第34話 パイアと旧王都とゴブリンとギャレム
第34話 パイアと旧王都とゴブリンとギャレム
注意して見なければ分からない程の旧街道跡を草を掻き分けながら追っていると、何時の間にか日が暮れはじめていた。
「……もうこんな時間なんだ。 どうやら今日はここまでだね」
このまま暗くなってしまったら、ただでさえ分かりにくい旧街道跡が更に分かりにくくなって見失ってしまうかもしれない。
なので、今日はこの付近で野営だね。
僕は腰の剣を抜いて地面に分かりやすく印をつけてから、近くの木の根元に座って食料の干し肉を取り出す。
「はぁ……」
木に体を預けてから僕は干し肉を口に咥える。
これでジャットを出てから2日か……。
干し肉を噛みながら考える。
周囲を警戒しながら草木が生い茂る旧街道跡を追うのは僕の予想以上にキツイものだった。
当たり前だがこんな状況では僕の進みも遅く、僕は焦り始めている。
それだけではない。
僕は不安も感じていた。
父上と兄上は昔、本当にこの道を進んで聖域に行ったのか?
僕は道を間違えているのではないか? と。
そんな事を思っていても今の僕に出来るのは、旧街道跡を追い続けることだけだ。
僕は咥えている干し肉を噛み切って飲み込む。
「道を間違えてたら、どうしようか……いや、大丈夫。 父上が言っていた通りだし間違いないよね」
そこで、なんとなくステータスを僕は確認する。
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名前:パイア・ティターン
種族:兎族
レベル:1367
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「もっと強くなりたい。 みんなを守れるくらいに」
焦りもあるし不安だし強くもなりたい。
僕はそんな事をグルグルと頭の中で考え続けていると、疲労からか眠気がやって来る。
「うう……」
木に体を預けて座ったまま僕は意識を手放した。
♢♢♢
翌朝、僕は昨日地面につけた印から再び旧街道跡を追う為に歩き出した。
昨日と同じように周囲を警戒しながら、生い茂る草を掻き分けて進む。
そうして数時間、旧街道跡を追って進んでいると異変を感じる。
「……なんだ? 気持ち悪い臭いがする」
僕の前方から何処かで嗅いだ事のあるような……気持ち悪い臭いが風に乗ってきていた。
僕は念の為、腰から剣を抜いて前に進んだ。
「これは!?」
そこには周囲に血だと思われる物を撒き散らしたような光景があり、その中心に見たこともない生物が死んでいた。
どうやら死んでいる生物は腐り始めていたらしく、僕が嗅いでいた臭いは腐臭だったようだ。
「……くっ」
僕は自分の表情が変になっているのを感じながら、その腐り始めている生物をよく見る。
その生物は茶色い色の体で頭部に小さな角を生やしていて、人に近い形をしていた。
「この生物がおそらくモンスター……。 茶色い体で小さい角……この特徴のモンスターは知ってる。 たしか……【ゴブリン】とかいったっけ」
ゴブリン……名前と体の特徴以外は割と有名なモンスターだという事くらいしかよく知らない。
しかし、このゴブリン……。
「一体、何に殺されたんだ? 人がこんな所に来るはずも無いし、やっぱり別のモンスターに殺されたのかな?」
なんでこんな所でゴブリンが死んでいるのかは知らないが、モンスターが実際にいることも分かったし、このゴブリンを殺したモンスターが居る可能性もある。
ここから先は今まで以上に警戒しておいた方がいいみたいだ。
僕はそう思い、先へ進むことにした。
♢♢♢
ゴブリンの死体を僕が発見してから1日経った。
僕が通ってきた道にはゴブリンの死体が何故か他にも転がっていた。
何が起きているのか僕にはわからない。
そして未だに僕はこの草木が生い茂る中を歩いている。
