第35話 パイアと目覚める神?

第35話 パイアと目覚める神?




「そうだぜ。 俺はお前らがいう【プレイヤー】なぁんだよ!」


 ギャレムが愉しそうにそう言った。


 ぷれいやー。

 それは突然、何処からともなくこの世界に現れた存在。  

 ぷれいやーはそれぞれ強力な力と装備を持ち、すべてのぷれいやーが高レベルであるらしい。

 その中でも最強と言われるぷれいやーはレベル4000を超えているという噂がある。

 ……そして、この戦争の行方を狂わせた元凶だ!


 あれはガルガン帝国が僕たちの国、神聖ティターン王国に突然戦争を仕掛けてきてから2年が経った頃だった。

 当時はバーズ大陸最大の国であったガルガン帝国よりもシアウ大陸最大で世界最大の国であった神聖ティターン王国の方が当然国力が上だった筈なのだが、ガルガン帝国の全力攻撃に王国は手こずる。

 神聖ティターン王国の主力は騎士で個々の質も高い。

 しかし、王国は長らく平和な上に、騎士になる為のハードルが戦闘技術の上昇により年々高くなってしまった所為で騎士の数が王国の大きさの割に少なくなっていた。

 そこでガルガン帝国は軍備を整え、徴兵により大勢の兵を集めて攻めてきた。

 その結果、質は高いのに数が少ない王国と質は低いが数が多い帝国の力が拮抗し、戦況は完全な膠着状態となる。


 そんな時、突如ガルガン帝国とヒャンターンにぷれいやーと呼ばれる集団が現れた。

 そして突然現れたぷれいやーはそれぞれの国と協力を結んだ事によって戦況は変わる。

 ガルガン帝国は個々に一騎当千とも言える力を持つぷれいやーを戦争に投入し、次々に王国の領土を攻め落としていった。

 王国と同盟関係だったヒャンターンはそのぷれいやーの力を知り、恐れて王国との同盟を切る。


 こうして、今の状況になった。

 戦争を起こしたのはガルガン帝国だが、神聖ティターン王国がこんな状況……窮地に立たされたのはぷれいやーの所為だ!

 僕は……僕はぷれいやーを憎まずにはいられない!


「お前はヒャンターンのぷれいやーなのか? それとも」

「帝国のプレイヤーだ。 それが、どうかしたかぁ?」

「帝国ッ! じゃあここの調査を指示したのは……」

「わかぁっちまったか。 そうだ、俺に調査を頼んだのは帝国の……皇帝だ」


 そうか。

 やはりこいつは帝国のぷれいやーでこの旧王都の調査も帝国が……でもどうして?

 いや、今はそんな事はどうでもいい。

 こいつには……帝国のぷれいやーには聞きたい事がある。


「……どうして」

「あん?」

「どうしてお前たちぷれいやーは帝国に手を貸して戦争に参加したんだ!」

「……俺たちは帰りたかっただけだ」

「帰りたかった?」

「そうだ。 俺たちは元居た世界に帰りたかった。 だから、帰る方法を探すと約束した帝国に手を貸している。 別に帝国じゃなくても俺たちは帰れるなら何処でもよかった」

「……それだけの為に」

「俺たちはなぁ……戦争なんて【お遊び】どうでもいいんだよぉ!」

「人が……罪の無い人が大勢死んだんだぞッ! 人の命をなんだと思っているんだッ!!」


 ギャレムは突然つまんなそうな表情をする。


「だからぁ?」

「なにッ!?」

「だからぁなんだってんだよ。 ここは俺にとってゲームの延長上なんだよ。 お前らNPCがいくら死のうがどうでもいい」


 えぬぴーしー?

 それは意味がわからないが、言っている事は大体わかった。

 ……こいつは人の命なんて、なんとも思っていない。

 戦争を遊びだと思っている。


「お前たちぷれいやーを僕は許さない!」


 そこでギャレムは表情を一転させ、笑顔を浮かべる。


「お前ぇ……さっきから変だと思っていたけど……もしかして王国の奴だったりする?」

「……」

「王国の奴だったりしちゃうの? それで俺たちプレイヤーを恨んでいると」

「だったらなんだ」

「……ギャハハハハハ! ばっかみてぇ! 王国の騎士どもは何人も斬り殺してやったが雑魚ばっかだったぞ! そんな弱小な国の奴が俺たちプレイヤーを恨むなんて……1000年はえぇんだよ!」


 騎士団が……白兎魔法大騎士団が雑魚だと?

 何人も斬り殺してやっただと?

 僕の……僕の大切な仲間たちを侮辱したな。


「……ギャレムとかいったな」

「あんだよ?」

「お前は絶対に許さない。 僕が……僕がここでお前を殺す!」

「は? お前が? 俺を? 殺すぅ?」

「みんなの仇は僕がとる!」

「ギャハハハハハ! ひーひー腹いてぇ」


 ギャレムは腹を抱えて大声で笑い出した。


「馬鹿にするな!」

「……お前はとっとと服を脱いで俺の女になればいいんだよ!」


 そこでギャレムは僕に向かって走り出した。

 更に剣を持った手がブレる。


「速ッ!?」


 ギャレムのあまりの速さに反応が遅れる。

 そこで僕は危険を感じて直感と経験で剣を振った。

 剣からガキンという音して僕はギャレムの攻撃をなんとか防いだ。

 しかし、とてつもない衝撃で手が痺れる。


「へー。 手加減したとはいえ、今のを防ぐのかぁ」

「くっ!」


 僕は痺れた手で剣をギャレムに振る!

 ギャレムはそれを後ろに飛んで避けた。


「おっと危ない」


 ギャレムは愉しそうにそう言った。


「レベル3000は伊達じゃないってことか」

「おぃおぃ間違えるなよ。 俺のレベルは3020だっつーの」

「同じだろ」

「違うね。 大きく違う」


 そこで手の感覚が戻ってくる。

 僕はちらりと握っている剣を見た。

 驚く事に今の一撃で剣にヒビが入っている。

 これでも国宝級の剣なのに……あと何度、打ち合えるか。


「少しずつ服を切り落としてやるよ」

「くそっ!」


 ギャレムは再び走り出した。

 僕はヒビの入った剣を構える。

 そしてギャレムの剣を持つ腕が再びブレた。

 僕は剣を振ってなんとかギャレムと三度打ち合う。

 しかし、一撃だけ防ぎ切れずに腕を浅く斬られた。

 すぐに僕はギャレムから離れる。


「おぉ! 意外にやるねぇ」

「……」


 違う。

 僕がギャレムの攻撃を防げたのは、僕が強かったのではなくギャレムが弱かったからだ。

 いや、弱いというのは違うか……こいつは……そう、まるで経験が足りないよう。

 ギャレムは確かにレベル3000を超える強者で力も強く速さも上だ。

 しかし、それとは別に剣を合わせてみて、こいつには対人の経験があまりないように感じた。

 でも、それはおかしい。

 レベルとは経験によって上がるものだ。

 レベル3000を超える者が経験不足な筈がない。

 しかし、現に手加減されているとはいえ、僕は僕の直感と今までの経験で剣を振ってギャレムの攻撃を防げている。

 これは一体どういう事だ?


「でも、あんまり動くなよ。 腕を少し斬っちまったじゃねえか」


 そこで腕を浅く斬られた事を思い出し、少し痛みがやってくる。

 僕は腕を見ようとして視線を動かして……ネックレスが視界に入った。

 どうやら先程の動きで服の中から外に出てしまったらしい。

 僕はそのネックレスを見て……思い出した。


「んん?」


 そうだ。

 僕にはやらなければいけない使命がある。

 僕は死ぬ訳にいかないんだ。

 ……今の僕は何をやっている!?

