〇四二 造 魔
まさかこの二人もグルなの?
「ね? こうして待ってれば獲物はやって来るわけ。貴重なのは殺人を犯しても罪の意識が無い『濁った』やつ。
あなたが選んで燃料にした連中みたいに、仕事でやってるのは二流ね、純度が低いわ」
女の方が、子供に何かわけのわからないことを話してる。
「あれーー? お姉さんも僕たちの仲間ーー? でもダメだよ、この子は僕らと遊ぶんだ」
「それより、見られたぞ。
「お姉さん、ひょっとしてショタリョナかなんか? それもこんな山奥で? まあそれは俺らも似たようなもんか」
まるで噛み合っていないやり取りが続く。知らないうちに奥歯がカチカチ鳴った。
***
「見てなさいドゥーガル、こういうのがいい材料になるの」
虚神の那由多はスカートのスリットを指でかき分けた。男たちが口笛を吹いて喜ぶ。
「ふふっ、あなたたち三人にもちゃんと見せてあげるわね」
「
***
「なっ、なんだよそれ!?」
今まで、余裕を見せていた男たちが急に
指さす方を見ると、暗がりにヒトとは似ても似つかない
頭は振り乱して、洗っていないようなざんばら髪。肌は茶色とも黒ともつかない日焼けしたような色だ。
そして人間と最もかけ離れていたのは――――動物の皮で覆われた腰の真下にまっすぐ伸びる、
つま先が無くて、足の両端が親指になっている。おまけに、
「妖魅『
妖怪?
浅黒い姿の妖怪は、デジカメを両手で持って上に掲げた。何度かフラッシュが暗闇で光る。女はデジカメを返してもらうと画像を確認しだした。
「あった。ほら、これでしょ。あなた方が殺して埋めた女の子たちって」
女が画像を見せると、男達の顔が恐怖に歪む。
「なっ、なんで写真があるんだよ!? 証拠は何も残してない……!」
男の一人が、言いかけた口を自分で押さえた。
「あなた方が自分でしたことでしょ?」女はデジカメを男達に渡そうとしたけど、私に最初に声をかけた男が、デジカメを掴んでアスファルトに叩きつける。
ガシャン! カラカラカラカラ
私の目の前に滑って来たデジカメの画面には、つい今しがた撮ったような生々しい首を絞められた女性の死体が映されていた。
急に吐き気がする。私もこうされてたの? 涙が込み上げてきた。
「お前!! 僕たちを脅して、何が望みだ!?
金か!? それとも……」
女は首を左右に振る。
「あなた方の腐った魂は
妖魅顕現、
また新しいバケモノが現れた。
毛が生えた二本の角を持つ、赤黒い身体の醜い子供のような姿だ。
その後ろに、
「うわあああああ!!」男たちが叫び声をあげた。そのうちの一人は腰を抜かしてへたり込んでいる。
「に、逃げろ!!!」
一人が元来た道を引き返そうとした。
パァン!!
乾いた音が鳴り、男の身体がこちらにふっ飛ぶ。
「自分達でしたことでしょ? ちゃんとセキニン取んないと」
「な、なんなんだよ? お前たち……!」子供に殴られた男は頬を手で押さえながら尋ねる。
「お前たちが言う『狩る側』だよ。もっともお前らみたく、ごっこ遊びで満足するガキとは違う。本物さ」
小学2年生くらいの子供が、酷薄そうな笑みを浮かべて三人を見ている。
私には助かったという気持ちは全然ない。睨まれたカエルの気分をずっと味わい続けている。
「さあ、これをあげるわ」
女が節のある枝みたいな石を二人の顔に投げつけた。
「うわあああああ!」「ひいいいいいい!」
叫び声と共に、二人の男が劇的に変化した。眉間に石が刺さると、みるみるうちに身体が干からびた。かと思うと、今度は身体が錆の浮いた鉄のように変質していく。
女は腕を組んで、子供は新しいおもちゃに出くわしたような、きらきらした目で見ている。
グガ、ガアアアアアア!
ギイイイイイイイイイ!
