第2話


ルームシェアしているアパートまでは駅から徒歩20分。築32年の2LDK。1年前に物件を探す際、同居人が建築関係の法律がなんやかんやと言って、「お前の年齢より若い建物なら安心だ。」と大雑把な線引きでしつこくそこにだけこだわった。



郵便受けには、厚くてツルツルした上質の紙で作られた不動産関係のチラシと、ひいきにしているお茶メーカーの新作情報の冊子がビニールにパッケージされて入っている。サンプルのお茶のティーパックが1個だけついてくるのが嬉しい。2月はジンジャー紅茶。めちゃくちゃ濃く淹れたのに牛乳を注いで、チャイっぽくして飲もう。プンプン漂う販促臭ささまでぶっ飛ばす、強い癒しの力。


私は履歴書に書くような取り柄はなく、就活の際は自分を盛って書くのに苦労したが、「小さな幸せをめいっぱい味わう」能力は長けていると自負している。「幸せ感度1級」みたいに、資格してくれたら威張ってみたいたころだが、ひけらかしたところで白い目で見られるがオチだろう。しかしこれは、人生を豊かにするのに必須な、崇高な能力であると私は自信を持って断言できる。私の人生やスペックは、箇条書きで表すと、もしかしたら不幸な人とラベルを貼られてしまうかもしれない。私を知る人からは意外がられるだろうが、私の幸せ度数は高い。その人がしあわせかどうか、それは本人にしかわからないといつも思う。そもそも、人生を箇条書きにすること自体、意味がないのだろう。しあわせはいつも、文字にならずに行間に溶けている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る