能弁なお婆ちゃん

葉っぱ

 秋の日は釣瓶落し。

 奇奇怪怪で何でもありの世界でも、季節はちゃっかりと巡っていた。

 今更であるが、物語は架空。実在する団体や人物は無い。

 しかし、似てるがもしかしたら近くにいるかもしれない。見ても気のせいだと思うのがかしこい選択だ。


 蓋を開くも閉めるも、すべての為。物語の中心人物である作蔵を生暖かい目差しで見守って欲しいと願うーー。


 ***


 ーーばんざーい、ばんざーい。


 作蔵の万歳三唱が何を意味しているのだろうかと、複雑な思いだった。


 両手に抱えきれないほどの花束を渡される。と、いうのは夢の中の夢を通り越して考えが甘かったとしか、いいようがない。


『ただ今、マイクのテスト中。夕焼け肥やせ、今日の晩ごはんは《一文字ぐるぐる》』


 作蔵、無茶苦茶過ぎるぞ。

 某地方の郷土料理をどさくさ紛れに紹介しただけだ。


「察しなさい。作蔵だって、嬉しさを……。では、なくて辛さを堪えてるのよ」


 伊和奈さん、顔がおもいっきりほころびてるよ。


「『笑って、笑いを見ながら送られたい』と、いう依頼をうけたまわった。依頼主は、俺たちの『仕事』の様子を言葉で伝えていた。踏まれようが駆除されようが、それでもおまえはーー」


 作蔵、よすのだ。此方がむしろ、新しく時を刻む為の勉強をさせて貰えた。だから、湿っぽい送られ方は嫌なのだ。


「いってらっしゃい。そして、おつかれさま」


 伊和奈が目から涙をぼろぼろ溢していた。作蔵は、此方に背中をみせているが、肩が震えていた。


 さてと、太陽を目指して羽ばたいていくことにしよう。


 ーーさらばだ、作蔵……。


「作蔵、今度からの『語り』は“何モノ”がするのかは、決まってるの」

「募集は、した。生のイキモノ、わけありイキモノ。今から選考をするから、補助を頼むぞ」

「『語り』の代理。仕方ないわね」


 と、いうことで、わたし伊和奈が今回の話を語る。

 さっきまで『語り』をしていたモノは、結局何モノだったのと、知りたいでしょう。

 でも、残念ながら正体を明かすことは出来ないの。


 何故ならば、物語の主観は『謎』だから。


 そろそろ、本題に入るよ。

 今日は、新しい『語り』を決める。

 作蔵は、前もって募集をしていたみたい。

 すでに応募“モノ”が家の玄関前でぞろぞろと、行列で待っていた。


 ひとり……。それとも1個。

 固体、物体、液体。どうやって呼べば良いのかわからないけど、作蔵は無数の“モノ”と面接をした。


 ーー……。


 ーーにゃあ。


 ーーばいた。


「ごめんなさい」


 面接を受けた“モノ”の独特な『喋り方』に苦悩しながら結局、作蔵はいつまでたっても選ぶことを躊躇う様子だった。


「作蔵、あれだけ集まっていたのに決まらないの」

 わたしは疲労困憊状態の作蔵に紙コップに注いだ麦茶を出した。


「今日だけでは無理だ。すまぬ、伊和奈」

 作蔵は麦茶を一気に飲み干して、わたしに空になった紙コップを渡すと畳の上に転がるように仰向けになるといびきをかいて、あっという間に寝に落ちた。


 いつもだったら、布団で寝なさいと叱るけれど、さすがにできなかった。

 わたしは押入れの引き戸を開いて一重毛布を取り出し、作蔵の上に被せた。


 ーーんがぁああ、んごぉおお。


 部屋を出ても廊下を歩いても台所にいても作蔵のいびきの音量は凄まじい。


 あ、わたしが部屋を出る前に作蔵が寝言を言っていた。


 ーー師匠、今まで俺につきっきりをしてくれてありがとう。あんたが言い残した『語り』だけどさ、すぐにさっと、見つからないな。


 寝言。確かに、寝言だったよ。

 作蔵、焦らずに『語り』をさがそう。

 そういえば『師匠』は、庭に植えている茄子をかじるのが好きだったよね。

 今日の晩ごはんのおかずは茄子の煮浸しにしよう。


 わたしは、鍋いっぱいのおかずを作った。

 勿論、作蔵の『師匠』のぶんまでたっぷりとーー。


 ーー作蔵は、どこまで『奴』なしでやっていけるかのう……。はっはっは、見ものだ、見ものだ。


 はっきりとした嘲笑いが、わたしに聞こえた。

 まるで、これからはじまるだろうの本当の『謎』との闘いのようだったーー。






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