第19話 ドラゴンヴァンパイアとレクとタテガミ族

第19話 ドラゴンヴァンパイアとレクとタテガミ族




「あのッ罰当たりどもめッ!!」

「まぁ落ち着け。 そう怒ると身体に悪いぞ、リーウ?」

「……エルト様がそう言われるのでしたら」


 怒るリーウ殿をティターン様が宥めると、リーウ殿は渋々といった感じで怒りを抑えた。

 その怒るリーウ殿の姿を見て驚いていた私はリーウ殿が怒りを抑えたのを見て気を取り直す。


「それにしてもタテガミ族……あぁ獅子族のことか」

「獅子族ですか?」


 ティターン様が言った獅子族という言葉が気になって私は聞き返してしまう。


「あぁ獅子族というのは、俺がタテガミ族のことを勝手にそう呼んでいるだけだ。 気にしなくていいぞ。 ……それでタテガミ族が来るまでどれぐらい時間がある?」

「はッ。 分かりました……250の敵が第1防衛ラインに来るまでおよそ3時間あります」

「なら時間はまだあるな……それでレク、お前はこの状況をどう考えている?」


 ティターン様どこか楽しそうな雰囲気で私の考えを聞かれたので、私は先程補佐の若い騎士と話していたとおりの事を話すことにした。


「間違いなくタテガミ族がこのティターン様の国を攻めてきているのだと私は考えています」

「そうだろうな。 ……それで200の4種族についてはどうだ?」

「昔の情報だったと思いますが、タテガミ族は倒した相手を自分の支配下に置く種族だった筈です。 だから昔の私たち兎族も狙われたのでしょう。 200の4種族ですが、おそらくはタテガミ族に支配されている種族たちで昔にティターン様がタテガミ族を殺した事を警戒して先遣隊としてこの国を攻めさせるつもりだと」

「なるほど、倒した相手を支配下に置く種族か。 それが確かならレク、お前の考えは間違っていないだろう」

「はッ」


 どうやらティターン様も私と同じ考えなようだ。


「俺の考えだが、おそらくタテガミ族というのは自分たちにない技術を持っている種族を力で無理矢理自分たちの支配下に置いてその技術を自分たちの為に使わせるのだろう」


 凄い……ティターン様は私が思い付かなかったタテガミ族の他種族を攻撃する理由まで一気に考え出してしまった……流石はティターン様だ。


「なるほど、流石はティターン様です。 私ではそこまで思い付かなかったです。 では今回の攻撃も?」

「大方、タテガミ族がこの国が急速に大きくなっていくのを見てその技術を欲しくなったのだろう」


 確かにそれなら今回の攻撃の理由も考えられる……だが1つだけ気になることがある。


「どうした? 何か気にかかる事でもあったか?」


 私の顔を見てティターン様が聞いてこられる。


「……はい。 1つだけ気になる事があります」

「なんだ? 言ってみろ」

「はッ。 タテガミ族はおそらくティターン様を警戒しているとはいえ……ティターン様の居られるこの国を攻撃してきますか? 私だったら絶対に手を出さないと思いますが。 何せ過去にティターン様の御力を知っているのですから」

「うーむ」


 ティターン様は上を向いて少し考えるとすぐにこちらを見た。


「理由はいくつか思いつくなぁ」

「本当ですか!?」


 さ、流石はティターン様だ! もう分からない事なんてないのでは!?


「先ず1つにこの国を見たから」

「国を見たから技術が欲しいという事ですよね?」

「それもあるが、おそらくタテガミ族はどんどん大きくなっていくこの国を見て脅威と感じたのだろう。 このままでは自分たちよりも強い力を持って自分たちを脅かすのではってな」

「な、なるほど」


 確かにこの国の発展速度は凄まじいからな……脅威と感じられるだろう……しかし、ティターン様が居られるから私だったらそれでも攻めないと思う。


「しかし、それでもこの国を攻めますかな?」

「それで次の理由だが……おそらくタテガミ族はこの国のトップが俺だとは知らない。 もっと言うと俺がお前たち兎族と一緒に居るのを知らないのだろう」

「なッ!? 何故ですか? 確かティターン様が私たち兎族と最初に出会った時、そこにタテガミ族も居たのでは?」


 私はティターン様の言葉に驚く。

 私が習った歴史ではティターン様と私たち兎族、それにタテガミ族の三者が揃って居た筈だ。


「そ、そうか! 確かにタテガミ族の奴らは僕たち兎族がティターン様と行動を共にしているのは知らないかもしれない!」


 そこで、今まで怒りを抑えて私とティターン様が話しているのを聞いていたリーウ殿が声を上げた。

 まさか、リーウ殿は知っているのか? ……いやティターン様と出会った時から行動を共にしているリーウ殿なら知っていてもおかしくないのか。


「思い出したかリーウ?」

「はい、エルト様」

「……どういうことなんですか?」


 私は気になってリーウ殿を見て聞いてみた。


「いいですかレク。 僕たち兎族がタテガミ族に追われている時にエルト様と出会ったのは知っていますね?」

「はい。 そう聞いています」

「エルト様は最初魔圧を放出して僕たちとタテガミ族の間に空から降りられました」

「魔圧……ですか」


 魔圧……過去に学校の授業で聞いた事があるが、私はそれがどのような威圧なのか感じた事がないので知らない。


「そうです。 その魔圧の影響で僕たち兎族とタテガミ族は動けなくなりました。 しかし、タテガミ族はその魔圧の中でもエルト様に武器を向けた者が居たのです」

「ティターン様に武器を向けるなど……馬鹿なことを」

「はい。 すぐにそのタテガミ族はエルト様に殺されました。 そのエルト様のお姿を見たタテガミ族の殆どは身体を震わせて背を向け逃げて行きました。 エルト様は慈悲深く逃げたタテガミ族を見逃しましたが、その場に残った愚かなタテガミ族は全員エルト様が殺します。 そこからなのです、僕たち兎族とエルト様が接触するのは」

「それでは……兎族とティターン様が友好的に接触するのをタテガミ族は見ていない? ……その場にはタテガミ族は残っていなかったのですか!?」

「そういうことです。 なのでタテガミ族は僕たち兎族がエルト様と行動を共にし始めるのを知らない可能性が高い」


 はぁ〜凄い。

 間近でこんな伝説のような話を聞けるとは思っていなかった。

 学校の授業や親からはティターン様が私たち兎族を救い、タテガミ族を殺したとしか教えられなかったからな。


「確かにそれならこの国を攻撃するのも考えられるかもしれませんね。 タテガミ族はこの国を兎族が支配していると思っているのですから」

「そういう事だ……だが、それだけではない」

「え? どういうことですか?」


 まさかまだティターン様には理由が思い付くのだろうか。


「世代交代……おそらくこれが一番大きな理由だろう」

「世代交代?」

「あぁそうだ。 俺がお前たち兎族とタテガミ族と出会ったのは神聖暦が出来る前、もう50年以上前のことだ。 今の平均寿命がタテガミ族と兎族で同じなら、もうとっくにタテガミ族は当時と世代が変わっているだろう。 しかも、あの時逃げたタテガミ族たちなんて生きてはいない筈だ」

「……確かにそうですね」

「自分たちタテガミ族が兎族を襲って失敗した出来事なら知っているだろうが、その詳細なんて語り継いでいるかどうかも分からない。 レクだってさっきまで俺と兎族の出会いの詳細な事なんて知らなかっただろ?」

「た、確かに!」

「それにタテガミ族はどうやら力に自信がある者たちらしいし、いつまでもよく分からない過去を気にしているような者でもないだろう。今では当時生まれていなかった者がタテガミ族を率いている可能性の方が高いしな」

