第7話 制約
「そこまで言い当てられ、逃げ道まで奪われたならもう認めるしかないな」
「それじゃ、樹君には立夏が見えてると言う事?」
「ええ、旧校舎に入ってからずっと。そして今も見えている」
樹はそう言うと、ドアノブから手を離し、ゆっくりと目を瞑った。
「……え? 何か言った?」
すると突然、立夏が姿を現し、不思議そうな顔で
辺りをきょろきょろと眺めていた。
「立夏、久しぶりだな。俺はお前が身近にいるんじゃないかとずっと思っていたよ。
それより、立夏……今までの話を聞いてなかったのか?」
「聞いてたけど難しくてよく分からなくて……。
でも今はみんなにも私が見えるようになった事だけは分かるよ。
音君、樹君もヤッホー!」
立夏は、にこやかに笑顔を浮かべて手を振る。
「立夏。お前、樹に魔法で何かされたんじゃないのか?」
あまりにも立夏から、怒りや憤りが感じられなかったため、
俺はそう問いただした。
「うーん、その時の事あまり覚えてないから怒りとかも感じなくて。
今はこの通りピンピンしてるから大丈夫じゃないかな?」
立夏は全く緊張感もなくそう言って、ぺろっと舌を出す。
「1年ぶりに会えた訳だけど、立夏らしいと言うかなんと言うか…」
「やっぱり立夏ちゃんと瑛太の結びつきにはかなわないな……」
樹は自分の椅子まで歩くと、静かに腰を下ろした。
「樹。なぜ、こんな事になったか教えてくれないか?」
「ああ、もう隠す必要もないし、正直に話すよ」
樹に椅子に座るよう促されると、みんなで持ち合って椅子に座る。
「一年前の合宿でこの部屋を出る時に、立夏ちゃんからある相談をされたんだ。
合宿が終わったら、瑛太に告白しようと思うんだけどどうかなって」
「……」
立夏に遠まわしで色々想いをぶつけてきたつもりだったが、
暖簾に腕押しと言うか、全く気持ちが伝わらなかったので、
俺の事をどう思っているんだろうと悩む時期もあった。
でも、立夏が俺に告白しようとしてたなんて。
その事はこれ以上に無いくらい嬉しい事で、
気持ちが舞い上がりそうになるが、
今はまだ立夏がどうなるか分からない状態。
だから、樹の話をしっかり聞いて、問題を切り抜けなければ。
「瑛太も知っての通り、俺は1年の時からずっと立夏ちゃんが好きだった。
だからその場は思い留めさせて、うやむやにしようとしたんだ。
しかし自分の気持ちが魔法を誤動作させ、
立夏ちゃんをこの空間に閉じ込めてしまったんだ」
気持ちが魔法を誤作動させてしまった……か。
「でも去年からずっと後悔している……。
こんなに純粋な立夏ちゃんに取り返しつかない事をして申し訳なかった」
「樹が分かってくれたならそれで充分だよ。
問題は立夏を元の状態に戻せるか、だ」
「樹君。今回の立夏については、魔法使いの制約を破ってしまっているのかしら?」
魔法使いの制約。
人を傷つけたり殺したり、人の存在を消去したり、生き返らせたりしてはならない事、か。
「残念なら制約を破った事になっているようだ。
去年のあの日から徐々に魔法の力が弱くなってきていて、
昨日の鉄筋の落下を停止するのもぎりぎり何とかなった感じだしな」
「樹の状況としてはそう言う感じなんだな。
でも、樹の話を聞いてる限り、何とかなるんじゃないかって俺は思っている」
つくづく旧校舎が取り壊された前に、事を動かせて良かったと思った。
「瑛太の言いたい事は分かった。
俺の積み重ねてきた伝承を利用するんだな?」
「そうだ。ヒントはそこの作業机の上にある本だ」
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