23. 翔空艦レースは楽しいかい?
「――!」
サヤに命中したように見えたが、コールドブレスはアミアイレからシャインクロスへ向かいだした。
『お、おいサヤ! いったい何をしたんだ?』
アレンは自分の前に光魔法の鏡を出現させ、コールドブレスを真上へはじき飛ばした。
「さすがはココのチームだね。ワイサポがバルクさんじゃない理由を理解したよ」
『これは素晴らしい攻防です! サヤ選手、ミラーソードを体の前で浮かせて自由自在! 青龍の攻撃を跳ね返したようだ―!』
ミラーソードがサヤの前で宙に浮きながら、翔空艦と同じスビードで飛んでいる。
『そんな芸当、いつからできるようになったんだ?』
「へへへ、プラちゃんに教えてもらったんだ! 箒を浮かせて乗るのと同じ原理だけどね」
『だけどよ、魔力を消費するんじゃないのか?』
「こんなの消費するのに入らないよー! ぜんぜんよゆー! 手も使う必要ないし、メッチャらく!」
作業着姿の勇者は、浮かせた大剣をクルクルと回してみせた。
「これならどうかな!」
アレンが念じるとサヤの足元に魔法陣が出現した。サヤの周りに十数個の白い光魔法が四方八方に浮かび、段々と色がオレンジ色に変わりだした。
『サヤ! 設置型の時限爆弾だ!』
「まかせて!」
サヤの周りを囲うオレンジの光を、ミラーソードを自在に操って全て打ち返した。
「ガグオォォォ!」
「くっ!」
打ち返した魔法が二機の翔空艦を襲い、それぞれのワイサポが防御した。
『これは面白い! 翔空艦レース初参戦のサヤ選手! 浮かせた剣で魔法をはじき返して反撃です! 王者たちの意表を突いています!』
『いいぞサヤ! ミラーソードで打ち返した分、弾のスピードも速い!』
「ほらほら、今度はこっちからいくよー! 声出してこー!」
次にサヤはミラーソードの柄を軸にして水平にグルグルと高速回転させた。剣が当たる位置に火の魔法を次々と発生させると、千本ノックマシンのように打ち始めた。
『これはすごい! 威力の高い設置魔法を、次々とミラーソードで打ち出していきます! シャインクロスと獅子鷹丸はたまらず回避行動をとりますが、防ぎきれません!』
『いいぜサヤっち!』
打ち出された球をよく見ると、二機へ交互に打ち分けている。
『魔法で操ってんのは分かるけどよ、二つの翔空艦交互に打ち分けてるのはどうやってんだ?』
「ふふふ、元ソフト部三番バッターをナメないでよね!」
『祖父飛ぶ? 親戚魔法か?』
「ほらほら! どんどんいくよー!」
『これは? 皆さんご覧下さい! シャインクロスへ打ち出された魔法ですが、アレン選手は鏡魔法で青龍へ受け流しています! 全弾が獅子鷹丸へ向かっているー!』
「ゴガゥワァァァァ!」
『あのアレンって奴、三つ巴の戦い方がよく分かってやがるな』
『いつの間にか青龍が追い詰められています! 獅子鷹丸! 一転して大ピンチです!』
「バルク! 青龍さんの体が!」
『なっ!――』
「ガオオオオオオォーン!」
青龍が痛そうに雄たけびを上げると、体の色がみるみるうちに黒に変わり始めた。そして上空に黒い巨大魔法陣が浮かび、空気が薄いはずのさらに上には、強力な魔力で黒い雲がモクモクと広がっていく。
『これは青龍の最終奥義、
『これ青龍! 何をしとるんじゃ!』
『リューセイさん! 青龍を早く戻すんだ! 黒くなると、正気を失ってしまう!』
『なんじゃと!』
慌ててリューセイが青龍を戻すと、獅子鷹丸と繋いでいたワイヤーだけが残った。
「まったくもう! ベルガさんも青龍さんも、どうして追い込まれると何か降らすかな!」
『言ってる場合じゃねェぞ!
