勇者襲来その2、僧侶がついてきた
それから1週間位は平和な日々だった。
まあ、魔王が平和とか言っちゃうのはどうかと思うんだが。
「アスター様ぁ~」
「ん?」
突然呼ぶ声に、何事かと思って振り返ると山を一つ越えた先の地域を治めている上級魔族にして俺の伯父、アヴァンス卿のご令嬢レキア=アヴァンス嬢だった。
彼女はアヴァンス卿の本妻の娘ではなく、妾のサキュバスの娘らしいのだが、本妻のラピリア婦人との間にはまだ跡継ぎが産まれておらず、実の娘のように可愛がられているようだ。
俺とは20歳(人間換算で2歳)離れているので妹のような存在だ。
「レキア……なんだってこんなところに?」
「勇者が突然プロポーズしてきたって、聞いたから心配で飛んできたの!」
「あぁ、もうそこまで話は届いてたのか」
「アスター様のお嫁さんはレキアがなるのにぃ……」
まるで聞いちゃいない情報も飛び出してきたんだがまあいい、先日の勇者の襲撃はホントに色々衝撃的だった。
普通宿敵に告白どころかプロポーズなんてしないだろうに、アイツはあれだな人類史に残るアホなのだろう。
「ねぇねぇアスター様、いつになったらレキアをお嫁さんにしてくれるの?」
また始まった……。
レキアは俺に会うと大体そう言うのだ、きっかけはなんだっただろうか。
きっと、あれは俺が100歳になった頃だ ったはずだ。
レキアの屋敷に遊びに行ったとき、レキアと一緒に草原に遊びに出掛けた。
その時、少しレキアから目を離した隙にレキアが野生の魔物に突然襲われた、大人を呼びに行く時間もなく、俺は無我夢中でその魔物を倒した。
その直後くらいからだったはずだ。
恐らく、自分を助けてくれた白馬の王子さまかなんかだと思って懐いてきたのは。
「アスター様はレキアのこと嫌い?」
「いや、そうじゃなくてな」
「なら結婚するの!」
「あぁもう!助けてアスタロト……」
「お呼びになりましたか?魔王様」
偶然近くを通りかかったのだろう、アスタロトが近付いてきた。
「あぁ、アスタロトすまんがレキアが言うことを聞いてくれなくて…」
「またいつものあれ、なんですね」
「そうだ、どうにかしてくれ……」
アスタロトはその豊満な胸の下で腕を組み、右手を頬に当てしばらく考えると、レキアに近づいて何かを耳打ちした。
すると、レキアは顔を真っ赤に染めロボットの様に後ろに向き、全速力で走り始めた。
「……何を言ったんだよ」
「ふふふ、秘密、ですよ」
アスタロトは昔からこう言うところがある、だから俺も気にはなるが、聞いても無駄だというのを理解しているので深くは聞かないことにしている、と言うか恐ろしすぎて聞けない。
「それよりアスター様、またあの勇者が来るようですよ」
「そろそろ来そうな気はしてた」
「あらあら、魔王の勘ですか?」
「まあ、そんなところだ」
「今回は一人仲間を連れてきたみたいですね」
「む?そうなのか」
あれか、戦士かなんか連れてきて押し倒して既成事実でも作ろうとしてるのか、それとも魔法使いを連れてきて混乱させてその間に婚姻届に判を捺させるつもりか?
「まあ、考えても仕方ない、追い払うか」
こうして、1週間ぶりに勇者との不毛な争いが始まるのだった……。
★★★
俺は今まで通り玉座の間で待つ……と言うことはせずに、玉座の間の玉座の裏の隠し扉の先にある、魔王執務室から覗き穴を使って観察することにした。
「玉座の間にいるから面倒なことになるのだ、こうすればめんどくさくない」
もう少し早く気づけば良かったと思うが、過ぎたことを気にしては魔王など務まらない。
やがて、玉座の間の扉の開くギィィィッ……という、低い音が聞こえた。
「魔王!また来たわよ……って、あれ?いない?」
「アーシェ様、ホントにここに魔王が…?」
「えぇ、そうよシエナここに私の愛するあの人が……」
アイツ前より脳ミソが残念なことになってるぞー?
ホントにあんな勇者で大丈夫なのか、人類は。
取り敢えず仲間の名前は、シエナというらしいな、取り敢えずギリギリ見えるからステータスサーチしてみよう。
女僧侶 シエナ
Lv 45
HP508 MP786
力49 身の守り84
魔力368 賢さ320
素早さ208
攻撃力78 守備力228
装備
聖なる
聖なるタイツ 守備力88
僧侶の服 守備力42
僧侶の帽子 守備力14
スキル
回復魔法……練度により回復量、対象範囲が変わる回復の魔法。
ツッコミの素養……旅芸人に必要な素養、稀に旅芸人以外でも持つものがいる。
神聖なる守り……呪いにかからない。
蘇生魔法……瀕死のものを甦らせる魔法。
ふむ、仲間は僧侶か予測が外れて安心したのと、どうなるかわからん不安感が一杯だ。
一応勇者の方も見ておくか、レベルが上がってないとも限らん。
勇者 アーシェ
Lv 65
HP859 MP674
力135 身の守り100
魔力234 賢さ18
素早さ196
攻撃力220 守備力389
装備
鋼一式 威力85 防御力289
スキル
魔族キラー…魔族に対する攻撃力が8倍になる。
面食い…イケメンに弱い。
恋愛体質…惚れやすい。
乙女フィルター…対象の言動に補正がかかる。
異常耐性…呪いを含む状態異常にかからない。
なんだ、レベルは変わって無いな、安心……?いや、ちょっと待て、1ヵ所おかしかったぞ。
賢さが10分の1……だと?まさかホントにアホの娘になっているとは…流石に同情するぞ人類…。
「魔王!出てきなさい!じゃないと……」
なんだ、なんか不穏な気配が……。
「出てこないとここで、オn……「ヤメロォォォ!」
「出てきたわね、魔王!あんた見かけによらず恥ずかしがり屋なのね!可愛いじゃない!」
「黙れ!流石に玉座の間て18禁行為されそうになって黙っていられるか!」
このポンコツ勇者は……!
本格的にネジがぶっ飛んでやがる、ダメだ早くなんとかしないと……!
「魔王さん、心中お察しします」
なんか敵に同情されたんだが!?
「同情してる暇があったら、このポンコツもって帰れ!」
「残念ですが、手遅れです……手は尽くしたのですが…」
「余命宣告された家族の気持ちになるからやめろ!」
ゼェ……ハァ……、余計にしんどいぞ、マトモな奴がついてきて多少は楽になるかと思ったらしんどさが2倍どころか2乗されたんだが……。
「もういい、お前ら吹っ飛べ!」
俺は、所謂究極呪文を唱えて二人ともまとめてノックアウトした。
「次…こそ……デレ…させてやる…んだからねっ!」
ガクッ、という音がしそうな勢いで勇者は気絶した。
「父さん、俺…魔王止めたい…」
俺がそう呟いた後、天使達が勇者達を運んでいった。
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