「はぁ……いつになったらこの草木を抜けられるのか……旧王都はまだなの?」
いい加減にこの場所を抜けたい。
そう思って歩いていると前方の草木の間から光が漏れているのを発見する。
「……もしかして、着いたの?」
僕は急いで草木を掻き分け前に進んだ。
そして、僕は草木の中を抜けた。
「これは!」
僕の目の前には廃墟となった街並みが広がっていた。
屋根が無い建物、壁が無い建物、原型がない建物……様々だ。
間違いなく放置されてから何年も経っている。
そして、ここが旧王都だと僕は確信した。
「やっと……着いたんだ。 旧王都に!」
やっと旧王都にたどり着いたことに喜んでいると、僕は自分の目的を思い出す。
「っと、こうしちゃいられない。 すぐに聖域を探さそう。 一刻も早く神王様を起こさなくてはいけないんだ!」
僕はデコボコの道に一歩踏み出して、止まる。
「……聖域ってどこだろう? この旧王都の外れにあるってのは聞いているけど……わからない。 しょうがない……地道に探そう」
僕はそう考えて再び歩き出した。
廃墟の街並みを見ながら僕は歩いて聖域を探す。
すると幅の広い道、昔の大通りだったと思われる場所に出た。
「これ、街の中央に向かってるのかな?」
そんな事を思いながら幅の広い道を進むことに決めて、数歩進むと地面に赤い跡を発見する。
「なんだこれ?」
顔を近付けてよく見る。
「これ……まさか血なの?」
どうやら僕の見たところこれは血のようだ。
「どうしてこんな所に血、血痕が……それにこの血痕そんなに昔のものには見えない」
そう、少し乾いてはいるが何年も昔のものには見えなかった。
「しかも、この血痕……この先の道に続いてる?」
血痕は道の先に飛んでいる感じだった。
「……モンスターでも住み着いているのかも」
僕は腰から剣をゆっくり抜いて、道の先に進む。
すると、そこにも血痕があった。
僕は気になって血痕を慎重に追って道を進んだ。
やがて、僕は広場のような場所にたどり着いた。
そこには――。
「うっ……」
数え切れないほどのゴブリンの死体が山のように積み重なっている光景が広がっていた。
広場はゴブリンの死体の山で溢れ、周囲は血で赤く染まっている。
僕はそのあまりの光景に気持ち悪くなって剣を手放し膝をつき、口を手で押さえる。
こんな酷い光景を僕は見たことがなかった。
いくらモンスターとはいえ、その姿は人型で赤い血を流す。
僕にはまるで人間が大量に殺されて積み重なっているように見えた。
「はぁ……はぁ……」
なんとか吐いてしまうのを僕は脂汗を流しながら耐えて、あれは人間じゃない、モンスターだ、と思いながらもう一度その光景を見る。
そこで始めて僕はゴブリンの死体の上に誰かが座っている事に気が付いた。
「あれは……まさか……人?」
そう呟くと、そのゴブリンの死体上に座った誰かが立ち上がって振り返る。
そして僕と目が合った。
「ッツ!?」
その瞬間、僕の中の危機管理能力が最大級の反応をした。
僕はすぐに落とした剣を拾い、構える。
そいつは僕に向かって歩いてくる。
どうやらそいつは普人の男のようで、金髪に青い目をしていた。
そしてその男はその身に見たことのない素材で出来た革鎧を着ていて、腰に珍しい形状の剣を差している。
その剣は水色のような色をしていて――。
「まさか……ミスリルの剣!?」
「正解! ぎゃはははは、よぉくわかったな!」
男は立ち止まりそう言った。
しかし、ミスリルの剣なんて……ミスリルは三大希少金属と言われる金属……オビンさん以外の人がミスリルの剣を持っているのを初めて見た。
「しぃかも、このミスリルの剣は最大強化済みだぜぇ!」
「最大強化?」
最大強化とはなんだ?
最大強化……意味はわかる。
一番上まで強化したということ。
だが、剣を最大強化というのは……まさか剣を強くしたという意味か?
