ぜんまい仕掛けの翼
針金
その痛みは、例えるなら血管に針金を通しているかのようなものだと思った。
細い血管を、その壁を、削りながら、傷つけながら、少しずつ体の奥へ金属を通しているかのような感覚。絶対に手が届かない場所――届いてはいけない体の内部に、届いてしまっている感覚が確かにある。刃の痛んだナイフで傷を刻んでいる感覚を確かに感じている。
もちろん実際に血管に針金を通しているわけでないのだが、この痛みが一体どうやったら引き起こされるのか、想像することができない。少なくとも、味わったことのない痛みであることは確かだ。
顎から滴り落ちる汗を拭う余裕もありはしない。そんなことをしてしまえば、全身を少しずつ侵しているこの針金の痛みが、容赦なく肉を貫くだろう。
全身が自分でも驚くくらい冷たい。出血のだけのせいじゃない。この全身を内側から掴まれるような胸糞悪い悪寒のせいだ。
全く、こんなこと、一人でやるもんじゃない。麻酔なあり何なりして、他人にやらせるのが正解だろう。もっとも施術を終えたところで、痛みが引いている保証はないが。
それでも、後戻りはできない。
やらなきゃいけない。
やらざるを得ない。
ここで引き返しては何も成し遂げられない。
例え成し遂げることができたとして、そこに誰かの幸福なんてものは転がっていないことはわかっている。
そうだ。これはエゴだ。
誰かのためなんかでは決してない。
ただ俺が気に食わない。
それだけで無茶をするには十分な理由だ。
そうだろう?
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