第12章2話 共和国会議会議場
中央派閥、北部派閥、南部派閥の垣根を越え、18人の王が集まった会議場。円卓を囲み、老人たちが話し合う中、突如として、会議場の天井を突き破り2人の魔族が会議に――文字通り――飛び入り参加した。
「我こそは魔王、魔王ルドラである」
「私は私は、魔王様の側近主席ラミー・ストラーテです!」
天井の破片が散らばり、ひび割れた床に立つ、黒い翼とマントをはためかせた魔王と、赤髪をたなびかせ笑った口から牙をのぞかせるラミー。当然、18人の王たちはざわめく。
「魔王が、どうして共和国会議の場に……!」
「何をしに来た!?」
大声をあげた王たちは、主に南部派閥の王たちだ。中央派閥の王たちは魔王の登場に怯え、北部派閥の王たちは見慣れた者の登場に黙り込んでいる。南部派閥の王たちは、政敵である北部派閥――ヤカモトへの非難も忘れない。
「ヤカモト陛下、これはどういうことだ!?」
「北部派閥と魔王が盟約を結んだとは聞いていたが、なんだねこれは!」
立ち上がり、ヤカモトを口撃する南部派閥の王たち。しかし、ヤカモトは椅子にどっしりと座って、南部派閥の王たちの口撃をあしらった。
「私に聞かれても困る」
それだけ言って、南部派閥の王たちを無視してしまうヤカモト。彼は微笑み顔を魔王に向け、魔王に質問する。
「魔王ルドラ殿、今日は何の用かね?」
ヤカモトはいつもと変わらぬ調子だ。彼にとって今の状況は、想定の範囲内なのだろう。魔王はニタリと笑って、会議場に声を響かせた。
「ひとつだけ質問がある。ラミー、頼んだ」
「お任せくださいお任せください」
魔王の信頼を喜びながら、ラミーは共和国の王たちを一瞥し、笑顔に牙をのぞかせながら口を開く。
「質問です。封印された勇者の魔力、3つ目の魔力の在り処はどこですか?」
前置きもなく、単刀直入な質問。これに対し、ただでさえざわついていた南部派閥の王たちは、一斉に怒鳴りはじめた。
「人間界の敵に、そんなことを教えるわけがないだろう!」
「我々を舐めているのか?!」
「衛兵を呼べ! この場で魔王を叩き切ってやる!」
勇ましく攻撃的な言葉に一方的にさらされる魔王とラミー。ラミーは苦笑いを浮かべ、思わず呟く。
「ううん……南部派閥の皆さんとは話し合いになりませんね」
南部派閥との話しはできない。ならば、話し相手も話し方も変えるしかない。魔王はそう考え、すぐ側に座っていた、中央派閥所属と思われる国王に目をつけた。
「仕方あるまい。お主、名は?」
「余か? 余はナカルー王国国王のベシルだ」
「ではベシルよ、少し話がある」
それだけ言って、魔王はベシルが着る立派なコートを両手で掴み、翼をはためかせた。次の瞬間には、魔王はベシルを連れ空を飛び、天井の穴を超え、数百メートルの高さで止まる。
風にさらされ、宙にぶら下げられた形のベシル。下を見れば、会議場はおもちゃの建物のように小さい。今、魔王が手を離せば死ぬ。魔王の両手に、ベシルの命はかかっている。ベシルは恐怖に支配された。
「た、助けてくれ! 殺さないでくれ!」
「死にたくなければ答えろ。勇者の最後の魔力の在り処はどこだ?」
表情ひとつ変えない魔王の質問。だがベシルは、質問に答えようとはしない。
「言えない! それを言えば余は人間界の――」
呆れた魔王は、ベシルのコートを掴む手を放した。ベシルは風を切り、悲鳴とともに地面へと真っ逆さまに落ちる。
ベシルが会議場に空く穴を通り、会議場の床に叩きつけられようとした瞬間だ。急降下した魔王がベシルを掴み、ベシルは死を免れた。魔王は迫力のある低い声で、ベシルに言う。
「死への恐怖は十分に味わったな。次は死そのものを味わうぞ」
明確な脅しに、ベシルの心は生への執着以外に何もない。彼はついに、魔王の質問に答えた。
「ミュールンだ! 空中都市ミュールン! お願いだ! 殺さないでくれ!」
自分の命を救うため、勇者の最後の魔力の在り処を暴露したベシル。魔王はベシルに笑みを浮かべ、彼の命を救う。ところが、ベシルの命の危機は終わっていない。
「ベシル! 貴様は人間界を裏切ったな! 魔王に醜くも命乞いまでしおって! 貴様はこのトラフーラ王モイセスが切り捨ててくれる!」
「陛下! お止めください!」
