやもやする。楽しくない。言いたいことがちゃんと言えない。辛い。


 でも辛いのはそんな気分が変だからってわけじゃない。このよくわからない病気のせいもある。


「智羽ちゃん、大丈夫? やわらか子猫ちゃん歌う?」


 戸渡さんが心配そうに面白いことを言う。本当に面白いひとだ。それ歌っても良くならないのに。

 こういうひとのことをからかい甲斐のあるひとって言うんだろうな。反応がいちいちかわいい。

 私は逆。友達からよく反応薄いねって言われる。からかい甲斐がないって。


 お兄ちゃんはからかい甲斐のあるひととないひと、どっちの方が好きなんだろう。


「戸渡先輩」

「えっ、どうしたの?」

「お兄ちゃんって学校で女子の話とかするんですか?」

「ええっ!? そ、そうだね、そういう話はあまりしてないかな」


 してないのかぁ。お兄ちゃんの好みがわからない。

 あれ、でもお兄ちゃんは戸渡さんとほとんど話をしたことないって言ってたのに……。


「じゃあ普段どんな話をしてるんですか?」

「えっと、いつも音形や引臣くんとゲームやマンガの話をしてるかな」


 聞き耳立ててる! 危ういなぁ。そういうひととお兄ちゃんが付き合ったらどうなっちゃうんだろう。

 こうなったら私がなんとかしないと。


 その1。戸渡さんは危険だとお兄ちゃんにはっきりと伝える。

 これはさっきやってみたけど、特に効果がなかった気がする。あまりしつこく言うと私が悪い子みたいな扱いをしてお兄ちゃんが私を嫌う可能性アリ。


 その2。戸渡さんを更生させる。

 ストーカーみたいなことをしていたらお兄ちゃん悲しむよって、そこはかレスで伝えてみる。

 これが現実的かな。


 その3。お兄ちゃんは私のだからあまり馴れ馴れしくしないでもらう。

 ……よしっ。


 あれ? なんでよしってなったの?


「戸渡先輩」

「なあに?」

「盗み聞きですか?」

「へあっ!?」


 すっごい動揺してる。本人に自覚なかったのかな。


「ちちち違うの! 楽しそうな笑い声とか聞こえるとつい……」


 天照大御神だっけ? そんな話あった気がするのを思い出した。


「岩戸渡先輩だったんですね」

「なんで岩付いたの!?」


 すっごく驚いた顔をしてる。

 お兄ちゃんだったらこういうこと言わないから、きっとこんな反応見れないんだろうなぁ。

 でも楽しそうな声が聞こえたらなにか気になるのはわかる。だからセーフとしておこ。


「智羽ちゃんは、えっと、大磯君のこと、好きなんだね」


 そういえば私、戸渡さんからお兄ちゃんのことを聞いてばかりだ。これじゃあお兄ちゃんに気があると思われそうだ。

 だけどここはさらりと受け流そう。


「それはそうですよ」


 仲が悪いわけでもないし、家族なんだから普通に好きだよ。


「あ、家族だから普通だよね。でもえっとほら、好きにも色々種類あるし……」

「ありますね」

「例えばき、キスしたりとか……」

「先日しましたよ」

「先日!?」


 そういえばお兄ちゃんでドキッとしたの、これが最初だったかもしれない。

 ドキドキするまではいかなかったからあまり気にしてなかったけど。


「きょ、兄妹でそういうのはいくない気がするよ」


 私もそんな気がするけど、戸渡さんの考えはすぐにわかった。

 多分倫理感に訴えて私とお兄ちゃんを引き離し、あわよくば自分にって思ってるんだ。そうはいかないよ。

 ……あれ? なんで?


 そうだった、もしお兄ちゃんと付き合ってそのまま結婚なんてことになったら、戸渡さんが私のお姉ちゃんになるんだ。

 だけどあれ? それを避けたいから邪魔しようとしてるの? 私、別に戸渡さんのこと嫌いじゃないよ。


 ……あっ、駄目だ。考えすぎて気持ち悪くなってきた。


「すみません、厳しいです」

「えっなにが……あああごめんね!」


 戸渡さんは慌てて私を抱き上げ、口元に袋を当ててくれた。

 お兄ちゃんみたいに背中をさすってくれないけど、私が動かないようしっかりと支えてくれている。

 そして今にも泣きそうなほど心配そうな顔。

 口の周りを拭き、口の中すすいで経口補水液も飲ませてくれた。手に色々かかったのに、一切嫌な顔をしない。

 一通り終わると、私をゆっくりと寝かせてくれた。


 いいひとだなぁ。なんか敵対心が薄らいでいくよ。

 敵対心? なんで私、そんなもの持ってたの? 戸渡さんはなにも悪くないのに。

 それどころか私のために一晩付き合う覚悟で来てくれたんだ。感謝しかない。

 たとえそれがお兄ちゃん目当てでも……あっ駄目だ。考え方が黒い。


 できれば体調のいいときに会いたかったなぁ。そしたら正々堂々と…………。


 うん、病気って怖いね。

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