第四部 の垂れ死ぬ
第十九章 スキン
第19章
[スキン]
新宿某クラブハウス個室。部屋は防音仕様だがフロアで鳴ってる激しいテクノのベース音がドン、ドンと肚に響く。俺は五杯目の水割りウイスキーを一気に飲み干した。気分は最悪だ。さっきまでホテルで一緒にいたリフレ女子高生は、そろそろ従業員に保護される頃合いだろう。美馬との一件以来俺は、女を虐待することでしか、性的満足を得ることができなくなっていた。そして性欲に歯止めが効かない。
美馬の最期の表情がちらつく。ただ、恐怖だけが其処にあった。俺はヤツを征服したんだ。自分でも異常だとは思っている。なにもあそこまでやる必要は無かった。でも自分を抑えられなかった。そして美馬にやったことについて、俺は今でも罪悪を感じていないばかりか、むしろ達成感のほうがでかい。
俺は何者なんだ?
親父の血か、それともジェインの言う遺伝子の支配ってやつか? 俺の中に遺伝子の悪魔のプログラムが存在していて、それが俺を満足させたのか。親父もおふくろを殴るときこんな気持ちだったのか? 俺の中にある親父の遺伝子が臨界を……いや、俺は自分の責任を不可避なものに転嫁しようとしてるだけだ。俺は俺だ。要するに俺の本質が、最悪のクズだってことだ。
美馬の所持品からノブナガの念写であの場所を割り出した。司法監察局に電話すると、すぐにジェインとペインがやって来た。美馬、真理、ヨシムネの賞金首三人が揃っていたんだ。情報提供の賞金は設定されていなかったが、美味しい話だと言って報酬を要求した。それが美馬だった。ノブナガの存在は、つまりなぜ場所が割り出せたかは、ジェインたちには伏せた。エスパーだってことがバレたらノブナガは隔離施設に送られちまうからな。美馬たちをもっと泳がせていたら、組織の本拠地まで割り出せたかもしれないし、今からでもヨシムネを追跡すればできるかもしれないが、そこまで聖約教会に義理立てする必要もないし、戦争になればそれはそれで面白そうだ。なにより教会は俺たちを騙してたんだから、報いを受ければいい。そうだ、クソッ、ヘヴンはまやかしだったんだ。グラサンの組織が何処までやれるか見てやろうじゃないか。
思考が散漫になってきた。酔ってきたか……飲まずにはいられない。この一週間、俺は酒を飲むか、女を犯すかだ。美馬の賞金は早くも底を尽きようとしている。賞金稼ぎは続けるつもりだが、また一からメンバーを揃えなきゃいけない。ノブナガを失ったのは痛いな。美馬の一件、俺の本意に気付いたノブナガは俺を見限った。ヤツがいて初めて賞金稼ぎチームは成り立っていたんだ。念写能力、賞金首を高確率で見つけ出す手段を失ってしまった。まあ、なんとかなるさ。これまでもなんとかやってこれたんだから……俺は一瞬まどろんだ。犯されてる美馬の表情がまた浮かんで愉悦に浸る。俺はあの女の支配者だ。
なんだか騒がしいなと思った瞬間、個室のドアが乱暴に跳ね上げられ、入ってきたのは複数の男。先頭にいるのは……マッドか? もう出所してたのか。手に金属バットを握っている。
「ようマッド……」
言いかけた瞬間ガツンとやられ、意識が飛んだ。何かに縋りついて堪えようとしたが、縋りついたのはマッドの右足で、ヤツは俺を蹴り飛ばした。生温かいものが頭から垂れて赤い絨毯をさらに赤く染めた。
「助けてくれ……」
「地獄で兄貴に会ったら、同じように命乞いしてみろ」
ガツン。ガツン。ガツン。くそっ……最期に脳裏に浮かんだのは、やはり美馬の恐怖に歪んだ顔だった。俺は美馬の、この世界の支配者だ……俺は……俺は……。
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