〇二九 強 襲
「え? ああ、
申し訳なさそうに弁明する
私が少しにらむと肩を縮めてすくみあがった。
「六花!]
私が声を荒げると、銀髪の美女は外見に似合わないおどけた感じで、肩をすくめる。
「だってさーー、CGじゃないリアルバトルが目の前で繰り広げられてるんだよ? そりゃ誰だって、きれいに保存しておきたいと思うじゃん。
大丈夫、霊感っていうか、妖怪とか信じてない人間には
「………………」
私は怒るより先に脱力する。私にとってはかなり疲れる闘いでも、彼女にとっては娯楽の一つでしかないみたい。
「もう、契約は無事完了したし、『|
私が言いかけたその時だ。場の空気がひどく重く息苦しいものになった。
鵼塚に差す影が濃く昏く染まり、熱したコールタールのように泡立つ。
「少年、新しいお客さんが来たみたいだから、もっちょい下がってて」
身の毛もよだつ、という表現がぴったりだった。四方から生理的に受け付けない
「『蜃気楼』の結界に入り込んでくるとはね……。涼子、少年、気をつけて」
そこから真っ黒い球状の
ドス ドスドスドス ドスン
その様子は、斜めに二列太いスパイクが伸びた、巨大なダンゴムシのようだった。
直径1、5mほどの黒い球状の丸まりが伸びあがり、内側から手足が出てきた。
口は大方の下級兵士と同じでサルのように突き出て、手には
夜叉姫の特殊能力『
【種別】:下級
【名前】:
【特徴】:集団で行動し、知能は類人猿と同程度。強者に従う習性がある。
【攻撃】:――――
そこまでしか読めなかった。
「ギュアアアッ!!」「ギィィィィッ!」「ギョォォォォォッ!」
黒い兵士ヴァルゲアーは大挙して襲いかかってくる。
「はっ!!」
ザシュッ! ザンッ!
一体一撃で身体を両断できるけど、敵は数で圧してくる。
「
六花が
「はあっ!!」
凍結したヴァルゲアーを一本背負いの要領で投げ飛ばし、他のヴァルゲアーにぶつける。
「ウオオオオオオオッ」
「わ……うわっ!」
岳臣君にも虚神の兵士が近づいていく。
「少年!」
六花が左手を前にかざすと、手のひら、夜叉の浄眼からショットガンが出現した。
ダァン!! ダァン!!
数発発射された弾丸は、正確にヴァルゲアーの頭部を打ち抜く。六花は立て続けに自動小銃を出した。
「これを使え!
自動小銃を受け取った岳臣君はうろたえる。
「これって、P90!? でも、日本で使ったら銃刀法違反じゃ!?」
「あーーそうかよ、だったら法令遵守してそのままやられちまえ!」
「は、はいっ!!」
意を決した岳臣君は、自動小銃を構えてヴァルゲアーを撃つ。
タタタタタタタン タタタタタタタン タタタタタタタン
「ゴアッ!!」「ギィッ!!」「ギャッ!!」
連射して三体を倒した。虚兵は消えずにその場に倒れ込んだ。
「いいぞ、少年!」
岳臣君はすぐに肩で呼吸をする。なんだか辛そう。
「六花さん、この銃いきなり重くなったし、なんかすごいおなかが減るんですけど……それになんだかだるいし」
「あーー、普通の武器だと、
銃に妖魅
「えっ!?」
「あとでなんか食わしてやるから、死ぬよりましだろ! 自分の身は自分で守れ!」
六花は倒れているヴァルゲアーたちに、雪蛇刀を突き刺してとどめを刺していく。
「はい……!」
ヴァルゲアーは残り少なくなってきた。
けど中空に大きな洞ができた。中からヴァルゲアーとは比べものにならない、巨体の虚兵が出現した。そのまま着地する。
ズ ズン!
ヴァルゲアーに似ているけど、甲殻の肩当てや腰当てみたいな
【種族】:中級虚兵
【名前】:
【特徴】:ヴァルゲアーの巨大亜種。下級虚兵を率いる、中隊長の役割を果たす。
攻撃:
大きく、使い込まれた
「グロロロロォォォーーーッ!!」
「さすがにあれは銃じゃ無理だわ。少年、下がって」
涼子、私が
と、六花は雪蛇刀を何度も振る。
「わかった」
私も瀑布刀を構えてヴァル・グラードに突っ込む。斬りかかる、と見せかけてガードしたまま適度に距離を置いた。
「ウオオオオオオオッ!!」
ヴァル・グラードが吠え、戦斧を振り下ろした。
ゴォン!!!
局地的な地震が起きたようだった。振動で手足が軽く痺れる。が、この機を逃さず瀑布刀を地面に突き刺す。
御滝水虎、お願い!
地面から水が噴き出しヴァル・グラードと戦斧に水流を浴びせた。
もちろんこの攻撃では大したダメージは与えられない。でも……!
「六花!]
「おう!!」
私が横に退避するのと同時に、六花が叫ぶ。
「夜叉縛鎖、『氷』!!」
帯電した左腕から光線が発射される。私が放った水とヴァル・グラードに当たった瞬間、全てが真っ白に染まった。
――――ゴウ……ッ!!
「はあああ……っ!!」
間髪入れず、抜き胴を見舞った。わずかの抵抗もなく刃が
直径2mほどの胴体を輪切り真っ二つにする。
――――ガ シャ――――ン
次の瞬間ヴァル・グラードの全身は砕け散った。
「涼子、まだ油断はしちゃだめだよ。『蜃気楼』の結界にまで虚を侵入させてくるってことは、幹部が近くにいるはず」
私は無言であたりを見回す。
「すごい! あんな大きな怪物を……」
そこまで話すと、岳臣君の次の台詞は不意に途絶えた。
口は閉じていたが、頬が不自然に膨らんだかと思うと、口から濃くて赤い液体を噴き出した。
胸に大きな穴が開いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます