第3話 オカルト研究部
部室に全員が集まると、まずは部長席に集まり、
光希部長は椅子に腰を下ろす。
「今日も花瓶に、紫色の花が差してあるわね」
光希部長の傍に置かれた作業机には綺麗な花瓶があり、
そこには部長が言うように一本の紫色の花が刺されていた。
他にも机の上には、平家物語、今昔物語、源治物語などの本が
無造作に置かれている。
「それいつからか毎日差してあるようになったよな」
俺はそう言いつつ、花瓶を手にして、部員全員を一瞥する。
「この部屋は基本施錠しないので誰でも入れるけど、
毎日同じ花を入れ換えているのか、一度もしぼんでいるのを見た事ないです」
そう言う毛利も、こちらに歩いてきて、じっくりと花瓶の花を眺める。
「ほんとは私が顧問の先生から鍵を借りてるからかけないといけないんだけどね。
ちなみにこの花の名前はなんだっけ?」
「紫苑と言う花ですね。確か秋の花だったと思うんですが」
花やお茶などに詳しい音が、間髪入れずに花について説明をしてくれる。
「秋の花なのに毎日入れ換えるなんて凄いな。樹、何か知ってるか?」
「え? いや、俺は花は詳しくないから分からないな……」
樹はどこか落ち着かない様子でそう言うと、手を後ろに回して視線を逸らした。
「間宮先輩も知らないんですね。
そう言うオカ研マニアの私も入れ替えている人物は分からないのです。
乃木坂先輩の事なら、だいたいは把握してるのですが!」
「満面の笑みで気味が悪い事言うなよ……」
青葉は何か知られたくない事も知ってそうで、ほんと怖いよ……。
「まあ、青葉はいつもこんなものだろ?
花の話はこれくらいにして早く乾杯しようぜ!」
「そうね。それじゃ、みんないつもの席について」
みんなわいわいと声をあげながら、定位置の席につくのを横目に
俺は予備のグラスを手に取り、オレンジジュースを注いで自分の席に向かう。
光希部長 作業机
毛利 青葉 樹
空席 乃木坂 音
「さて、みんな飲み物が入ったグラスはあるかしら?」
音が用意してくれたグラスが部員全員の机の上に置かれており、
部長の合図で一斉に手に取る。
立夏の席にもグラスを置いておかないとな。
俺は先ほど用意したオレンジジュース入りのグラスを
左隣の机、立夏が座っていた机の上に置く。
「それでは廃部は避けて、本校舎での存続を期待してやまないところですが、
オカルト研究部最後の夏合宿を初めさせて頂きます。
それでは合宿の成功を願って……乾杯!」
「乾杯!」
光希部長の音頭でグラスを掲げて、皆で飲み物を口にする。
「ぷはっー! キンキンに冷えてて、めちゃくちゃうめえ!」
「こら、樹君! ただの烏龍茶を飲んでるだけなのに、
いかにもビールを飲んでるみたいに言うのはやめなさい!」
光希部長は席を立ち、樹に向かって机の上の折り紙を投げつける。
いつもなら樹が華麗に受け止める所だが、
なぜか避ける事無く、そのまま顔にぱすっと当たった。
「あ、ごめん。まともに当たるとは思わなかったんだけど……」
「いや、気にしないでくれ。ただ合宿が楽しみで昨日寝れなかっただけだし。
でも、俺がここで騒いでも旧校舎には俺達しかいないし、
誰かが聞いて勘違いする事なんてないと思うぞ?」
「確かにここなら本校から少し離れてるし、
殺人事件とかが起きても分からないですね!」
シーン……
毛利の何気ない言葉に、部室内の空気が凍りつく。
「あれ、ただの冗談だったんですが、何かまずい事言っちゃいました?」
「いえ、とても斬新な発言だったから驚いただけよ。
さすが期待の新人ね! 私の力不足で終わってしまいそうだけど…」
光希部長は、小さくため息をついて俯いてしまう。
「光希部長の力不足なんかじゃありませんよ!