 僕のやるべきことは、今ここでみんなの仇を討つことではなく、一刻も早く神王様を起こすことだ!

 

 冷静になれた。

 父上、ありがとうございます。

 僕はネックレスを片手で握る。


「なんだぁ、そのネックレス? それを見たお前の顔が、さっきまでとは全然違うじゃねえか。 ……気になるなぁ」


 マズイ!?

 そう思ったが、遅かった。

 ギャレムの姿が一瞬消えたように見えると、その手に切れたネックレスが握られていた。


「くそっ!」


 すぐにフードを被ろうとするが、もう遅い。

 ネックレスが無くなった事によって僕の姿が戻る。


「……その耳、それに黒髪……お前、帝国が探している王国の王族だったのか」


 ギャレムに僕の正体がバレてしまった。


「こりゃぁお前を俺の女にする訳にはいかなくなったなぁ」

「帝国に連れていくという事か?」

「あぁそうだ。 皇帝が血眼になってお前らを探しているからなぁ」

「何故、そこまでして僕らを?」

「さぁな。 それはしらねぇよ。 ただ、まぁここの調査は正解だったって事だろう。 お前が来たんだからなぁ」

「くそ……」


 何とかして、こいつはから離れて聖域を探さなくては。


「そういや、お前はアレ目的で来たのか?」

「なに?」

「何だ違うのか。 あっちに一軒だけ壊れていない建物があって、何をしても入れないから特別な何かだと思ったんだがなぁ」


 ギャレムは顎をしゃくってそう言った。


「一軒だけ壊れていない建物……入れない……」


 それだ!

 そこが聖域だ、間違いない!

 僕は内心で聖域らしき場所が見つかった事に喜びつつ、さっきみたいな失敗をしないように今度は顔に出さないようにした。


「どうでもいいか。 とりあえずお前は帝国に連れていく……ただ、その前に一回くらいヤっちまっても構わないだろう」

「……」


 どうする?

 どうやって聖域に行く?

 ギャレムを撒くか?

 いや、無理だ。

 なら、ギャレムの攻撃を凌ぎつつ強引に行くしかない!


「腕や足の一本くらい斬り落としても死なないし、ヤレるだろ」

「下衆が……うん? あれは何だ!」


 僕はギャレムの後ろを指差す。


「あ?」


 ギャレムは僕が指差した方向に振り返る。

 今だ!

 僕は着ていたローブを素早く脱いでギャレムに投げつけ、先程ギャレムが示した方向に走り出す。


「そんな手に引っかかるかよ。 バーカ」


 しかし、すぐにギャレムの声が僕の背後から聞こえてくる。

 僕は走りながら、危険を感じて剣を振った。

 剣が悲鳴を上げ、僕の腕に衝撃がはしる。


「よぉく今のを防げたなぁ?」

「……」


 僕は止まらずに走り続ける。

 止まる訳にはいかない。

 何としても聖域にたどり着いて神王様を目覚めさせる!


「今度は鬼ごっこかぁ? オラぁ!」

「ッ!?」


 防ぐ、止まらない。


「さっきまでの威勢はどうした? オラァ!」

「くっ!」


 また防ぐ……止まらない。


「俺を殺すんじゃねぇのかよ! オラァ!」


 まだ防ぐ…………止まらない。


「プレイヤーを恨んでいるんじゃねぇのか? オラァ!」


 まだ防げる………………止まらない。


 そこで旧王都の廃墟群を抜けた。

 そして、僕の目に扉が閉じた建物の姿が映る。


「アレだ!」

「何だ。 やっぱりアレがお前の目的か! オラァ!」

「ぐっ!?」


 そこで僕の剣が今まで以上の悲鳴を上げて……折れた。

 それと同時に足を止めてしまう。


「これで、もう防げないだろぉ? 終わりだ」

「まだだ!」


 ゆっくりと歩いて近付いてくるギャレムに僕は手に持っている折れてしまった剣を投げつけて、再び走り出した。


「往生際が悪いぞ!」


 あと少し……あと少しなんだ!