サヤが紫ドラゴンの火炎放射を思い出す中、上空を包む巨大な積乱雲から大粒の光がキラキラと降り注いでいるのが見え始めた。
「あれは……隕石みたいに壊せないかも」
『くそっ! ココ、全速力で通り抜けられるか?』
『とっくに最高速度でぃ!
「――どんな状況においても、自分の翔空艦を守り抜くのがワイヤーサポートだ。サヤ君、健闘を祈るよ」
すでにシャインクロスの上には大きな鏡が出現し、対策は万全のようだ。
『まずいぜバルク! 到達まで約20秒!』
『仕方ねェ! シャインクロスの下にもぐるぞ!』
『がってんでぃ!』
アミアイレはシャインクロスの下に潜ろうとしたが、巧みにかわされた。
「ダメだよココ! 自分の翔空艦は自分の力で守るんだ!」
『くそったれぃ! 残り5秒でぃ!』
『サヤ! こうなったら金のシールドだ!』
「急に言われても、イメージ湧かないよ! あっ!――」
『もうダメだ! 総員、衝撃に備えろ!』
大きくて黒い氷の粒が、翔空艦の高度まで到達した。周辺はマシンガンのような音が鳴り響き、黒い
『……ワタクシは実況失格です。先頭争いの状況をいち早くお伝えしたいのですが、まさにこの画面のように目の前が真っ暗です。正しい状況を皆様にお伝えすることができません!』
観客席ではブーイングが鳴り響いている。1分くらい経過すると、灰色の画面に段々と光が入ってきた。生き延びた現場のカメラマンがレンズを布で拭うと、三機の姿が見えてきた。
『お、映像が復旧したようです!……あれは何でしょうか? アミアイレの上に、何かが出現しています!』
アミアイレの上に浮かぶ物体がズームアップされた。
『これは……大剣が巨大化しています! さきほどサヤ選手が操っていたミラーソードです! アミアイレの上を大きく覆い、機体を守りました!』
会場内からは歓声が上がった。
『ミラーソードの巨大化だと? どこで覚えたんだ?』
「えへへ、気付いたらおっきくしちゃってた!」
機体の周辺は一気に青空が広がり、海は黒く染まっていた。サヤはミラーソードをもとのサイズに戻した。
『シャインクロスも無傷のようですが――ああっと! 獅子鷹丸がどんどん減速していきます! 機体に大きな損傷が見られます!
『リューセイさん!』
『ガガガ……問題な……すぐに……わい! 若い……前進あるのみじゃ!』
「――彼ならすぐに復帰するさ。それにしても、君たちには驚かされてばかりだよ! 今やワイルドカードで出場している方が不思議なくらいだね!」
シャインクロスが距離を詰めて、アレンが直接サヤに話しかけてきた。
「サヤ君だったね? 翔空艦レースは楽しいかい?」
「はい! 楽しいですっ!」
「多くの属性の魔法を使い、武器の巨大化までしてしまう。三大魔女でさえ、君ほど独創的な発想で魔法を使わない。いったい君は何者なんだ?」
「え? ええっとぉ――」
『自分が何者かなんて、本人に説明させるもんじゃねェだろ? 絶対王者さんよ』
バルクが会話に割り込んだ。
『サヤはサヤだ。目の前にいる女の子が、先頭争いをする翔空艦の上に立っている。ただそれだけの話だ』
「……フッ、君の言う通りだ。豪傑の剣神」
『二つ名とか世界ランクとか、他人が決めたのはただの一面に過ぎない。だが、自分の限界は自分で決めるものじゃねェだろ?』
「ずっとレースに出ていると驚きがないものでね、つい声をかけてしまった。――年間王者もワイルドカード王者も関係ない。グランプリ優勝を賭け、全力でぶつかり合おうじゃないか!」
『がってんでぃ! いくぜサヤっち!』
「オーケー!」
無線が切れると、前を飛ぶシャインクロスはぐんと高度を上げた。
「プリズムレイン!」