「なるほど、それで世代交代……ですか」


 今のティターン様の言葉に私はこれまでにない程納得した。


「さて、タテガミ族が攻めてくる理由も納得できたようだし聞かせてもらうぞ」


 今までのどこか楽しんでいるような雰囲気とは打って変わりティターン様が真剣な表情で私を見据える。

 私も少し緩み始めていた身体に力を入れてティターン様の方を向く。


「それでレク。 今、この国に攻めてきている250のタテガミ族の軍勢をお前は打ち倒すことが出来るか?」

「はッ! 出来ます!」


 ティターン様に真剣な表情でそう言われて出来ないと答えられる訳がない。

 それに私と白兎魔法騎士団には自信もあるし魔法というティターン様から授けられた力もある。

 タテガミ族という250くらいの軍勢に負ける筈がない!


「我々白兎魔法騎士団にはティターン様から授けられた魔法という力も技術もあります! たった250の軍勢に負けたりなどしません! 安心してお任せください!!」

(……ふっ。 これも良い経験か)


 その時、ティターン様が聞き取れない小さな声で何かを言った気がした。


「……今、何か?」

「いや、何でもない。 ……ではレク、神王として命ずる! 誇り高き白兎魔法騎士団の騎士団長として指揮を執り、タテガミ族の軍勢を打ち倒せ!」

「はッ!!」


 私はティターン様に一礼してティターン様の家から出て戦場に向かった。



♢♢♢



「……エルト様。 まさかエルト様はこの戦い、負けると思っているのですか?」

「急に何だリーウ?」

「いえ、先程のエルト様の呟きが気になりまして」

「……お前には聞こえていたか」


 つい心の中で呟いた筈が少し声に出てしまっていたらしい。

 どうやらそれを聞いたリーウが色々と考えているようだ。


「はい。 先程の言い方だと……その……まるで負けるのが良い経験になる、と言っているような感じがしてしまいます」

「リーウ……お前にはそう聞こえたのか」

「はい。 ……エルト様が直々に白兎魔法騎士団に魔法を教えたり稽古をしているのを知っているので、僕には白兎魔法騎士団が負ける可能性なんて万に1つもないと思っているのですが……」


 ふむ……やはりリーウもレクと同じような考えをしている……が。


「やはりリーウ……お前は優秀だな」

「は? ああいえ、ありがとうございます」

「……確かに俺は今回のタテガミ族との戦い……負けるかどうかは分からない……が、白兎魔法騎士団が完勝するとは思っていない」

「そうですか……やはりエルト様には僕たちが分からない何かを分かっておられるのですね」

「ふっ……さてな」


 別に俺はリーウが思っている程深く何かを考えている訳ではないが、分かることもある。


「それにしてもリーウ」

「何でしょうか?」

「いいのか? 俺が白兎魔法騎士団がお前たちが思っている程、タテガミ族に簡単には勝てないと思っている事をレクに伝えなくて」

「構いません」


 リーウはゆっくりと首を横に振りながらそう言った。


「それはエルト様が必要だと考えた事なのでしょう。 なら構わないのです。 ……たとえ僕たち兎族にどれ程の被害が出ようともエルト様がそう考えたのなら僕はただあなた様に従うのみです」


 そういうことを言うのが何だか昔の兎族の族長っぽくてつい自分の口角が上がってしまうのを感じる。


「そうか……益々お前が昔の兎族の族長に見えてきたよ」

「それはそれは光栄なことです」

「お前は歳をとっても相変わらずだな……安心しろ、とは言えないかもしれんが白兎魔法騎士団以外に被害は出ないさ」

「そうですか」

「リーウ、お前はこれから町にいる騎士団以外の兎族たちに合図があるまで家に閉じこもっているよう言っておいてくれ」

「分かりました……エルト様はどうなさるので?」

「俺は……ここで報告を待つさ」

「そうですか……分かりました、ではこれで失礼します」


 側にいたリーウは俺にゆっくりと一礼して家から出て行った。


「さて、どうなるのやら」


 俺は椅子に座りなおして目を閉じた。

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