二人は、闇に浮かんだモノとはまた別の化け物に変貌を遂げた。
一体は、腕と足が4本ずつある忍者みたいな化け物。
もう一体は、全身が鎧みたいな節で覆われて、首の後ろから針がついた尻尾が伸びた怪物。どちらも人間だった時の面影はまるでない。
「――――!!」
「これが『
その
それらを吸収して、撒き散らし、最後は虚無に還して何も残さない。
こいつら、そして私たちが『
女が手を前にかざすと、二匹の化け物は暗闇に消えた。そして女は石を魍魎と呼んでいた妖怪にも投げつける。
ゴ、ハァァァァァァァ……!!
たちまち赤黒い身体が膨れ上がる。また違う姿の怪物になった。大柄な鎧武者のようだ。
「ふーーん、勉強になるよ。んで、残りの一匹は?」
女と子供は、三人の内最後の一人に向きなおる。
その顔は涙と鼻水、
「あああ、お願いします、いのち、命だけは、助けてください……!」
怯える私ですら
「助けるわよ、もちろん。その薄汚い魂が見合う所に連れてってあげるわ。
妖魅顕現、
空中に燃える木製の車輪が浮かび上がった。と、遠くから、エンジン音が近づいてくる。
ギャアアアアアアアッ
彼らが道路わきに停車してきたスポーツカーがここまで来た。運転席はおろか、中に誰も乗っていない。
「さあ、楽しいドライブといきましょうか。でもその前に、自分で犯した罪を全て書き記すのね」
女の目が怪しく光ると、男はスマホを取り出し、何かを勢いよく入力しだした。
「なっ、なんで!? 手が勝手に……!!」男の意思とは無関係に、指一本一本がくねくねとスマホの上を
やがてスマホを私に投げてよこした。
「読んでみて」
女に言われるまま画面を見ると、彼らが連続殺人犯で、被害者を誘った方法、死体遺棄現場、証拠品の処分など、犯人しか知らないことが詳細に打ち込まれていた。
「さあ、思い残すことはもうないわね」
燃える車輪が黒い炎を吹き上げた。アイドリングしていた車のドアが開く。
「さあ、人生最後のドライブね、せいぜい楽しんで」
悲鳴を上げる男の身体が宙に浮いた。そのまま車の中に投げ込まれるように入った。
「ほら、あなたのでしょ」女は私のバッグをよこした。私は受け取るのが精いっぱいで、礼を言うこともできない。
何度かアクセルを踏む音が響くと、車は勢いよく飛び出した。そのまま、トンネル入口のコンクリートに激突する。
ガシャアアアアアアアン!!
凄まじい破砕音が響いた。ほぼ同時に車体から爆炎が噴き出す。炎が夜の闇を焦がすようだった。
そして、噴き出した焔の中から、苦しむ男の姿が現れた。といっても、焼けた身体じゃない。焔が苦しむ男の姿を形作っている。アスファルトの上で喉をかきむしって、
女が手をかざすと、その焔は一か所に集中し、赤黒い珠になった。女は珠を子供に投げてよこす。子供は大はしゃぎだ。
「それが、ヴェーレンのいう器を満たすもの、言うなれば
死してなお苦痛に苛まれる罪人の魂。それが
「へえ、こりゃいいや。今度僕にも作り方を教えてよ」
私はその様子を茫然と見ていた。
「そのカメラと携帯電話があれば、十分な証拠になるでしょう。警察に見せる見せないは任せるわ、じゃあね」
女はそのままこの場を離れた。子供もあとに続く。私は燃える車には目もくれず呆然と女と子供を見ていた。
***
「なんであの女だけ生かしておくんだよ。見られちゃまずいんじゃないの?」
「どうせ彼女が行きつくのは公安庁F課になるはず。それだけで向こうも分かるはずよ。言うなれば定時報告みたいなものね。
ヴェーレンが言う『共存共栄』、ある程度こちらが動いてるのを知らせておかないと」
「分からないな、僕には」
「私たちにできなくて夜叉姫ができることもあるのよ」
「ふうん」
――――私は――――山で煙が出ているのに気づいた近隣の住人――――とはいっても数kmほど離れた林業家の通報で警察に保護された。
***
私が保護された直後、私によこされたスマホとデジカメで事件は明るみになった。
被疑者一名は死亡。残り二人は行方不明で捜査は一通り継続中、ということで事件は一通りの解決を見た。
だけど、真相は闇に葬られることになるだろう。
なぜなら、犯人たち三人は、罪を償うどころか、怪物や得体のしれないモノに姿を変えられて、さらに罪を重ねていく業を背負わされたのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます