第88話 青い瞳と赤い靴

 時は開港祭の最終日。深夜へとさかのぼる。


 グリムフォード魔法学院のランドマーク塔。


 その頂上に、一人の少女がたたずんでいた。


 最上階へと続く道は、数多作られている学院の隠し通路マップにもまだ記されていない。


 美しい月の下、少女はその青紫の瞳で魔法都市横濱を見下ろす。


 そして広がる街並みが作り出す、きらびやかな夜景に目を奪われた。


 この場所に来るのは、どれくらいぶりのことになるのだろうか。


 彼女にはもう、それすら確かではない。


『あの夜』から、この街はどうにも騒がしい。


 伝説の吸血鬼が目を覚ました、あの夜から。


 不意に夜風が、彼女の銀糸の髪を揺らした。


 一歩踏み出すと、コツンと、その足元を包む赤い靴が音を鳴らした。


 そして誰かを探しているかのように、視線を動かす。


 あまり表情を感じさせない、どこか浮世離れしたその顔つき。


 しかしここからではやはり、目当ては見つけられなかったのだろう。


 代わりに彼女は、その小さな口を開いて呼びかけることにする。



「あなたは今、どうしていますか――――アリーシャ」

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魔法と夜のウォンテッド! 高樹凛 @takagi-rin

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