第2話 部員と違和感
「やっと来たか。まったく、瑛太は重役出勤が板につきすぎだぜ」
校門にたどり着くと、先ほど電話をして来た、間宮 樹が
眼鏡をキラリと光らせて、開口一番嫌味を言ってくる。
「悪い悪い。ちょっと足が筋肉痛でなかなか出てこれなくてな」
「何だ、どこか行って来たのか?
運動能力の高い瑛太が筋肉痛なんて珍しいな」
「それより、乃木坂先輩! 昨日見ました?
高層ビルから落下した鉄筋の動きが止められた動画!?」
そう言いながら俺の腕にしがみついてくるショートカットの女の子が
電話口で騒いでいた2年の逢坂青葉だ。
今も元気いっぱい、力強く腕を組まれる。
「ああ、あれな。どう言う原理かは分からないが、
止めたのは魔法であるって説がネット上でも多数をしめてたな」
「あれを見てトリックって言ってるやつがまだいるのが、
俺には信じられないよ」
生粋のオカルトマニアの樹は眼鏡をクイっと上げて、
やれやれと一人芝居をしている。
「それを私達の手で解き明かす。
今回の合宿の目的だよね、乃木坂君?」
ふわりとした亜麻色の髪をなびかせながら語りかけてきたのは、
同じく3年のオカ研部長の羽浦 光希(はねうら みつき)だ。
しっかり物で部員をぐいぐいひっぱるが涙脆いところがあり、
感動系の映画を見て、涙腺が崩壊する事がよくある。
「あと彼氏募集中」
「乃木坂君、何か言ったかしら?」
俺の言葉を聞いて、光希部長がゴゴゴと聞こえてきそうなくらいの
殺気を纏いつつ、こちらを睨み付けてきた。
「あれ、俺何か言いました?」
「声に出して言ったわよ! ご丁寧にこっちを見ながら!」
ゆらゆらと体を揺らせながら光希部長がこちらに近づいて来たが、
青葉に腕をひっぱられる。
「でも魔法には制約とかがあるんですよね?
それに他人のために危険な目に会う事もあるだろうし、
どんな人がやってるんでしょうね」
「人がやる事にはだいたい意味がある。
ただ自分を省みず人を助けたいと思う人もいるとは思うな。
でも去年あの場で起きた事は、絶対に許す事はできない」
去年の合宿で「非日常」な出来事が起きたのは間違いない。
部員それぞれが少しの間、部室を出ていたとは言え、
数分の間に立夏が跡形もなく消えさるのは絶対にありえない。
そう、今話題になっている魔法使いのような力がない限りは……。
「深いねー。乃木坂君は魔法が使えたら何を願う?」
「そうですね……大事な人を守る……とか?」
「乃木坂先輩ってなかなかのロマンチストなんですね!」
なぜか常に尊敬の眼差しで慕ってくるその人物は、
オカ研唯一の一年生、毛利 崇人(もうり たかひと)だ。
毛利は1年にも関わらず冷静に物事を見て考えるタイプで、
鋭い指摘をしてくれるつわものだ。
「乃木坂先輩が私を守ってくれるなんて……嬉しいです!」
そう言って青葉が組んでいる手を離して、
抱きつこうとしてきたため、すっと交わして距離をとる。
「毛利君は1年だから知らないと思うけど」
「その話はやめようぜ」
光希部長が説明をしようとしたところで、樹に言葉を遮られた。
「え? どうかしたんですか?」
毛利の頭の上に大きなはてなマークを浮かべて
きょろきょろと辺りを見回したため、この場は話をとめる事にした。
「……まあ、そうだな。
ここで騒ぐと人の目があって目立つし、今この話題は止めておこう」
大丈夫、今日はまだ始まったばかり。
部室に入ってからが本番。
「犯人」の尻尾は絶対に掴んでやる。
心でそう誓い、気合を入れなおしていると、
仕切りのプロである光希部長が前に出て、場を仕切る。
「さて、これで今集合すべき部員は揃ったし、
気を持ち直してもう一人の可愛い後輩ちゃんが待つ
オカ研の部室へと参りましょう!」
「おぅ!」
先ほどから表情を崩していない毛利だったが、
光希部長の勢いに乗せられ、声を上げて腕を突き上げる。
その後俺は、すぐに青葉避けのために光希部長の横につき、
後ろでぶーぶー言う青葉を無視して、部室のある旧校舎へ向かった。
旧校舎に辿りつくと、そこには可愛らしい制服姿の女子生徒、もとい
男子生徒の如月 音(きさらぎ・おと)が俺達を出迎えていた。
「乃木坂先輩! 一人で準備するのは寂しかったですけど、
なんとか終わらせましたよ!」
声も中性的で可愛らしいので、男子の制服を着てなかったら、
ほとんどの人に女子生徒と間違えられる。
市内に音と二人で遊びに行った時には、
カップルと間違えられた事もあるくらいだ。
「悪いな、音。俺が遅刻したせいで手間をかけてしまったな」
「いえ、僕は大丈夫です!
乃木坂先輩の役に立てると嬉しいので!」
目をキラキラさせて音がこちらを見てくるが、俺は立夏一筋。
と言うか何度も言うが、そもそも音は男だ。
気分を入れ替えるために大きく一つ息をはいて、旧校舎の中に入ると、
取り壊しの準備のためか、廊下に積まれていた学校の雑用道具が取り除かれ、
がらんと殺風景な様子に変わっていた。
このまま全てが撤去、解体される前に、立夏の件を解決しなければ。
そう思いながら辺りを見回し廊下を歩いていると、右側に青葉が、
左側に音がついて左右に挟まれた状態になる。
その後ろから、光希部長と毛利がゆっくりと並んで歩いてくるが、
樹の姿が見当たらない。
「あれ、樹は?」
旧校舎に入ってからは、光希部長と一緒に歩いていると思い込んでいたが、
やはりいくら見回しても樹の姿は見当たらなかった。
「えっと、旧校舎に入ってすぐに何か驚いた表情を浮かべた後、
突然トイレ行って来る!って旧校舎のトイレに走って行ったわよ」
「そうか、もしかしたら俺を待ってる間、トイレを我慢してたのかもしれないな」
とりあえず樹なら置いていっても問題ないので、
そのままみんなでオカ研の部室まで歩いて中に入る。
オカ研の部室に入るとまず目に飛び込んでくるのは、
石膏像やガバンなどで、ここは美術部か?と思うような備品の数々だ。
1年前に俺達が部室として使うまで、ここは美術部だったので、
古く使われなくなった備品が一部そのままになっている。
ちなみ美術部はコンクールで定期的に入賞したりしているため、
この学校の本校舎に移り、立派な部室が与えられているそうだ。
なのでここにある石膏像は用済みで、今は置き去りにされていると言う訳だ。
それよりここに来るまでに感じた違和感。
昨日街で得られた手がかりを含めて考えると、やはり…。
その違和感と自分の狙いの繋がりを、改めて頭の中で模索しつつ、
光希部長から部室の鍵を借りると、樹がトイレから戻るのを確認した後で、
誰にもばれないよう静かに鍵を閉めた。
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