第34話 彼女の毛は、奪われた
「ごべんださい、ばんぜいじでばず」
まだ枯れない涙を流しながら、あと、スカートを押さえて、綺夏がみんなに言う。
結局、綺夏はみんなに仕返しをされた。
和人はその間、部室を追いだされた。
もちろん、スキンヘッドにしたり、裸で土下座にしたり、はさせないように釘を刺してから退席した。
彼女に処せられた刑。
それは直近で被害に遭った陽佳など、後輩たちも参加して、一番最適な物に決めたらしい。
彼女たちにも誇りはあり、自分たちは綺夏とは違う、だから、非道な仕返しはしない、と言うことが最初に、これは理深からお願いされたそうだ。
ちなみに彼女や沙也は、罰の選択には参加していない。
だが、にしては、泣きじゃくって、あの綺夏が心から反省しているように謝っているのは不思議だ。
本当に非道な事はしていないのだろうか?
「なあ」
「何よ?」
理深は答えてくれそうになかったので、近くにいた陽佳に声をかける。
「何したんだ? 本当にひどい事してないのか?」
「ひどいことをしたわよ?」
「はあ?」
「私が同じ事されたら、二、三日休むわね」
「お、おい……」
「大丈夫よ、二週間もしたら何事もなくなるわ」
そうは言われたが、和人は心配になる。
女の子同士になると残虐になる事は知っているし、彼女たちが綺夏に一角ならぬ恨みがあることも知っている。
理深や沙也がいるのでそこまでひどいことにはならないとは思っているのだが、現に綺夏は泣いているのだ。
「なあ、いいだろ? 教えてくれよ」
和人は陽佳に頼んでみる。
「……髪の毛は可哀想だから、頭じゃない毛を剃っただけよ」
「……ああ」
確かにそれは泣くかも知れない。
理深や、陽佳さえ言いよどむ罰。
泣きじゃくる綺夏。
「頭じゃない毛」で想像するどこか。
綺夏は、彼女が見下していた女の子たちに無理やりパンツを脱がされ、恥ずかしいところを見られた上、そこに生えていた毛を剃られたのだ。
恥ずかしい、恥ずかしくないの前に、とても惨めな気持ちになったのだろう。
ここにいる女の子は、全員沙也が選んだだけあってレベルは高いし、見た目にも気を使っている。
それは綺夏も同じだし、そう言う「気を使っている女の子同士」の間では、髪の乱れも即座に直さなければ恥ずかしい。
そんな中、今の綺夏は、髪を乱したまま、いや、鼻水を垂らしたまま泣いている。
ここまで来るとさすがに哀れに見える。
まあ、今はみっともないが元々は可愛い子だ。
「しょうがないな、綺夏、お前を彼女にしてやろう」
「ヴェ?」
綺夏は日本人なら言葉を覚えていない子供以外には発音が難しい言葉を吐く。
女子高生でこの発音をしたのを聞いたのは映魅に続いて二人目だ。
「お前は今日から俺の彼女だ。分かったな?」
「ありがどうございまずぅぅぅっ!」
綺夏はそのまま、和人の胸に飛び込んで来た。
「うあっ!? 汚ねっ!」
涙と鼻水とともに。
和人のシャツに思いっきり涙と鼻水が付く。
「お前、もしかして仕返しか?」
「ヴェェ?」
いまだ泣き止んでいない綺夏にその意思はなさそうだ。
だから和人もそれ以上責められない。
「和ちゃん、女性の体液を受け入れるのも殿方の義務ですわよ?」
「言い方がアレな上に、嫌な義務だな!」
和人が突っ込むが、周囲もほぼ同意見のようで、和人はただ、泣きじゃくる綺夏の頭を撫でるしかなかった。
「……とりあえず、帰るか……」
ため息交じりに、和人はそうつぶやいた。
余談だが、和人が部屋に戻る前、大量に和人の彼女が出来たことを友達からのメールで知った映魅が、先輩風を吹かそうと、和人の机の上に椅子を乗せてふんぞり返って座っていて、キャスターが動いて転げ落ちて、腕を怪我したことがあったらしいが、映魅がいなくなるまで誰も帰って来なかったので、その事実は誰も知られないままだった。
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