リリアン=レイヤードの才は、平凡だった 2
試合前のミーティングではそんな話は上がっていなかったはずだ。
『相手にマクレランがいる以上、まずはマクレランを足止めしないことには話にならない。いくら盾役二人が頑張って防ぐって言ったって、三人がかりの相手を足止めするのはそうそう簡単じゃない。一人でもマクレランに追いつかれて彼女を落とされれば、それで負けなんだから』
もちろんソニアだって黙って撃ち落とされたりはしないだろう。だがそれでも彼女の武器は速度だ。少なくとも勝負がマラソンから乱闘に替えられなければ、ローズガーデンに勝機はない。
「対戦映像を見た限りではこれといった異常は気づけませんでしたが……」
『それこそ異常だとあたしは思う。でも何かしらの種はあるはずなんだ』
リリアンが見た限り、過去の対戦チームは普通に戦い、普通に負けている。
ソニアを足止めしようと動き、だが他の二人に止められ、逆に足止めされ、気づいた時にはレースは終わっている。対戦チームがどんな戦法を取ろうとも、シュネールの対応は変わらない。ソニアを守り、ゴールさせる。それだけだった。
「ままならないわね」
『まったくもって、馬鹿にしてくれる』
シュネールが何かしらの隠し玉を持っているのはわかっている。
だが、問題ない。
『ここまであたしたちに何も気づかせなかったことに最大限の敬意を払って、叩き潰す』
リリアンとシルヴィア。
ローズガーデンにも、ちゃんと隠し玉があるのだから。
「それにしても、どうしてミーティングで話さなかったんですかー? レイナちゃんの耳にも入れておいた方がいいんじゃないですかー?」
『レイナは、あー、今日は飛ぶのに集中させようかと――』
『聞こえてるわよ! あんぽんたん!!』
通信を遮って、レイナの声が鼓膜に響く。てっきりシルヴィアとの個人通信の回線が繋がっているものだと思っていたので、リリアンは少なからず驚いた。
『あっれー、ごめん。レイナにも聞かれちゃった』
レイナに通信傍受の技術はないし、シルヴィアが回線を開き間違えるなどらしくない。
つまり、わざとだ。
『ミーティングで話す必要もないからだよ。やることは変わんない』
確かに相手がどんなチームで、何をしてこようと、レイナがやるべきことは変わらない。もちろん相手チームの情報があればレイナの行動は多少変わるかもしれない。だがそれでもレイナがやるべきことは、全ての弾丸を躱し、誰よりも速く飛ぶこと。それだけだ。例え相手が、一〇〇キロ最速の女王でも変わらない。
それを知っているからこそ、シルヴィアはあえてミーティングでは言及せずに今言った。
伝える意味もない些末な問題だから引きちぎれとレイナに。
そして、相手が何をしてこようと些末な問題にしなければならないとリリアンに。
このタイミングで言うからこその意味を持たせたのだ。
『大丈夫よ。相手が誰だろうと、一番速いのは私だから』
レイナはいつもそう言う。
チームの不安を自分の不安と一緒に背負い込んで、言葉に込めて蓋をする。
レイナが緊張していないわけがないし、気負っていないわけがない。それはきっと自分やシルヴィよりも重たいプレッシャーを感じているに違いない。
それを知っていながら、レイナのその言葉を聞くと、安心してしまう自分を否定できなかった。
「じゃあ……」
でも今日は、全力を出すと決めている。
だから今日は、レイナの不安を少しだけ背負ってあげられるかもしれない。
「今日は私が、三人とも落としますね」
リリアンはそう言って、いつもは使わないもう一つの翼を広げた。
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