リリアン=レイヤードの才は、平凡だった 1
リリアン=レイヤードの才は、平凡だった。
天翼人の翼は、何より飛翔のテクニックが価値あるものとされている。風よりも速く飛べるもの、鳥よりも高く飛べるもの、そして向かい風にも負けずに飛び進める硬さのあるもの。翼を持つ人々にとってそういった飛翔に関する能力こそが求められている才能であり、有意義なものとされていた。
貴族の位を上中下で三分割するとすれば、レイヤード家の位は下だ。正直空を飛べはするものの、大地人と大差ない扱いだと感じている。
実際にリリアンの飛翔速度は、並みの天翼人よりずっと遅い。フライキャリアのレースにおいても、ローズガーデンはレイナとシルヴィアを先に飛ばすという戦法を取っているが、それはリリアンが二人の飛翔速度に付いていけないからに他ならない。
『あー、あー。こちらシルヴィア。リリアン、調子はどうだ?』
フライデー準決勝。
スタートの合図から一〇分ほど経過していた。リリアンは二〇キロほど飛んだところだが、先を行く二人はそろそろ合流地点の三〇キロ地点を超えるだろう。
「は~い。視界良好。そっちはそろそろ合流地点ですかー?」
『おう。予定通り先行できそうだ』
本日の敵対チーム。
チーム名は『シュネール』。
チームリーダーはソニア=マクレラン。一〇〇キロ飛行マラソンのタイトル保持者だ。
フライキャリアは妨害有りの一〇〇キロ飛行レースだが、同じ一〇〇キロを妨害なしで走りきる――もとい飛びきる速さを競う競技が存在する。それが一〇〇キロ飛行マラソン。通称『一〇〇マラ』あるいは『一〇〇』。フライデーの競技種目の一つでもある。
レイナ=カータレットの速さは、瞬間最高速度だ。一瞬を駆け抜ける速さであれば、レイナはローズガーデンはおろか浮島のどの天翼人よりも速い。
一方でソニア=マクレランの速さは、超長距離を一定速度で走りきる持久飛行の速さだ。何の妨害もなく飛ぶことができるのであれば、ソニアよりも速く一〇〇キロを飛べる選手はいない。
シュネールの戦法は実に明快だ。
ソニアは一〇〇キロという距離において誰よりも速く飛べる。だからソニアには好きな速さで走ってもらう。他の二人がソニアを護衛し、時間を稼ぐ。例え護衛の二人が敗れても、ソニアさえ守りきればいい。単純だがもっとも速く一〇〇キロを飛破できる戦法だ。
「でもいいんですかー、シルヴィアちゃん」
『何がよ』
「私だけじゃなく、シルヴィアちゃんも使ってしまって」
シュネールに勝つためには、とにかくソニアの翼を止めないと話にならない。だがシニアを直に妨害できるなら他のチームがそうしている。にもかかわらずこれまでの試合、彼らと当たったチームはソニアに指一本触れられずに敗退している。
『シュネールの脅威はソニア=マクレランじゃない。盾役に徹してる二人が硬すぎるんだ』
シルヴィアの指摘通り、シュネールの速さを支えている最大の理由は、ソニアを守る二人の選手だ。ソニアを止めようにも、妨害が全て防がれる。二人の盾役を落とせないがために、ソニアを止められない。そういう理屈だ。
「だから私が――」
『わかってるさ。お前のそれは不可避だ。だが……なんか奴らはおかしい』
「おかしい?」
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