また勇者が転生してきたけど、もう魔王はいない。
京国 辰典
第一章 また勇者が転生してきたけど、もう魔王はいない。
1. 神のガイド
いきなりですが、わたしは神です。異世界リキュアにようこそ。
黒髪ロングで白いワンピースを身にまとう
今日は地球のみなさんへ異世界をご紹介するにあたり、人間の格好をしています。言葉を直接あなたの心に響かせてるので、口を動かす必要はないんですよ。
それでは、さっそく異世界リキュアについてお話しましょう。皆さんの地球に比べると、多種多様なモンスターが多く生息しています。三年前までは、モンスターの勢力が人類を上回り、人との多くの争いが起きていました。しかし、魔王が倒された今では、モンスターとの争いは比較的落ち着いています。それでも、時にはモンスターが町へ迷い込んで暴れたり、人間がモンスターの縄張りへ入って荒らすなど、いまだに愚かな存在がいるみたいです。
人種は地球よりも多様です。神々が定めた人の定義は、成人時に二足歩行で言葉のやり取りができる生物を差します。リキュアでは、地球の皆さんのような一般的な人種はアンスと呼ばれます。他には獣人セリア、妖精人ネライ、最近増えつつある機械人ミカニといった四種がこの世界にいます。最近は自分の世界から人間を排除しようとする神もいるみたいですが、わたしは違うので安心してください。
海と陸の割合は地球とほぼ同じですが、表面積は約二倍あります。その割に人口も地球とあまり変わらないので、人が住まない陸地面積はかなり広いです。また、リキュアは一部の王都や都市に限り近代化が進んでいます。地球の町で例えるなら、ニューヨークみたいに高層ビルが建ち並ぶ街があれば、木造の家がぽつぽつと立つ小さな村の集落もあります。国や地域によって技術力や貧富の差が激しいという点においても、地球に近いと言えるかもしれません。
地球上に存在しない物の代表としては魔法と魔石、召喚獣の存在でしょう。中でも魔石の
『最初から説明が多い物語だ』という心の声が、どこかから聞こえました。地球人は寿命が短いせいか、すぐに結論を欲しがる傾向にあるみたいですね。あ、寿命などのクレームなら自分たちの神に言ってくださいよ。わたしのように優しい神だといいですが。
分かりました。話を進めましょう。わたしは他の神と違い、人の言うことに耳を傾けられる神なのです。こう見えて、神ってますので。
王都から大きく離れた場所に位置する、人口約百人が住む田舎村『ラベラタ』。その周囲は大木を加工して頑丈に組み上げた柵が囲い、モンスターの侵入を防いでいます。村の中央には白い壁に赤い屋根の教会がありまして、その前にある広場では水の魔石を利用して作った噴水が村全体に水を送っています。噴水広場から村の入り口までは真っすぐ大通りがあって、多くのお店が並んでいます。
この村に今、ぜひわたしが紹介したい
青と白を基調とした軽くて丈夫な素材の鎧を肩から足元まで着用し、手にはめた青いグローブと肩の間に出ている腕は筋骨隆々という感じでよく鍛えられています。身長は約180cmといったところでしょうか。左利きの人間が大剣を抜きやすいように、背中の左上から右下に向かって黒い
顔は青い目が特徴的ですが、他には特徴のない十九歳の塩顔です。寝ぐせのように乱れた赤髪が上下左右に荒ぶり、右耳だけ銀色のイヤリングを下げています。
そうです。この
バルクは魔法を使えない剣士で、神の間で流行している転生人ではありません。リキュア人夫婦の間に生まれた、
神が異世界に転生人を送るのって、結構大変なんですよ。転生をチームスポーツに例えるなら、膨大な移籍金のようなものが神の間で発生します。ですから、わたしみたいな若い神は、費用がかからないように転生させる条件をいくつか決めています。どんな条件かは秘密です。トップシークレットならぬ、神のみぞ知るゴッドシークレットなのです。
わたしとしたことが言葉を乱してしまいました。話が逸れましたが、とにかくバルクをご覧になってください。三年前には、魔法が使えないコンプレックスを抱く青年でしたが、身も心も急成長しています。そして、貧富の差が縮まらずに復興が遅れる地域があることに、誰よりも危機感を抱いています。その彼に、わたしはさらなる試練を与えようとしています。さぁ、とても楽しみですね。
それでは、わたしはこれにて失礼いたします。またどこかでお会いできましたら、リキュアの印象を聞かせてくださいね。
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