アレンは太陽の光に向けて右手をかざすと、大きな透明の宝石のような物体を出現させ、そこから十数本のレーザーを放出した。
「ちょ、何それっ?」
サヤは再びミラーソードを巨大化して、機体を守った。
「これならどうかな? ピーフォールミサイル!」
今度は
「効かないよ!――あれ?」
サヤはミラーソードを向かわせ弾こうとしたが、光は生きているかのように剣をひらりとかわし、そのままアミアイレに向かい直してきた。
「どうなってるの?」
『アレンが操ってるが、叩けば爆発するはずだ!』
「オッケー! やってみる!」
サヤはミラーソードでミサイルを追いかけ回し、やっと一つ目を叩くと爆発した。予想以上に強力な爆発だった。
「剣だけじゃ厳しいね。……ココ! シャインクロスより高く飛べる?」
『がってんでぃ!』
『さぁアミアイレ! 光の塊をかわすように高度を上げます! しかし、ミサイルもしつこく追いかけていきます!』
「プリズムレイン!」
そうサヤが叫ぶと、アレンが出現させた宝石よりも大きな宝石が出現した。何十本ものレーザーが、追撃ミサイルを一気に撃ち落とした。
『これは素晴らしい! どうやらサヤ選手、アレン選手と同じ光魔法まで使えるようだー!』
「……やはり、一度見た魔法は使えるようだね。他の技を見せても分が悪くなりそうだ」
そう言いながらも、次にアレンは虹色のレーザーを放ってきた。
「だから、効かないってば!」
サヤがミラーソードで跳ね返すと、アレンも鏡で跳ね返した。
『さぁ! 今度はレーザーの反射合戦が繰り広げられます!』
「増やしてもいいね?」
「ちょ、まっ――」
『おおっとアレン選手! もう一本レーザーを追加だー! しかしサヤ選手、不意を突かれながらも返しています!』
「なんの、これしきっ!」
「無理は、しなくて、いいんだよ?」
「こんなの、よゆうに、決まってるじゃん!」
『今度はサヤ選手がレーザーを追加です! 三本のレーザーの絶え間ない反射の応酬! いまだにどちらの機体にも被弾していません!』
『サヤっち! ファイトだぜ!』
『ここまできたら根気比べだな。もう一本増やしたらどっちかに被弾するかも分からねェ』
バルクが言ってる間に、サヤはレーザーを足した。
「当然! 増やすに! 決まっ! てるよ!」
「それ! でこそ! トップ! 争いだ!」
「キャ!――」
十回ほどラリーが続いたが、アミアイレが被弾した。
『ついに着弾! アミアイレにダメージ! サヤ選手がひるんだ際にもう一つも当たってしまいましたが、あとの二本は返しています!』
『サヤ! 当たったのは気にするな! 次の弾に集中しろ!』
「うん!」
『サヤ選手! また四本に増やしました! 今度はシャインクロスへ着弾! しかし即座に立て直して一つ増やす! 次はアミアイレ被弾! シャインクロス、アミアイレ、シャインクロス、アミアイレ、シャインクロスシャインクロス! 実況が追いつかないほどの高速戦闘に、会場のボルテージがぐんぐん高まっていきます!』
騒がしくなってきた観客席の中には、不安な表情のプラノとエックスがいた。
「くっ、同じ技では精度が上がってくる!」
『ああっと! シャインクロスが少し減速です! どうやら後方エンジンの一つに着弾してしまったようだー!』
アレンは虹のレーザーを五本同時に放ってきた。
「もう、効かないよ!」
サヤはミラーソードを巨大化させてすべて返すと、アレンは鏡の巨大化が間に合わずに再び被弾した。
「やったかな?……」
「……ふふふ、アハハ!」
シャインクロスがさらに失速し始めると、アレンは大きく笑いだした。
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