第七章 【方艦船】《開戦》

 第七章【方艦船】《開戦》



 傷ましきかな。

 汝、荒々しく拳もて

 うるわしき世界を

 打ちて砕きぬ。

 そは壊たれ崩る。

 神に近き人、そを砕きぬ。

 われら、そが破片を

 無のうちへ運び、

 かたみに嘆く、

 美しき世界の今はなきを。

 下界の子らの中の

 力強き汝よ、

 前よりも美しく

 世界を築き直せ、

 汝が胸のうちに再び築け。

 明るき心もて

 新しき生命の歩みを

 始めよ。

 新しき歌の響くは

 その時なり。


 ゲーテ著・高橋義孝(訳)

 新潮文庫「ファウスト」より




 僕たちはなぜ存在するのか、その答えは既に出ている。神の概念は弱い心に宿る真理であり、その真理は僕たちを生んだ。今、僕たちは真理を葬り、自らが真理となる。それがなぜに対する答えである。

 最後で最初の戦いが始まる。僕たちはいわば遊弋する精神の方艦船。孤独な朝、うずくまった道、全力で駆けながら月に吠えた夜、命を捧げると誓った切ないほどの美しさ、愛する人の死。このような類のすべての悲しみは、此処から僕たち自身によって報われる。古い世界が終わり、新しい世界が始まる。行為、そして営みの中にこそ生命の本質があり、それは叡智の最高の結論である・・・そして、 航海はつづく。


(了)

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