第9話 心の結びつき

全員揃って旧校舎の入り口に出ると、立ち止まって皆に話しかける。


「俺の考えでは立夏が閉じ込められ、樹自身に影響が及んでいるのは

 魔法使いの制約を破ったからではなく、樹自身の自責の念の影響によるもの。

 恐らく樹が紫苑を捧げる事で能力が戻り、無意識のうちに

 立夏を現実に出す事ができたのだと思う」


樹のした事は良くない事だが、すぐに反省し、1日も欠かさずに

紫苑の花を捧げた事は良い影響へと引き寄せてくれたのだろう。


「それじゃ、立夏。勇気がいる事だと思うが、旧校舎から一歩外に出てみてくれ。

 俺もそして部員みんなもここでお前を待っているから」


「え、私もう外出ちゃってるけど?」


立夏の声で部員全員が一斉に視線を向けると

立夏は旧校舎の外に足を踏み出し、その場でぴょんと飛び跳ねていた。


「立夏……お前、俺がダメになる可能性を排除するために、

 考えを話してたのに、勝手に出るなんて……」


しかし、立夏の笑顔を見て最後まで言葉が続かず、

その場で地面に膝をついた。


「瑛太! どうかしたの!? どこか痛いの? 苦しいの?

 瑛太が涙を流してるなんて、小学校以来だよ!?」


「嬉しいんだよ。ダメになる可能性を排除と言っても、結局は俺の願望。

 そのまま消えてしまう可能性もあったから、本当にこれで良いのか?って

 凄く不安で膝が震えていたんだよ。でも、安心した。

 立夏……完全に元に戻って来れたんだな」


そう言うと、立夏も顔をくしゃくしゃにして涙を流し、

樹、光希部長、青葉、音、毛利も声をあげながら涙を流した。


「樹、お前の方はどうなんだ?」


「どうやら、魔法使いの力を完全に失ったようだ」


「え、と言う事は間宮先輩に何らかの影響が!?」


毛利がそう言って、樹の元に駆け寄り、心配そうな表情で声をかける。


「いや、手の痺れも、視力の低下も戻っているから、

 魔法使いだった事自体が無かった事になったのだろう」


「そうなんですか……。それじゃもう人助けをする事もできなくなってしまいますね」


青葉はハンカチで自分の顔を拭きつつ、樹を気遣う。


「青葉、それなら大丈夫だ。俺が魔法使いをやっていたのは、

 事故で亡くなった両親に何もできなくて悔しかったから。

 自分みたいに不慮の事故や身勝手な犯罪で日常を奪われて

 欲しくないって思って行動してただけだからな」


「樹が両親を亡くしたのは小学校低学年の時だって聞いたし、

 突然の事故では樹にできる事は無かった。だから悔やむ必要はない。

 でも、お前の行動で助かった人も大勢いるはずだ。

 だから立夏の件は問題だったが、今後魔法の力なしで

 人を助けられるようになるといいな」


「そう言ってくれると助かる。

 これからは自分自身の力で人助けをして行きたいと思っている」


そう言って樹も服の袖で自分の顔を拭くと、満面の笑顔を浮かべる。


「それじゃ、みんな。今回の件は大変だったけど、

 無事立夏が戻ってきた事で部員7名を確保する事ができた」


「だから、最低今年中はオカ研が存続するって事ですね!」


部長の言葉を聞いて、大人しめの音が声を張り上げ、大喜びする。


「そう。夏休みの終了したら本校舎に移って、

 新生オカルト研究部の活動を開始するからね!」


「魔法使いの事を論文か何かにまとめて発表したい所だけど、

 樹の感じだと魔法使いにもそれぞれに事情があるだろうし、

 また新しい調査対象を探さないといけないな」


「そうね、まさにスクープ!情報なので惜しいけど、

 また新しい情報を入手してくるから!」


そんなこんなで今回の立夏失踪事件と、樹の魔法使いの末路の件は無事解決した。


部の方も存続する事ができるし、何より今回の件で

前より部としてのまとまり、心の繋がりも強くなった気がする。


あと嬉しい事に、立夏とも付き合う事ができるようになった。


俺達の高校生活も立夏との交際もまだまだこれから。


例えこの先、大きな障害が立ちふさがったとしても

俺達は決して諦めることなく、立ち向かう事ができると思う。


「それじゃ、一度部室に戻って、ミーティングしたら今回は散会としましょう。

 立夏ちゃんの両親が日本に戻られるみたいだし」


「え、お父さんとお母さんが戻ってくるの?」


今回の件が無くても、海外生活の多い両親なので、

これは立夏にとっては嬉しい話だろう。


「ああ、そう聞いてるよ。

 俺も一緒について行ってやるから、安心して顔を出すといいぞ」


「それなら心強いね。

 いなくなってた理由はなんて言おうかな……。

 そうだ! 瑛太とアパートで同棲してた事にしよう!」


「ぶっ!」


立夏がまたまた凄い事を言うので、思い切り噴き出してしまった。


まあ、この立夏の明るさがあれば、

穏健な立夏の両親だし、無事収拾はつくだろう。


同棲か……良い響きだが、まともな飯が出てくる想像ができない……。


でも、立夏と手に取り合っていけば、何とかなるはず。


そんな日々が訪れるのはまだもう少し先の話になりそうだ。

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棒げし紫音と魔法使い 時谷 創 @tokiya_sou

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