第22話 「覚えててね。」



それから僕の、シュウイッカイのタビがはじまった。


はんぶんは、パパがオシゴトで行けなくて、

ママがうんてんして、僕はじょしゅせき、ってとこにいた。


きゃりーのなかだけど。


僕はせんせいのチリョウが終わると、必ずハナのあたりから、

たらーってなにかが垂れてくるようになった。


それを見て、パパもママも、見るたびにふいてくれてた。


「まあ膿が出てるようなモンなのかな。」


あいかわらずダルイのも続いてた。


それなのに、シュウイッカイのタビは続いてる。


「さて、行ってくるねー!」


「はーい、気をつけろよー。」


パパが行けないときは、そうやって、ママとふたりでおでかけする。


お出かけする先が、楽しいところだったらいいのに。

そして、これも相変わらず、セドにはしゃーーー!ってされる。


「行こうか、リオ。」


ママが笑って、僕のきゃりーを入れるフクロをちょっとあけてくれて、

僕がいつでもママの顔を見られるようにしてくれる、いつも。


まるで大丈夫だからね、って言ってるみたいに。

うんてんしてる間にも、オンガクをカケテくれて、

僕を楽しくさせてくれるみたい。


あとはね、とちゅうでとまると、何かしら話しかけてくれる。


「リオー!」


「ヤだねぇー」


「ツラいよねぇー」


「お前はどうしたい?」


「このままつかなかったらいいねぇー」


僕はすかさずお返事してる。


それでもやっぱり、びょういんにはついちゃって。


シュウイッカイの、ママのよろしくお願いします、と。

シュウイッカイの、せんせいのお預かりしますと。

シュウイッカイの、マスイチュウシャで、

僕はイヤでも眠りに落ちる。



そして毎回、目を覚まして、ぼんやりした中で、

きゃりーのなかから、よく見えるママのにっこりしたかお。


うけつけのひとに呼ばれて、ママがナニカヤッテル。


「すいません、カードでお願いします。」


僕はぼんやりが続いたまま、ママがきゃりーごと、よいしょ、

って言いながら、よろよろとしたあしどりで、クルマにもどる。


ゴメンね、ママ。

僕、重いよね。

コメブクロフタツブン、だからね。


「さーて、帰ろう、リオ。」


にこにこ。

ママのかお。


また、来るときと同じみたいに、クルマに乗って、イエに帰る。


ただいまーってママが言ってから、きゃりーをあけると、

僕はイチモクサンに出るんだ。


そして、またまったりとしたまいにちが続く。

シュウイッカイのタビの日のほかは。


僕はね、ママのひざとか、ママのそばがだいすきなの。

いくらワルイコトして、こらー!ってシカラレテも、

やっぱりママだいすきなの。


ママがユカにぺたん、ってスワルと、いそいそと乗っちゃうんだ。

ここは僕の、僕だけのバショだから!

ムイシキにのどがごろごろぐるぐるしたって、

それもしようがないことなんだ、

だって僕はママがだいすきだから!


そしたらママはね、しようがないなぁ、なんていっときながら、

パパにこういわれてる。


「リオはママが大好きなんだなぁ。」

「ママもリオが大好きなんだなぁ。」



だから、ふとした時には、ママのことじっとみてるの。

ママはそのたび、にこにこしてくれるから。


でも、僕がチリョウをはじめてから、ママがフシギなことを言い出した。


「リオ。」


僕の目をじっとみて。


「覚えててね。」

って。


「覚えといてね。」

って。


それは、ジュモンみたいなヒビキの、新しいコトバ。


イミはわからないけれど。


そのコトバのヒビキと、ママのかおが、僕の中で重なった。



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