第15話 政治
さて問題はコロニー7の市長戦、与党世俗派から立候補したリチャード・スミス氏と清廉派から立候補した、イ・ユルクォン氏の一騎打ちとなった。スミス氏の方は今の路線を
引き継ぎ自由・平等を旗頭に初当選を狙い、
清廉派は現状に妥協しつつも聖人教育の強化を狙い、より一層の理想を追い求める施策をうちだした。具体的に言うと社会主義的な労働の一層の改革、資本主義のせいで性悪説になりがちな思想の教育の改善、を掲げる精錬派と旧来の部分的改善を目指す世俗派の対決だ。
このコロニーの産業は宇宙船の造船である。
そのため地球から資材を調達し加工貿易で
火星や金星に売ることで自治体は成り立っている、最新の工場なので注文は10年後までいっぱいである、また自治体そのものが企業である、そのため自治体イコール労働組合である。という特殊な自治体になる。そのため
福祉にお金がかけられている。そして最低財産の人と最高財産の人が3倍以上になることを禁止している。
そして出産休暇は当たり前である。そんな世界だ。
イーグルは言った。
「コロニーの議会は多種多様な人種、宗教の上に立つ社会を目指し、のちのち造船の仕事が無くなった時の産業なんかを考え、その上聖人や先哲の教育をおこない、資本主義経済と一線を隔してきたのだけれど。まだ答えはでてないなぁ」
イーグルはいろいろな角度で悩む。もちろん政治家達もである。地球では失業している人にたいする教育を充実させることに熱心な
国家が多い。結局ある一定レベルの努力をしてもらわないと困ると地球連邦では結論がで
た、つまり小人閑居して不善をなすである。
しかしこの世にはもっと深刻な問題がある。
格差社会だ。教育の無償化や怪我の失業保険かあっても埋まらない格差、このコロニーでさえ相互不信の風の下不信はつのる一方だ。
忍び寄るエゴ、コネという堕落、最低限の食料や衣類、住宅が支給されてもある。会社と下請けの関係。政治家たちはなんとかしようとある一定枠下請けの会社出身の人を入れるよう指示を出すのだが、それさえ地球の自治体になるとワイロをよこせと言われることも普通だ。しかし頭の中ではわかっていても対策がうてない、現代社会のひずみである。
ここからは我々若人が考える問題である。
憧れの人が騒がれるのが美しいと取るか、腹が立つと取るか、意見の分かれるところだ。
世の中才能がないなんて考える。若人はいない、しかしその中のほんの一部の人だけが勝ち上がり、桧舞台に立つ。当然のごとく騒がれる。今度は俺がと言う思いの上に、しかし、若人も夢を失いやがて冷めた目で見るようになる。来世では・・・。の思いで。
当然のように政治家はそのしらけたムードを打破しようと試みるもまだ成功した試しがない。だからこそ人は次にくる若人の政治家達の策を待ち望みながら。
『もしも、人類が誰もが夢を追って生きることができる世界ができたらどんなに素晴らしい世界になるだろうか?それは人類の嫌なことをしてくれるロボットが必要だろうな』
とイーグルは思った。
「どうしたんだいイーグル!」
「ちょっと考えごとさ」「ちょっとね」
いままでこの話でこのコロニーの問題をかいわ見たことだと思うが、平等な社会といってもやはり問題はある、現実はそう甘くないのだ。ここまで理想郷のように書いてきた世界にもやはり問題はある。
そしてこの若者たちも挫折することもあるだろう、しかし若者は世の中の不条理と戦い続けるだろう、それが若さの特権だ。
そして、イーグルの考えはまだ高望みだ。
このコロニーの衣食住が保証された生活でさえ地球では羨望の的だ。それほど地球では大分進歩したものの平等の考えは遠く、またある一定の平和な生活が完全に保証されたわけではない。
「ユルクォン氏の考える世界は素晴らしいなぁ。なんとなく論語の説く理想世界のようだ・・・」
「僕の意見は違うね。スミス氏の意見が正しいと思うぜ。人に努力を説教するやつに限って自分では努力をしない」「自分達ではしょうもないことを討論してるくせして、他人には嫌なことをさせる」「嫌なことばかりな人生なんて……。」
「おいおい僕達の努力もしょうもないことというのかい。僕たちは他人にはばがげたことのように見えるけど、なにかの役にたつと思って頑張っているんだぜ」
「それはわかっているさ。しかし人には好きずきってものがあるだろう。しかし清廉派の考えることと言ったら僕らをまるで個性のない猿か何かのようにいうんだぜ」
さてスミス氏の街頭演説にはスミス夫人も来ていた。スミス夫人はスミス氏のことをこうほめた。
「我が夫はこのコロニーで暖かい家庭の柱として奮闘し平凡な中にも素晴らしい労働者として頑張りました。どうか清き一票を!」
「よっ、苦労人」
と掛け声が上がり、スミス氏はこう言った。
「これからも格差社会と戦い、このコロニーの夢を守っていきます!」
「よっ、大統領!」
「では、自由、平等のこの難しい両立のため奮闘していきます」
わーと歓声があがりスミス氏は去っていった。
ユルクォン氏の街頭演説もあったが人は集まらなかった。
翌日の選挙日コロニーは快晴に設定され、
沢山の人々が集まった。即日開票でスミス氏の当選が大差で決まった。
「ありがとうございます、皆さんの信託を受け止め、懸命に頑張りたいと思います」
あちこちでフラッシュがたかれ、喜んだスミス氏がテレビに写った。
「やっぱりスミス氏の圧勝か」
「何故なんだ、スミス氏の言ってることは当たり前のことじゃないか!」
チェンは怒った。
「今回は争点が見えにくかったからなー」
「まぁそう怒るなよ」
イーグルは言った。
「人は高貴な理想に燃える人ばかりではないってことさ」
「何をのんきなことを言ってるんだ。ああいつになったら孔子先生を目指すひとが市長になってくれるんだろう」「これじゃ無駄に時間を使うだけだ」
「なぁチェン、人類には飛ぶ前に助走が必要なんだよ。」「余裕のないところで飛んでもハードルをクリアできないさ……。」
「しかし……。」「僕は勉強をやめないぞ!」
「いつか」「理想社会を夢見た聖者のように」
チェンはいって家へ帰っていった。
僕とカールはやれやれという顔をして。それを見送った。
「まっすぐだねぇ」
カールはそう言って肩をすくめて。
「じぁ俺も家へかえるわ」
と言って早足で去って行った。
『チェンはまだまだあの頃のままだな。良くも悪くも』
そう心でつぶやき。ふたりと同じく家路についた。
『人類の未来はまだ夜空のようだな』
夜空に散らばる星を見ながらそう思った。
人類の未来は夜空に等しき闇の中にある。
しかしそこにはチェンのように何かをつかもうとしている名も知れぬ星が光っているのだ。
第十五話 完
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