部長は色々不思議な現象を見つけて、課題にしてくださってましたし」
「俺達3年生が今年留年すれば、存続の可能性もなくはないな」
「先輩! なにしゃれにならない事を言ってるんですか!
私としては来年も先輩といられるなら嬉しいですが、
旧校舎自体がなくなる事と去年の件があるので覆るのは難しいかと……」
確かに夏休み中に部員を確保できたとしても、
立夏の件が解決しなければ、部の存続が難しい事に変わりはない。
「僕も先輩が残ってくれるのは嬉しいですが、
先輩の将来にかかわる問題です。それだけは止めてください」
音も俺に向かって真剣な眼差しでそう問いただしてくる。
「いくら乃木坂君でも今の冗談は頂けないわね。訂正を求めます」
「俺もそう思うぞ。例え話でも聞いてて気分の良くなる話じゃないしな」
さっきはああ言ったが、もちろん俺の本心ではない。
今の発言は話を誘導するのが目的だったが、
みんな真剣に抗議してくれたのは少し嬉しかった。
「そうだな……悪い。今の発言は撤回させてもらうよ。
3年のみんなとは俺も一緒に卒業したいし」
「うーん。でもこの部ってもう一人部員がいるって聞いた事あるのですが、
その方を入れたら最低でも今年の人数は満たせてるんじゃないですか?」
さすが、毛利だ。良い所を突いてくれる。
さて、この問いに光希部長はどう答えるか。
「確かにもう一人部員はいるし、可能性もゼロではないけど、
私としては今年で最後にさせてもらいたいかな。
もし来年もみんなで活動したいと思ったら、青葉か音君を中心に
同好会と言う形でも良いから、立ち上げて欲しいと思ってるの」
「私が中心なんて絶対無理です! 私は
サポート役として盛り上げるのが似合ってます」
「僕も無理ですね……体調的にもまだ病院通いはしないといけないので」
光希部長はその言葉を聞いて少し残念そうな表情を浮かべるが、
すぐに気を取り直して話を続ける。
「そっか。まあ来年は今2年生達の世代に変わる訳だし、
自分達で好きに決めていいからね」
「分かりました。なにかしらできないかを探る努力はしていきたいと思います」
青葉なりに真剣に考えてくれているようで嬉しく思いつつも、
今の流れでもう1人の部員の印象付けを達成できたため、
俺はしばらくは静観を決め込む事にした。
「俺は手伝える事があれば、手伝いますので遠慮なく言ってください!」
「毛利君も次世代エースの感じが出てきてるし、
1、2年生に任せておけば大丈夫な気がしてきたわ。
それじゃ始まって早々、湿っぽい感じになってしまったので
気分を入れ換えましょう」
光希部長お得意の場を仕切る力で、部本来の活動へと話を転換する。
「では青葉が言ってた昨日の鉄筋落下事故を
何らかの力によって阻止された動画を振り返りましょう。
みんないつも通りタブレットでYourTubeにログインして」
直接立夏の話は出てこなかったが、流れは悪くない。
ただもう少し自然な形で確信に近づけていきたいが、
強引に進めると「犯人」に警戒感を持たれてしまう。
警戒感が薄い時のがボロが出やすいので、何か材料があると良いのだが……。
「乃木坂先輩、どうかしたのですか? なにか考え込んでるみたいですけど」
いつのまにか前席の青葉が振り返っていて、心配そうな表情で俺に問いかけてくる。
「いや、何でもない。それより青葉は機械苦手だろう?
操作で困ったら、遠慮なく樹に聞けばいいぞ」
「ん? ああ、俺に分かることだったら教えてやるぞ」
「えー、何か今日の間宮先輩、良い人っぽくて気味が悪いですー」
確かに青葉の言う通りだ。
いつもなら「おい、乃木坂! 何で俺に話を振るんだ!」と怒ってくるはずなのに。
そう思いつつ、樹の様子を伺ってみると俺を見ていると思いきや、
視線は俺より左方向に目を向けているようだ。
樹は何を見ているのだろうと思い目を向けてみると、俺は危うく声をあげそうになった。
立夏の机の上に置いたオレンジジュースが半分くらいに減っていたのだ。
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