「あぁそぉかーお前らバカにはわかんねぇだったなぁー悪い悪い」
そう言いながらもその男は少しも悪く感じていない様子だ。
「で? なぁんでお前はこんな所に居るんだよ?」
「それはこっちのセリフだ! どうしてお前見たいな男がこの旧王都に居る? そしてこの光景の原因はお前か!」
「お前じゃねぇよ。 おれぁ【ギャレム】ってんだ。 で、この光景ってのはこのクソゴブリンどものことか?」
ギャレムと名乗った男は側に転がっていたゴブリンの死体を蹴り飛ばす。
飛んでいったゴブリンは山の一つに突っ込んだ。
「……そうだ」
「こいつらはなぁ……ここに住み着いていたみたいで襲ってきたんだよ。 だから全部ぶっ殺してやったのさぁ」
「そうか……」
やはりこのゴブリンたちは旧王都に住み着いていて、この男がこんな光景を作ったのか。
「もう一つの質問に答えろ!」
「なぁんで俺が律儀にお前の質問に答えなきゃいけねぇんだよ」
「いいから答えろ!」
僕はギャレムに剣を向ける。
「あぁはいはい。 いいぜ、答えてやぁるよ。 俺はここの調査に来たんだ」
「調査?」
「そ、調査。 お偉いさんに頼まれてなぁー。 しっかしクッソダルい調査だわ」
つまらなそうにギャレムは言う。
「なんの調査だ!? そのお偉いさんってのは誰だ!?」
「さぁてね。 サービスはここまでだ」
「ふざけるな!」
「ふざけてなんかねぇよ。 こぉんなクッソダルい調査、嫌々だったんだが……来てみるもんだな」
「何を言って」
「お前! 声からして若い女だろ?」
「……」
自分の事を当てられて、つい黙ってしまう。
「図星か。 こりゃ運が回ってきたぜ! 攻め落とした街の女は襲えねぇから溜まってたんだよ」
そこでこいつの言いたいことが理解できた。
「服を剥いで顔と身体が良けりゃ俺の女にしてやるぜ」
なんて奴だ!
僕は剣を強く握りしめる。
「下衆がッ! 僕はお前なんかに」
「ほぉー! ボクっ娘かよ! 俺好みだわ。 まずは顔を見せてもらおうか」
そうギャレムという男が言うと、その姿が一瞬消えて現れる。
「何を!」
「うおぉ。 顔も最高! ますます俺好みだわ!」
「ッツ!?」
そこで僕のフードが脱げている事に気が付いた。
「一体何が!?」
「わかんねぇのか? 俺が脱がしてやったんだよ!」
「馬鹿なッ!? あの一瞬で!?」
ありえない!
まさかあの一瞬で動いて僕のフードを脱がしたとでもいうのか。
「馬鹿じゃねぇよ。 さて、少しずつ脱がしていってやるよ」
そう言ってギャレムはミスリルの剣を腰から抜いた。
「ッツ!?」
それだけで、とんでもないプレッシャーが僕を襲う。
これではまるで僕の知っている王国最強のオビンさん以上……そうだレンズを。
そこで僕は父上から授けられた王家の魔法具のガラスレンズを思い出す。
これを使えば相手の強さがわかるはず。
僕は慌てて片手で魔法具のレンズを取り出す。
「うん? なんだそれ?」
僕はガラスのレンズ越しにギャレムを見る。
「レベル……3020」
あまりの驚きに僕は見たままを口から零してしまう。
「ほー。 それ、相手のレベルがわかる魔法具か。 良いもん持ってんじゃねぇか」
嘘だ。
嘘だ嘘だ。
「嘘だ嘘だ嘘だ! そんなレベルの人間居るは……ず……」
そこで僕は気付いてしまう。
――最悪の可能性に。
「お? やっと気が付いたか?」
「オマエェ……オマエェ!」
ギャレムは愉快そうにその顔に笑みを浮かべる。
「【ぷれいやー】かぁぁぁぁぁ!!!」
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