第4話 不可解な現象

「じゃあ、私がリスト作ったから順番に見ましょう」


光希部長から閲覧の指示がでるが、立夏の席に置いた

オレンジジュースが、気になって仕方がない。


なぜなら部活が始まってから、誰も立夏の席には近づいていないので、

ジュースが減るはずがないからだ。


「あれ、誰も座ってない席にオレンジジュースが」


毛利が後ろを振り返って、「減ってる感じですけど、乃木坂先輩が飲んだんですか?」と

小声で言ってきたため、「何でもない、気にするな」とフォローして、その場をごまかす。


……危なかった。


下手に騒がれると大事になってしまうので、もう少し様子を見てみたいのだ。


ただこの事象で考えられる事と言えば、やはり『立夏は傍にいる』って事か。


でも、そんな話を今みんなにしても、『気のせい』で済まされてしまうので、

今は動画の検証に集中する事にした。


光希部長に言われた通り、1番目の動画に目を通すと、

工事中のビルから鉄筋が落下した後、途中で鉄筋の動きが停止し、宙に浮いている。


その様子を見た通行人達がざわざわと騒ぎ始めるが、

不審な動きをしている人物は映っておらず、停止させそうな人物も見当たらない。


次に2番目の動画と3番目の動画を見るが、角度と録画主が違うだけで

どれも昨日見た動画の範囲でしか情報を得られない。


「特に不審な人物は映ってないですね……。

 ちなみに最後の20秒の動画はなんですか?」


音の言うとおり光希部長がナンバリングした3本の動画以外に

no nameの動画が1つリストに入っていた。


「それはネットで見つけたのを一応入れておいただけで、

 まだチェックすらしてないわ。それじゃ最後にみんなで見てみましょう」


光希部長の言葉に従い、動画を再生させると、

そこには店の傍で立っている俺の姿が映っていた。


あの時の行動を動画に撮っている人物がいたのか……。


いや、これは好都合だ。


うまくいけば「犯人」にプレッシャーを与える事ができる。


「え、なんで乃木坂先輩がここに映ってるんですか?

 もしかして先輩が魔法使い!?」


「いや、俺はたまたま近くの花屋に買い物に行っていただけだよ」


そうこの動画に映っているのは、ある人物の後を追っていて

花屋の外で様子を伺っていた時の物だ。


「花屋ってもしかして紫苑の花ですか!?」


「それが本当の事なら、やはり乃木坂君が魔法使いって事になるけど、

 どうなの?」 


光希部長が真剣な面持ちでそう問いかけてくる。


でも、紫苑の花を入れ替えていたのは俺ではないし、

ましてや魔法使いでもないので、すぐさまそれを否定する。


「いや、俺は魔法使いじゃない。

 俺は立夏を助けるためなら自分を犠牲にする覚悟だが、

 他人を助けるために危険を犯すつもりはないからな。

 まあ、青葉なら助けてやっていいかもしれないな?」


「え!? 今乃木坂先輩、私を助けてくれるって言いました!?」


俺の言葉を聞いて青葉が椅子を跳ね飛ばす勢いで立ち上がり、

こちらに近づいてくる。


「ああ、青葉は俺が落ち込んでる時に、励ましの言葉をかけてくれたからな」


「先輩……」


青葉が真剣な表情でこちらを見つめてくるので、

俺も青葉から視線を外す事なく、しばらく黙って見つめ合う。


【二人とも、いつまでも見つめ合い過ぎだよ! 離れて、離れて!】


「なっ!?」


雑音混じりの声と誰かの大声が聞こえると同時に、

いきなり何かに突き飛ばされて、俺は床に倒れこむ。


「乃木坂先輩、大丈夫ですか!?

 先輩の事だから冗談で言ってくれたのだと思っていますが、

 そんな一人で椅子から転げ落ちる真似までしなくても!」


よし、青葉には聞こえてなかったみたいだが、

これで立夏の存在は確認が取れた。


すぐさま立ち上がると、突然右方から大きな音がしたので目を向けてみる。


するとその人物は冷や汗をかきながらその場で立ちすくんでいた。


「BinGo。俺の感じた違和感と目撃した手がかりに間違いはなかったみたいだな」


皆が見つめるその人物にそう問いかけて、ゆっくりと歩みよった。

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