リアルワールド、アンダーワールド。

Zyam-ing Triangle

第1話 グランド・テスター

 わたしのお兄ちゃん、浦嶋 太輔はとびっきりの変人だ。

 暇があれば時代遅れの綿パチのグレープ味をを食べながらパソコンに向かい、ステーキも何かをしながら食べられないから嫌だという理由だけでサイコロステーキを好むし、二日酔いになると自分の脳活動に支障が出るからとか言ってウコンハイか、緑茶しか飲まない。

 見た目は好青年面していて、いかにも開発者という雰囲気を出しているが身内からしたらただのうねうねにゅるにゅるした気持ち悪い人にしか見えない。そして極度のブラコン、シスコンであるが。

 Sなのか、Mなのかが全くわからない。

 正直、そんなお兄ちゃんのお陰でわたしはだいぶ迷惑をしているのだが、ただ彼のお陰で得している事も少なくはない。

「おーい、うらしま~」

「……」

「うらしま~、無視すんじゃねえよ」

 彼は片原 幸彦。小学校からの腐れ縁で高校まで同じという…… ま、全くと言っていい程異性として魅力が感じられない幼なじみである。

 色々とわたしの事を気にしてくれているのは有り難いのだが、コイツは本当に真面目な時じゃないとわたしの名前をちゃんと呼ばない。

 まあ、まだ百歩譲って今、この瞬間だけだったらいいのだがそうじゃない場面でも間違える。

「ストライクちゃん」

「……おい、殺すぞ。現実でその名前で呼ぶなって何百万回言ってるっけ?それにわたしの名前は……」

「ごめん。ごめんってば、うら“じ”ま」

「わかりゃいい」

 ファイティングポーズを取った刹那、幸彦は身を後ろに引いた。

 わたしの名前は浦嶋 かなめ。

 うらしまではなく、うら“じ”まである。よく間違われるのは仕方ないのだが、兄が公の場でやたらめったら自分の姓自体を間違え、世間一般に誤認識されてしまっているから頭が痛い。

 で、幸彦は常にそんな兄の巻き添えを食らっている一番の被害者だ。

 そして大体彼が声を掛けてくる時はロクな事がない。

「今日、覚えてる?」

「え。ああ…… そういえば今日だっけ?

 もういちいちスケジュールとか覚えてらんないからさ」

「また変な食べ物とか出てこなきゃいいんだけど。

 あれで一週間はお腹壊したから」

(ああ。前回のあの悪戯か…… すまん。すまんな、ゆっきー)

「兄ちゃんには釘刺しておいたから。安心しな」

 わたし達は見ての通り身なりは普通の高校生の男女だ。

 正直な話、お兄ちゃんの協力と言ってもアルバイト感覚でずっとやって来た事であるから、あっちの方に行くのも慣れてしまっている。

「今回のって何だっけ? プロジェクト」

「シュタイラーさんのファビアット・クロスでしょ。前回あれ、触って見た感じ悪くなくって。世界解放楽しみだなぁ」

「そだな」

 正直いちいち楽しんでられないのだ。待っている人の事を考えると時間が足りなすぎる。いろんな人に愛されるためには、いろんな視野を持っていないと世界創造なんてできない。

 良くも悪くもそういうトコは感化されているのが悔しい。

「あ。かなめさん。おはようございます」

「ありか。おっはよう。ごめんな、今日急にダイブする事になっちゃって…… 本当は相談乗ってやりたかったんだけど」

「もう!その話は違うとこでって言ったでしょ。

 かなめさんのお馬鹿!」

 人って…… 真面目な人ほどからかうと楽しい。

 わたしのリアルでの数少ない友人の一人、国原 ありか。

 知り合ったきっかけは某仕事で彼女のお父さんの仕事で対面する機会があり、それ以来の仲だ。

 わたしがやっている事も事なので学校では浮きがちになるんだけど、彼女ともう一人の大親友だけは手を離そうとはしない。

「お。アタシも混ぜろっ!」

 いきなり抱きついてきたのがそのもう一人。

 阿楠川 光利。よく名前で男の子と間違われる事も多かったのだが、幸彦同様わたしの古くからの友達、いや、同士だ。

「あ。ひかり。元気だねえ……

 昨日はイベントだとか言ってたからもっとグロッキーで来るのかと思ったよ」

「あのね。毎回それじゃボク達の本分、成り立たないでしょうが……。

 それに今日は仕事なんでしょ。そっち」

「ゆっ……」

 幸彦に睨みを効かそうとした時点で全力で否定された。

 所を見ると現状どうしてわたしのスケジュールを知り得たのかはだいたい一択になる。ただか弱いと思っている女子高生がそれをやってしまっている現実がわたしただただ怖い。

「またウチのデータベース、覗き込んだんでしょ。

 いくらひかりがスーパーマルチタスクだからって…… 法を犯すようなリスキーな事はやっちゃ駄目ってあんだけ……」

「……惜しい。25点だ。ほい」

「ん…… これは。はぁ~~~~!」

 浦嶋 太輔からのメールがひかりのスマホには出ている。読ませてもらうと何故かこの一月の自分の予定がぎっしり書かれている進行表のようなものが載っている。

 そして最後の一文、妹のバックアップ、よろ~ と。

 あんのぉ、クソ兄貴がぁぁぁ……

「かなめ。ま、どうしてもこっちの世界で迷子にならないように、太輔さんもクソ馬鹿野郎なりに心配してんだよ。これが来た時点で情報漏洩なんじゃないの、アンタ馬鹿か。とは、返しておいたんだけど」

「そこは…… うちの兄がごめんなさい」

「いえいえ。まあ、一回やった世界ベースと言いながらもあの人の事だから無理をだいぶ言うだろうから、無茶だけはしないようにね」

「あんがと」

 浦嶋 かなめ、16歳。

 現役女子高生にして昨年度の年間最優秀テスター。それがVRMMOの世界と共存しているわたしの肩書きであり、兄はその世界を統率する最強の開発者にして、最悪のシナリオライターだ。

 正直、魔王とかよりガチで厄介だし、頭が痛い。

 身内としても、ゲーマーとしても、だ。

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