 走って、走って、走って……そして建物の目前まで来た。


「やった! これで、あと……は……」


 そこで、右足が踏ん張れずにバランスを崩して倒れる。


「え?」


 一瞬、右足から熱を感じて……激痛が僕を襲う。


「ぐああああああああああああああああ!!」

「これでもう逃げられねぇな」


 僕の目に一本の足が落ちている光景が映る。

 それが、ギャレムに斬り飛ばされた僕の足だという事が激痛の中で理解できた。

 今まで感じたことの無い程の痛みだ。

 僕は手で足を押さえる。

 ……痛い……もう駄目だ……これでは動けないよ。

 もう……走れない。


「さぁて、愉しませてもらおうか」


 父上、みんな……ごめんなさい。

 僕は目を閉じて、すべてを諦めようとした。


 そこで、どこからか声が聞こえる気がした。


『無事でいてほしい……だが、父親としては失格だろうが言わなくてはならない。 必ず使命を果たせ』


 父上の声が聞こえた気がした。

 父上、もう無理です。


『……私が、私がこんな弱い身体でなかったら』


 次に兄上の声が聞こえた気がした。

 兄上、僕は駄目だったよ。


『パイア、俺もお前の強さを信じているが気をつけろよ? 奴らは……強えぞ?』

『パイア様……信じております……お気をつけて』


 その次にオビンさんとチャートの声が聞こえた気がした。

 オビンさん、チャート……2人の信用に応えられなかった……注意されたのに……ごめん。


 そこで僕の意識は沈んでいく。


『くそッ……帝国の罰当たり共め!』

『おい、アンタ。 大丈夫か?』

『……でも、この戦争は間違っていると……俺は思う』

 

 ……でも、そこで聞いたことのあるような誰かの声が聞こえた気がした。

 ……戦争……そうだ戦争を止めるために、僕は……。


『アリアお姉ちゃん』


 この声は……わかる。

 これはハナちゃんの声だ。


『わたし……寂しいよ。 もっとアリアお姉ちゃんと一緒に居たい』

『うぅ……うぅ』


 ハナちゃんの泣く姿が脳裏に浮かぶ。

 ハナちゃん泣かないで……。

 どうして、ハナちゃんは泣いているんだっけ?


 そこで僕は思い出す。


 戦争で苦しんでいるすべての人々を救う。

 それが、僕の目的。


『アリアお姉ちゃんーーーーーー!! また、会おうねーーー!!』


 そこで、先程とは違い、ハナちゃんの笑顔が僕の脳裏に浮かんだ。


 そうだ、僕は――。


 意識が急浮上する。


「僕は――みんなの笑顔が見たいんだ」


 もう――痛みは感じない。


 走れないけれど、動けないことなんてない。

 僕は地を這って目の前の扉に向かって進む。


「……おぃおぃ。 いくらなんでも往生際が悪過ぎるだろ」


 少しずつ、少しずつ進んで扉にたどり着いた。

 僕は血が付いた右手で扉に触れる。

 すると、扉が輝いて弾け飛んだ。


「ぐあ! 何だこの光は!?」


 まだだ、まだ扉を開いただけで、神王様を起こしていない。

 僕は気にせずに地を這って建物の中に入っていく。

 建物の中には奥に玉座のような場所があり、その上に石のような物があるだけだった。

 でも、ここに神王様が眠っている筈なんだ。

 僕は進む。


「たくっ。 驚かせやがって……少し目が眩んじまったぞ」


 後ろから足音が聞こえる。

 僕は部屋の中央まで来た。


「神王様! お目覚めください! あなたをみんなが待ち望んでいます!」


 僕は叫ぶ!


「神王様? 誰だそれ? 頭でもおかしくなっちまったか?」


 ギャレムがなんか言っているが気にしない。


「神王様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」










《誰だ……俺の眠りを――邪魔するのはッ!?》

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