激昂した南部派閥の長、トラフーラ国王モイセスは、剣を手に取りベシルに斬りかかる。これには他の南部派閥の王たちも焦り、モイセスを止めた。しかし今度は、中央派閥の王たちが激昂してしまう。
「何をするのだモイセス! これは中央派閥への宣戦布告と同じだぞ!」
「腰抜けのベシルを庇うのか? こいつは人間界の裏切り者だ!」
あくまで非を認めようとしないモイセス。これを見ていたヤカモトは、事実上の共和国の長として、無感情に言う。
「確かにベシル殿には、重要機密を魔王に漏洩させた罪がある。だがそれ以上に、王を切り殺そうとしたモイセス殿の罪の方が重いと思うがね。2人の処罰は、私たち共和国会議で決めるとしよう」
政敵モイセスの権力を奪うチャンスをヤカモトは逃さない。ヤカモトはさらなる権力拡大に興味が移ってしまったようだ。
用事を済ませた魔王は、共和国会議にこれ以上参加する気はない。
「どうやら共和国会議は忙しくなりそうだな。ラミー帰るぞ」
「はい!」
ラミーは魔王の腕をしっかりと掴み、魔王は翼をはためかせ、会議場を後にする。空を駆ける途中、ラミーは可笑しげに笑って魔王に話しかけた。
「魔王様魔王様、ヤカモトさんの表情を見ましたか? あの人、あの状況で笑ってました。人間界にも、怖い人がいますね」
あのラミーにすら怖い人と言わしめるヤカモト。魔王もラミーの意見には同意である。
*
ダイス城に帰還した魔王とラミー。城の玄関では、ダートやベン、シンシア、キリアンが2人を出迎えた。
「魔王様、おかえり、なさい」
「ヤクモさんたちの行方は分かったかニャ?」
ぼうっとしながら挨拶するダートと、耳をピンと立てて小首を傾げるシンシアの問いかけ。魔王はニタリと笑い、マントをひるがえし答える。
「空中都市ミュールン。そこが目的地のようだ」
魔王の答えに、ベンやキリアンは納得した様子。2人は世界地図を頭に浮かべ、ヤクモたちの居場所を思い浮かべた。
「ミュールンか。いくら勇者さんたちでも、5日じゃ到着できん距離じゃのう」
「船を使い、風魔法で馬を強化したとしても、2週間以上は必要ですね。ミュールンに向かうには、必ずティエラミュールンに立ち寄らなければなりません。ティエラミュールンに先回りしてみてはどうでしょうか?」
運び屋の言葉と情報通の
「キリアンの言う通りだ。ラミー、ダート、我についてこい。ベンよ、我らをティエラミュールンに連れて行け」
早速、指示を下した魔王。ラミーとダートは素直に指示に従ったが、ベンの表情は曇りがち。
「別に良いが、わしが行くと勇者さんに怒られるかもしれんのう」
そんなことを呟くベンに、ラミーは聞き返した。
「怒られる?」
「たぶんじゃが勇者さん、スタリオンを使えば1日で終わるのに、わざとわしを置いて出かけたんじゃ。わしをマットと同じ目に合わせぬためにな」
なぜヤクモたちはスタリオンを使わなかったのか。これには魔王も疑問を抱いていたが、答えが分かった。ヤクモは、マットを失ったばかりのベンを、死なせたくはなかったのだ。
「ニャ~ヤクモさんは無愛想なだけじゃニャいってことニャ~」
「スラスラ~意外と優しい~イムイム~」
ヤクモの思いに同情し、スーダーエを抱きかかえたシンシア。魔王はもうひとつの疑問をシンシアにぶつけた。
「シンシア、なぜお主、未だスーダーエを連れている」
数時間前に、ヤカモトの内通者であることが判明したスーダーエを、シンシアはなぜ処罰も与えず抱いたままなのか。この疑問に対するシンシアの答えは、なんとも滅茶苦茶なものである。
「スーちゃんはシンシアのペットだからニャ! 誰のスパイだろうと、カワイイことに変わりニャいニャ!」
内通者を許すにはあんまりな理由。おそらく、ヤカモトとの連絡手段を確保しておきたいというのがシンシアの本心であろう。
「フン、まあ好きにしろ。準備を終え次第、出発するぞ」
少なくとも、内通者の正体は分かっている。重要な情報をシンシアに流さなければ、それで良い。
失踪したヤクモたちの目的地は分かったのだ。ヤクモたち3人を見つけ出すためにも、魔王たちはすぐさま、空中都市ミュールン近くの街、ティエラミュールンへの出発の準備をはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます